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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第14章 雷の歌
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出会ったばかりの頃のひ弱そうな牢屋番


◆◆◆




リリフラメルの合図でヒューゴ君の位置が分かった。

だから、横にいる赤髪の彼に指を差して教えてあげた。


「あの炎の渦の下にヒューゴ君がいるはずだよ」

「いるって言われても……あんな状態じゃヒューゴも死んでるっしょ」

「安心しなよ。今のヒューゴ君は私と同じで、死んでも死なないから」


彼は今1つ信じられないと言った顔をしている。

嘘なんか言っていないのに、失礼な男だね。




「しかし、見違える程美人になったもんだなあ。捕虜だった時には、あんなにがりがりで汚れた髪色だったのにさ」

「悪いけれど、今の私はヒューゴ君の良き妻だから、君の口説きには乗らないよ」

「……本当に?」

「……」

「本当に?」

「……その予定だよ」




数え切れないくらいキスはしているし、何度だって彼に愛されているのだから、もう夫婦だと言っても過言では無いはず!

それなのに、彼は信じられないと言った風に笑うんだ。




失礼な男だね。




「あいつもいつの間にか幸せな男になったもんだ。こんな美女とずっと過ごしているなんて、幸せ以外の何ものでも無いさ」


前言撤回。

悪い男では無いかもしれないね。




「兎に角、君のおかげでヒューゴ君は酷い目に遭ったのだから、友達として彼を救ってやったらどうかい?」

「ランドたちからの報告で、ヒューゴがあの城に移送されたことは確かなようだし、魔女さんが嘘をついていないことは分かった。そうだよな?」


赤髪の彼がすぐ後ろで命令を待っている3人の男に目配せで、報告した内容の確認を今一度行うと、それぞれが返事した。


「魔女の奇襲でヒューゴを1度見失ってしまいましたが、今度は見失っておりません」

「それに、ヴィリーの鼻もヒューゴがここにいると言っています。だよな?」

「……ヴィリーじゃなくてヴィルリィだから」

「いや、今はその下りは勘弁してくれよ……」


一見、まとまりの無さそうな彼の部下たちだけれど、彼が手で制するとすぐに3人は黙って、彼の次の言葉を待ち始めた。


「それじゃあ、行ってくるよ。小さな魔女さんの未来の旦那を助け出そう」

「ふふん、やっぱり馬鹿にしているね?」




彼はにっこりと笑ったけれど私の質問には答えずに、部下たちに合図を送って進み出した。

4人の男たちは腰を低くして燃え盛る塔へ向かった。






そして、彼等がある程度進んだのを確認してから、私は城門に向けて手をかざして城に混乱を招く魔法を放ってあげた。






「良かったのか?」


人の皮を被ったエリスロースが尋ねてきたけれど、何のことを聞いているのか分からなかったから質問を返してみた。


「お前がしていることは、魔女協会からしてみれば黒衣(こくえ)の魔女と何ら変わらない。狂っているとは言え、紫衣(しえ)の魔女の望みに背けば、協会に属する全ての魔女を敵に回すことと同じだ」


何だ。

そんなことかい。


「ヒューゴ君のためだから、何が起きようとも気にしないよ」

「そのヒューゴとやらのことも気になっているのだが、なぜ、お前は助けに行かない?」


何だ。

そんなことかい。


「彼は、私がこの国で酷い目に遭ったことを思い出して欲しくないと思って、こうして1人で乗り込んで行ったからね。私がこの地に来ていると知ったら、彼に気を遣わせてしまうだろうし、何より……」


何より私はエリスロースから他人の記憶を盗み見る血の魔法で、ヒューゴ君が受けた拷問の数々を目の当たりにしてきたからね。


私がこの国で受けてきたことよりも、彼は辛くて痛くて酷い目に遭った。


私は望んで痛みを引き受けたけれど、彼は望まぬ痛みを与えられた。

その違いが、どれ程苦しみを倍増させるかは私は知っているつもりだからね。




だから……。


「私があの城に行ってしまったら、怒りで皆殺しにしてしまいそうだからね」


彼の守りたかった命を奪ってしまいそうなぐらい、私は怒っている。

とても怒っているよ。




「そして、何よりも……」

「クソガキィ!!」

「彼女の相手をしてあげないといけないからね」


水色のマントを羽織った顔面どろどろの女が雲と雨を引き連れて、私たちの方へやって来た。

フードを被って、前が開いているマントもしっかり閉じて準備をする。


「エリスロース君、あの雨は触ってはいけないよ」

「魔法か?」

「うん。君の血の魔法と同じで、少しでも雨粒が身に触れれば、彼女に攻撃の機会を与えることになるよ」

「それは、大変だな」




水衣(すいえ)の魔女が作った雨雲は、あっという間に私たちの所にまで到達して雨を降らせた。

当然、彼女は水を得た魚のようにうきうきとしているだろうね。


「やあ、久し振りだね」

「アスコルトォ!! お前のせいだ!! お前のせいで、熱い! 渇く渇く!! 熱い!!」

「ごめんね」

「お前の全部を奪ってやる!! お前の幸せを奪ってやる!!」




「私は!! 水衣の!! 魔女! カルメ・イシュタイン!!!」




挑発に乗ってくれた水衣の魔女は名乗りを上げた。


魔女界では、魔女が名前を明かすのは本来御法度。それでも名乗りを上げるのは宣戦布告の時だけ。

本来なら与えられた(かんむり)、彼女なら『水衣』を賭けて戦い、負けたらその冠を奪われることになる。


冠を持っていた魔女が戦いに負ければ、自分を識別してくれるはずの名を失うことになるし、魔女としての矜持もへし折られることになる。

ほとんどが矜持だけで生きている魔女にとっては、戦いに負けることは死ぬのと同じぐらい辛いこと。


とはいえ私は黄衣(おうえ)という冠を既に失っているから、君の宣戦布告に応えられるものが無い。

でも、何も賭けないのは可哀想だから、まあせめて、ラルルカに派手に折り曲げられた魔女としての矜持ぐらいは賭けてあげても良いかな。




「ただの魔女。リリベル・アスコルトだよ」


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