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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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呪うな

 先程までのリリベルと違って、今のリリベルは普通のリリベルのように見える。

 普通というのは、気が狂っていないという意味では無く、魔力酔い(ディスコード)を起こした者特有の症状が見られないということだ。


 当然、彼女にそのことを聞いてみるが彼女は、はてといった顔で(とぼ)けている。ふざけているのかと思ってもう1度聞き返すが、どうやら違うようだ。

 どうやら彼女は本当に魔力酔いのことを知らないようだ。


「いや、だってさっき、『触らないで』とか『見ないで』とか拒絶の言葉ばかり言っていたじゃないか。もしかして覚えていないのか?」

「あ、いや、その、覚えてるよ」

「それじゃあ何で……」

「まあ、うん。あっはっはっ……」


 リリベルは妙に歯切れが悪そうにしていた。

 魔力酔いのせいだったらまだ安心できたのに、彼女は魔力酔いを引き起こしていないと自信満々に言ったのだ。


 彼女の身に何かが起きたことは、顔中に巻かれた包帯からも明らかだ。

 しかし、彼女はそれも含めて俺に話したがろうとしない。


 それが俺にはショックだった。

 いつだってどんな時だって、聞けば隠さずに全て打ち明けてくれる彼女が、自らの意志で拒否を示したのだ。


 今日1番のダメージを負ったと言っていい。




「すぐに包帯が取れると思うから、その時は安心して愛し合おう!」


 その返し文句もどうかと思うが、リリベルがそこまで包帯のことや拒絶の言葉を吐いた理由を隠したがるなら、俺はそれ以上を聞かないことにした。




 心を切り替えて、改めてこの町で起きていることやオルラヤからの依頼等をリリベルに伝えた。


 特に、黒衣(こくえ)の魔女が今、オルラヤと戦っていることを伝えると、彼女の目の色が変わった。

 興味を持ったのだ。


 同時に彼女の身体から静電気が破裂した時の音が何度も聞こえ始めた。

 内に溜めた魔力を無意識に放出する程、彼女は感情が高まっている。オルラヤやクロウモリと同じように、怒りが芽生えている。




 オルラヤが作り出した冬は町の向こう側にある。距離が離れた屋根の上からでも、花が咲いたように巨大な氷が見える。


 あんなに巨大な氷を最後に聞き届けた詠唱でやってみせたのだ。『歪んだ円卓の魔女』の名は飾りでは無いと改めて知る。


「あの氷は誰も殺さないから、安心するといいさ」

「え、いやいや、俺の足が簡単に取れたのを見ただろう……」

「ふふん、彼女の吹雪に包まれたものは、一切の動きが止まるからね。無理に動こうとすれば、足だって取れるさ」


 彼女は内に秘めた怒りを俺にぶつけないように頑張って制御しようとしているみたいだった。

 普通、自分が怒っていれば、怒りと関係の無い者と会話しようとしても怒りを抑えることは難しい。人によっては、怒りを抑えられずに誰彼構わず当たり散らすことだってある。


 だが、彼女は驚くべき切り替え力を見せつけた。

「私が怒っているのは黒衣の魔女に対してだけであって、どんなに腹が立っていてもヒューゴ君に当たるつもりは無いよ」とでも言いいそうな、そんな優しい話し方だった。


「その代わり、彼女の雪に包まれる全ての者は、常に回復を受け続けるのさ。切られようと、足が取れようと、焼かれようと、彼女の雪が全てから守ってくれるのさ」


「だから、君の足は簡単にくっついたでしょう?」


 リリベルの説明で、俺がオルラヤに対して誤解していたことを知った。

 彼女は怒りで我を忘れて周囲の全てを巻き込んだ訳では無く、周囲の全てを守りつつ、そして黒衣の魔女の動きを止めようとしたのだ。


「すごい魔女だな……」




 不意にオルラヤに対する称賛の言葉が口に出た。

 口に出した瞬間、リリベルが俺の頬をつまみ、少しだけ強めに引っ張ってきた。


 包帯で素顔が見えないから、一体いきなりどうしたのかと思ったが次に彼女から出た言葉で、なぜ引っ張られたのかを理解した。


「彼女に嫉妬して良いかい?」


 既に行動に出ている時点で、その言葉はもう遅い気がする。


「いや、ただ本当に素直にすごいという感想を言っただけで……」

「駄目。君にとって、すごい魔女とは私だけを指す言葉でないと、許さないよ」

「あ、はい。リリベル様が1番です」

「ふふん、よろしい」




 そうだ。彼女とこういうやり取りがしたかったんだ。


 俺とリリベルはいつもこうして独特の会話で仲を深めてきたんだ。どんなに切迫した状況でも、他愛も無い会話をすることで互いに奮わせてきた。


 オルラヤとクロウモリの仲を羨ましいと思う気持ちは、今は無くなっていた。

 犬も食わない話ではあるが、大目に見て欲しい。




 お互いに小さく笑い合ったところで、巨大な花が崩れ落ちる音がした。

 まだ2人と黒衣の魔女の戦いは続いているのかもしれない。


 頬を引っ張っていた手を離して、すぐに俺の手を握ると、いつもの雷に乗って移動するという無茶苦茶な方法で、オルラヤたちのもとへ向かった。


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