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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第14章 雷の歌
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出会ったばかりの頃のひ弱そうな牢屋番4

 

◆◆◆




 コイツは何を言っているのだ?


 いや、いくら心の中でとはいえ、コイツ呼ばわりは駄目だな。トリスタ様。


 トリスタ様の指示のもとに俺が行動を起こしたとして、それがなぜ魔女に対する反抗の印となるのか。


 例えば魔女を愛してしまったからこそ、そういう行為に及ぶ者もいるのでは無いだろうか?

 トリスタ様の指示によってこれ幸いと、彼女を喜んで犯すことだってあるだろう。


 そうだ。

 きっとそうだ。




 でも、その言葉をトリスタ様にただ弁明しただけでは、俺が魔女に気を掛けていないという証明にはならないだろう。




 こんなことはやりたくない。

 魔女が女だからとか見た目が子どもだからとかは関係無く、無防備な者を攻撃するのは嫌だ。


 きっと、実行したら後で後悔する。

 ずっと彼女の顔やそこについた(あざ)が頭の中で残って離れなくなるだろう。




 だが、俺はそれを実行した。




 自らの行いに対する残悔と牢屋番という仕事への熱量の喪失が生まれてきていた。


「もし、俺が魔女を愛していれば、トリスタ様のご命令は意味の無いものとなってしまいます。それに俺にとって魔女は得体の知れない忌避すべき存在です。後生ですから、どうか彼女と交わるのだけはどうか……」

「主の性的嗜好が暴力に傾いているだけという可能性は考慮しないのか? 魔女への崇拝を暴力によって昇華していないと、証明できるのか?」

「そ、それは……」

「つまり主の言葉は、言い出したらキリが無い論ずるに値しないことだ」


 そう言いつつもトリスタ様は「まあ良い」と続けてくるりと反転し、魔女から離れた。


「一先ずは、魔女の顔をそこまでにしたのなら、魔女に肩を持つような者では無いと信じる」




 トリスタ様は魔女か俺かをひと睨みして、そして部屋を出て行った。




 扉が閉まって、階段を上がっていく音に集中して、その音が聞こえなくなってもまだ安心はできない。

 念のためにと部屋の扉を開けて外に誰もいないことを確認してから、すぐに扉を閉じて魔女に傷を治すように命令する。


 俺の命令に対して、魔女は歪んだ笑顔で応答した。

 なぜ笑うのか不思議で仕方が無かった。こいつには怒りの感情は一切無いのか?


「証拠隠滅? 私につけた傷を自分で見る羽目になるのは後ろめたいのかい?」


 はっきり言って彼女の言う通りだ。

 隊長含めた他の牢屋番の毎日の下卑た行いを軽蔑していたが、俺もその土俵に立ち上がりそうになっていることが後ろめたかった。




 そうだ。


 魔女が、女だからとか見た目が子どもだからとかは関係無い、というのは嘘だ。

 女の子だからこそ、自身の行いと向き合いたく無かったのだ。より自分が残虐な行いをしているということを認めたく無かったのだ。


 俺は弱い。


「ふふん。君は意外と分かりやすいね。面白い人間だね」




◆◆◆




 寒気で目が覚めた。


 塔の中にいたはずだが、どうやら全て焼け落ちてしまっているようで、空から直接雨が流れ落ちてきていた。

 元牢屋である半地下のこの空間に溜まった水は、煙が上がっていて温かった。


 両腕はある。

 肌は完全に水分を失っていて、赤みがかっている。火傷を負っているのは確かだろう。




 リリフラメルやラルルカ、灰色の魔女、そして愛する桃衣(とうえ)の魔女はどこにいるのか。


 立ちこめる煙で見えない周囲の景色を注意深く眺めながらも、まずは焼かれたこの身を治癒を優先させる。




 目で得られる以外の情報で今最も気になるのは音だ。


 空の方から男たちの怒号が響き渡っている。

 他には地響きを伴う衝撃音が聞こえている。それだけでこの場に戦いが起きているということが分かった。




 近くで雷が落ちた。


次回は8月10日更新予定です。

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