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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第14章 雷の歌
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川と湖と海を作る魔女5

 必死に濁流の流れに耐えても、今度は突進を終えた騎馬が周囲に残った仲間を殺しにかかる。


 城を守るオーフラ兵からの援護は無い。

 当然と言えば当然だ。本来なら全員城の中に(こも)っているはずなのに、水衣(すいえ)の魔女の魔法に対抗するために、わざわざ兵士を外に出しているのだから。


 故に彼等は、城を登ろうとするサルザス兵以外は、ただただ場外の戦いの行方を黙って見守っているのだ。




 大量の水を吸収した地面は、一気にぬかるみ始めて歩き辛くなる。

 当然、攻撃を受けやすくなるが、この効果を受けているのはオーフラ兵たちだけで、サルザス兵はどういう仕掛けなのか、いつもの乾いた地面を行き来するかのように動いて来るのだ。


 人数が残っている各小隊はなるべく離れずに、1つの塊となってサルザス兵の突進を待つ。




 多分、ほとんどのオーフラ兵は城壁近くに流されてしまっただろう。


 何騎もの騎馬が俺たちの姿を発見すると一斉に襲って来た。


「周りの奴等、ほとんど流されてやしねえか!? 全部俺たちの所に来てるじゃねえか!」

「全部は言い過ぎだろう」


 相手は騎馬だ。人間の足で駆けるのとは訳が違う。

 攻撃の速さもさることながら、衝突されれば一大事にもなる。




 だから、目に入った騎馬の足元にできる限りの罠を具現化して落馬してもらう。

 丁度俺たちの所までに転げ回って来てくれるように、落馬してもらう位置は決まっている。これまでの経験によって最適な位置を習得したのだ。


 人間対人間であれば、幾らか勝算は出てくるという訳だ。




 加速していた騎馬から落ちたサルザス兵たちは、その勢いを殺し切ることができずに俺たちのもとへと転げ回って来る。

 各自は、()()()()無防備な状態でやって来たサルザス兵を殺していくのだ。




 各自が即座に敵の命を奪っていく。

 俺も同じだ。


 戦争を通じていつの間にか、人を殺すことに慣れてしまった。


 彼等の悲鳴を聞かずに済む殺し方も会得してしまった。


 その辺の武具店で売っているような剣を振るう振りをして、刀身に纏わせた魔力の塊を首に向かって放り、丁度良い瞬間で具現化する。


 硬くて重い物を想像すれば良い。

 この世には存在しない俺の頭の中だけに存在する物質で、手のひら程の大きさしか無い。

 だが、鉄よりも硬く、木の床に落とせば、床が抵抗する暇も無くぶち抜けてしまう。


 硬さと重さとどういう外見をしているかさえ明確に想像できていれば、具現化は概ね正しく成立する。


 剣を振る勢いに乗った魔力が物となった瞬間に、具現化した物体は勢いのままに相手の首を引き千切る。

 俺の想像力が働く中で生み出した、その大きさに対して最も重くて硬い物は、人間の肉骨であれば難なく破壊できた。


 さすがにこれぐらいの攻撃であれば、相手も楽に死ねるはずだと信じている。




 しかし、1つだけ注意すべきことがある。

 その物体の使用が終わった後は、即座に元の魔力へ戻さなければならない。


 できる限り硬くて重い物体は、具現化したたまにすると稀に周囲を瞬時に蒸発させながら、蜃気楼のように景色を歪ませてしまうのだ。それで俺は即死してしまった。


 このように味方が近くにいれば皆殺しにしてしまう可能性があるので、目標に当たろうが当たらなかろうが、意識して具現化を止めなければならない。




 リリベルから貰ったこの力は、本当は1人の人間如きが使って良い力では無いのだろう。


 だが、今となっては知ったことでは無い。


