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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第14章 雷の歌
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色欲に溺れ芸術を愛する魔女4

「あの魔女の騎士っていうことは、あの魔女の居場所を知っているっていうことだよね」


 彼女の言葉と共に、俺の首が徐々に屋根下で起きている戦いに向けられる。

 もちろん俺の意志とは無関係だ。


 兜は丁寧に取り外されて、周囲の様子がよく見えるようになり、鎧は強い力で引き剥がされる。ただの部品になった鎧の欠片にはそれぞれ、糸がくっついているように見えた。




「言うと思っているのか」


 灰色の魔女は微笑みしか返さなかった。




「言ってくれたら愛してあげるわよお」


 いつの間にかすぐ横に移動してきた桃衣(とうえ)の魔女が、身動きの取れない俺の身体をまさぐり始める。

 本当は、耳に入ってくる彼女の舌の感触を気持ち悪いと思うべきなのに、彼女への恋慕を寄せてしそれを許してしまう。


 愛してしまいそうになる。




 桃衣の魔女は挑発するように、指先を身体中に這わせて愛撫してくる。


 もう一方の手は屋根下で起きている戦いに向けて指差していて、俺にその様子を見ろと言っているようだった。


「私のココ、リリベルちゃんのなんかよりも、もっと気持ち良いわよお?」

「やめろ」




 俺にリリベルの居場所を聞き出そうとしている2人が、もっと言えば桃衣の魔女が何をしようとしているのかが分かってしまった。


 俺は彼女にやめるよう懇願した。

 その懇願が無意味であると知っていたのに。




「でもねえ。この世にあるどんな性交よりも、もっと気持ち良いものがあるのよお?」

「やめろ!!」




 桃衣の魔女の吐息が耳にかかるその度に、気をどこかにやってしまいそうになる。


 リリベルに対する想いが、俺の意志に反して掻き消されようとしている。


 だが、それと同じぐらい危惧すべきことが目の前で起きようとしている。




 そして、桃衣の魔女は遂にそれを実行してしまった。




『私を愛してよお』

「やめろ!!!」




 彼女の一言で戦いが起きている中心の兵士たちが爆ぜた。




 固定された首が爆ぜる瞬間の全てを見せてくれた。全てを見届けろと言わんばかりに、どんなに身をよじっても思う通りに視界は動かせなかった。




 人間の身体が内側から盛り上がり、皮が紙吹雪のように舞い上がっている。ひらひらと舞う皮よりも勢いの良い肉や骨が細やかに飛び散り花開く。最後に臓物が上空へ吹き上がる


 あちこちにいる肉体が爆ぜて、そこら中で身体の破片が舞い上がる。


 爆ぜた人の近くにいた別の兵士は、その身に加速した骨片を身に受け、鎧ごと貫かれていった。

 爆ぜた人を中心にして、皆が後ろに倒れていく様も、桃衣の魔女にとっては芸術なのだろう。


 そして、爆発の中心部の威力は凄まじく、人間が空へ舞い上がっていくのが見えた。

 その人間が更に弾けて空中で四方八方に内容物をぶち撒ける。


 爆発によって起こる数多の悲鳴も、彼女にとっては芸術の1つなのだろう。


 俺の耳元で彼女が妖艶に喘いでいた。




 不快だったはずのその声は、いつの間にか耳の中に心地良く入ってくるようになった。声を聞くだけで愛おしくなってしまう。


 桃衣の魔女を好きになってしまう。


 この身が解かれたなら、すぐにでも彼女を抱きたい。






 桃衣の魔女は爆発を受けても辛うじて生き残っていた者を()()()、入念に爆発させた。

 戦いの音はまだ鳴り響いているが、少なくともこの辺りでは魔女と俺以外の命の音はしなかった。




「この程度の数の人間が死んで悲しむっていうことは、もっと殺せば苦しむっていうことだよね?」




 両腕が千切れているのだから、大量の出血で死ぬと思っていたが、いつまで経っても死ぬ様子が無い。

 早く死んで反撃に出なければならないというのに、その機会がやってくる気配は無い。


「あらあ、カルメちゃんじゃない」


 辛うじて視界の端に残っていた灰色の魔女の下から、鮮やかな色のマントが飛び出てくる。

 水衣(すいえ)という冠がついた名と得意とする魔法が水であるという割には、その色はどちらかと言えば空の色に近い。


 屋根に着地すると早足で俺の目の前まで来て、その全貌を見せた。


 リリフラメルと同じとても綺麗な青色の髪を持っていて、マントの色よりも髪の方が水のイメージに近い。

 マントの下に着ている服は、常に染み出ている体液で濡れていて、最悪の臭いを漂わせていた。


 顔に関しては酷いものだった。


 焼け爛れた顔は、表情すら読み取ることはできない。

 目蓋の筋肉を失っているからか眼球が常に開いていて、真っ赤に充血している。

 何かの液体が常に表出していて、顎まで伝ってポタポタと垂れている。




 その姿は怒りと憎しみに満たされてしまったリリフラメルとそっくりであった。




「あのガキはどこだ!! どこにいやがんだアァ!?」


 女性の口から出てくる声色では無かった。猟犬が唸った時のようなとても低い音で、若干かすれて聞こえるから、恐らく喉が潰れている。


 答える前から、爛れた手が俺の口を塞いでいて、その直後に大量の水が流し込まれる。

 俺の返事を聞く前に彼女の八つ当たりが始まった。




 意識して水を飲むのと、無理矢理に水を流し込まれるのとでは、感じ方は全く異なる。

 強制的に流れ続ける水が肺にも入ってしまい咳き込んでしまう。


 胃に入りすぎた水を吐き出そうとする無意識の身体の動きも起きている。


 しかし、吐き出したい水は、絶え間無く流れ込む水に押し戻される。




「ああ! ああ!! ああ!!! あああ!! 熱い熱い熱いィ! 早く、さっさと、答えろ!! 答える気がねえのか!?」


 そもそも答えさせる気がコイツには無い。

 口を閉じても、口内から水が発生しているみたいで、常に水が流し込まれている。




 身体を固定されて何も抵抗できないまま、俺はひたすら水を流し込まれた。


 そして、苦しみが続いて続いて、パンッと腹の方で音が鳴った。




「おい灰衣!! こいつの胃を……」

「胃が……破裂……ことは……やりすぎ……だよね」

「もっと……気持ち良い……?」


 魔女たちの姦しい声を最後に、俺の意識はそこで途切れてしまった。


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