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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第2章 弱い騎士殿の初めてのあれこれ
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初めての魔女会

 ある日。


 朝の食事準備を行なっていた時のこと。

 野菜を詰め込んだスープに調味料を入れて味見をすると丁度良い塩梅だったので、次はパン屋で買っておいたパンを調理する。

 調理すると言っても蒸して柔らかくするだけだ。

 今の流行りなのか知らないが、そのまま食べると馬鹿みたいに硬くて歯が欠けてしまいそうになる。


「おはよう」


 ヒューゴ君が手紙を私に渡そうとするが、私は今手が離せないので彼にどこからの手紙なのか聞いてみた。


「今まで何度か届いているのだが、魔女協会からの手紙だ。封筒に直接『魔女会に出席しろ』って殴り書きがあるのだが」

「あ、忘れていた」


 行かなきゃとは思っていたけれど忘れいていた。魔女会よりもヒューゴ君の授業を優先してしまっていた。

 そろそろヤバいかもしれない。


「朝食の後、私と一緒に来てくれないか」

「もちろんだが、魔女会って一体何なのだ?」


 そうか。ヒューゴ君は魔女会に出席するのは初めてだったか。






 魔女会は世界中に散らばる魔女が魔女聖堂という場所で一同に会することを指す。

 魔女聖堂に現れる者は魔女か、魔女の弟子とか付き人ぐらいだ。

 例えば私の目の前にいる碧衣の魔女は、後ろにぞろぞろと魔女見習いの弟子を引き連れている。その数の多さで周囲を威嚇しているようにも見える。


「カラフルな所だな」

「魔女の冠の数だけ色があるよ」


 私なら『黄衣』だから黄色のマントを羽織っているし、『碧衣』だったら青緑色のマントを羽織っている。


「マントの装飾が皆似通っているように見えるが、支給されている物だったりするのか?」

「そうだね。魔女会で冠を名乗って良いと判断されれば、その人に冠と衣が渡されるんだよ」

「ああ! やっと分かった。牢屋で大事にしていた布切れはそのマントだったんだな」

「ふふん、その通りだよ」


 いつ見てもこの悠然と(そび)え立つ巨大な聖堂は外観からはただの城にしか見えない。

 建物の上部はそこかしこから非常に先細った先端を持つ塔が乱立している。明らかに観賞用の塔だと思う。

 この聖堂を建てた者は数ある魔女を束ねる紫衣の魔女ということになっているが、実際は彼女が数多くの魔女から金をせしめて建てさせた何のありがたみもない聖堂である。


 聖堂内部は本来であれば神様を祀ることもあるだろうが、ここで祀られているのは紫衣の魔女である。

 いたる所に彼女の石像があり、私物化も甚だしい。

 しかも石像は自身が一番若くて美しかった時分の姿をしているので、まさしく過去の栄光にすがった形と言えよう。


 とは言え、紫衣の魔女は老いた今も魔女協会の中では1、2を争うほどの腕っぷしを持つので誰も逆らうことはできない。


 魔女聖堂内部は、基本的に魔法の使用は禁止されている。だからこの聖堂内部の無駄に長い階段を()()()上り、魔女会を行う大講堂に向かわなければならない。

 大講堂に入る頃には、体力に自信のない者は息を切らして汗をたらりと流す羽目になる。


 大講堂の部屋前に到着すると、扉前にいる二足歩行で立つ白猫に受付をしてもらう。

 彼女の名前はチル。雌猫である。クリクリとした翠色の瞳が可愛い。撫で回してやりたいけれど、そうすると不機嫌になるからできない。以前腕を引っ掻かれた。


「お久し振りです、アスコルト様」

「久し振り、チル」

「おや、そちらにいるのは……?」

「ああ。私の騎士だ」

「騎士ぃ!?」


 猫のチルの驚き声が聖堂内の吹き抜けに響き渡り、反響する。

 一斉にその他魔女の視線を浴びる。


「アスコルト様が……騎士を……?」

「何か悪いかね」

「いえ。人間嫌いのアスコルト様がまさか騎士を雇うとは思いもしなかったので」


 チルは受付名簿らしき物に書き込んでいた。私の名前にチェックを入れているのだと思う。


「騎士様のお名前を伺ってもよろしいですか」

「ヒューゴです」

「姓は?」

「えっと……」


 そういえばヒューゴ君は今までヒューゴ君だった。姓を知らない。一体どのような姓なのか興味がある。

 しかし、なぜか言い淀んでいた。もしかして言いたくないのだろうか。彼の代わりに適当に返してあげることにした。


「アスコルトです」

「「アスコルトォ!?」」


 再びチルの猫声が大きく響き渡る。いや、ヒューゴ君の声も響き渡っていた。君は叫ばんでいい。


「お、お二人は夫婦なのですか?」

「「いや、違います」」


 今度は私と彼の声が被さったので、私たちは顔を見合わせる。察しろと片目だけ瞑って合図をすると彼は気付いてくれたようで、合槌が返ってくる。


「俺は元々孤児だったので、姓とかないんです。それで彼女の姓を借りて暮らしています」

「な、なるほど」


 納得したチルは私の名前のすぐ横にヒューゴ・アスコルトという名を書いたようだ。


「では、お二人ともお入りください。魔女の付き添いは1人までですので、2人以上供の方を連れてきた場合は予めご了承ください」

「そういえば今日は何の議題で話すのかい。私宛てに何度も手紙が来ていたけれど」

「新たな冠を持つ魔女の裁定と、魔女裁判を行うようです」

「へえ、魔女裁判か。誰のだい?」

「えっと……、アスコルト様の裁判です」

「私ぃ!?」


 私の声が大聖堂内をこだまして、再び驚く程魔女たちの注目を浴びてしまった。

 すぐに手で口を塞ぐ。


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