 目的のためには利用できるものは何でも利用するのだ。




 俺の正面から来たサルザス兵は全て皆殺しにした。誰も苦しまずに殺せたことは、満足すべきことだ。


 すぐに他の仲間の様子を確認してみたが、ほとんどはことが済んでいたようだ。まだ何人かのサルザス兵が残っていたので、加勢する。




「休憩!」


 ルースの息切れが激しいが、彼はいつもこんな調子で意外と持ち堪えている。


「次が来るぞ! 準備しろ!」


 つけたのは、ほんのひと息だけだ。

 ランドやルースは持ち出した槍をとっくに捨てていて、サルザス兵が落とした斧槍や剣を取っ替え引っ替えしながら、戦いを続けていく。それだけ武器の質は良く無いのだろう。


 ヴィリーに関しては目を見張るものがある。

 こいつは本当はただの一般人では無いのではと思うような素早い動きで、相手に致命傷を与えていた。型のある剣術のように綺麗な動きでは無く、ただただ相手を殺すためだけに、その瞬間で1番深手を負わせられそうな所を攻撃していた。

 だから、彼が攻撃した者は即死する者もあれば、徐々に身体の自由を奪われてから死ぬ者もあった。




 いずれにしろ、今はまだ何とかなっている状況だ。




 他の騎馬が生きている俺たちの姿を()()にも見つけてしまった。


 残念ながらこの小隊に俺がいる限り、彼等は簡単に俺たちを討つことはできないだろう。


 いや、言い過ぎだった。


 余程相手が強くない限り、討つことはできないだろう。




「そろそろ城へ退かないと……」

「そうだな。魔女が来る」


 ヴィリーたちが焦っているのは、水衣の魔女の動向だ。

 この騎馬軍団だけで城を落とすことができる訳無いことは此方も向こうも分かっている。


 攻城兵器も無く、城壁を破壊する遠距離攻撃も無い。


 水衣の魔女に自由に行動されることを恐れて城外に出てきたオーフラ兵を、少しでも殺してやろうという魂胆なのだ。

 此方の遠距離攻撃は全て水衣の魔女に防がれる。城外のオーフラ兵と交戦すれば、援護もできない。逃げ場の無い場所で貴重な魔法使いや大砲を持っていく訳にもいかない。

 つまり、彼等にとってこの作戦は楽に此方を疲弊させることができる作戦なのだ。




 しかし、彼等もまたこれ以上効果的な作戦を実行できないでいるのも事実だ。

 オーフラ側も城を守る対策自体はあるのだ。


 城には強力な魔力防御の魔法がかけられている。城内から外へ向けて魔法を放つことはできるが、逆はできない。それは水衣の魔女の水をもってしても破壊することはできない強固な魔法だ。


 この防御魔法を掻い潜るには、物理的に兵士を侵入させるしかない。

 彼等が躍起になって突撃しているのは、恐らくそれが理由だろう。

 サルザス兵の侵入を止めるためにオーフラ兵が打って出てくるならそれを攻撃し、籠城を続けるなら直接侵入するための足掛かりを作ろうとする。


 どちらにせよサルザス兵には水衣の魔女の水を使った防御のおかげで、此方の遠距離攻撃は全て阻まれてしまう。

 城内で戦うか、城外で戦うかを選択させられたなら、当然城外で物理的に迎える選択をするという訳だ。




 そう考えている間にも、俺たちの周囲にはサルザス兵の死体が積み上がっていった。


 徐々にサルザス兵の突撃に勢いが無くなっているように感じた。

 騎馬兵対歩兵の戦いで起こり得ない結果の山を見て、突撃を躊躇しているのかもしれない。




 いや、違う。

 俺たちを背にして走り過ぎ去って行く彼等を見て、退却を始めているのだと気付いた。


 それと同時に向こう側で水のうねりが見え始めた。

 サルザス兵が波の向こうに消えて行くと、後に残ったのはオーフラ兵と洪水だけになる。




 周囲にサルザス兵の姿が見えなくなると、ランドがすぐさま退却を促した。


「溺者になる前にさっさと退却だ!」


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