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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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許すな3

「安心してください。ヒューゴさんのお友達が屋敷を守っていただいています」


 オルラヤはぺこぺこと頭を下げているが、その下にはクロウモリがいて黒衣(こくえ)の魔女を何度も殴りつけていた。

 彼の手によって黒衣の魔女は何度も肉片にされているが、瞬間的に元の形を取り戻していた。怪我したという事実が一向にあの魔女にやって来ない。


「リリベルさんはこの辺りにいましたか? おっとっと」


 クロウモリの急転回にオルラヤの首が置いていかれている。良く首を痛めないものだと思った。


「見つけた! だが、またはぐれてしまった!」

「ここは私たちにお任せあれー」


 クロウモリの首元に強くしがみつきながら、オルラヤは小さく手を振って俺の行動を促してきた。

 その行動を邪魔するかのように黒衣の魔女が動き出した。動き出したと言っても攻勢に出た訳では無く、クロウモリたちから距離を離そうと後退しているように見えた。


「2人も病を克服する者が現れるとはな。だが、もうお前たちに用は無い」

其方(そちら)に用が無くても、私とクロくんにはありますー。あるんですー」




 オルラヤの言葉に甘えて、リリベルと最後に出会った場所に向かって走り出す。

 3人の戦いの場を通り過ぎろうとしたら、明確な殺気のような魔力が俺の身体を貫いた。冷や汗が身体中から一気に吹き出る。


 魔女が強大な魔法を詠唱しようとする時、膨大な魔力が周囲に放出される。

 リリベルであれば、雷を空から放出するために掌中に1度込めた魔力を空に放ったりする。

 リリフラメルであれば、周囲一帯で発火と炎上を引き起こすために、魔力をそこかしこにばら撒いたりする。


 そうやって放出された魔力の中を肌に感じる経験があると、魔力の中に感情が混じっているのでは無いかと思うことがある。

 今みたいな状況もそうだ。


 魔法の効力を上げて詠唱するために、感情を込めることは魔女界では意外と当たり前のことなのでは無いか。あくまで想像だ。


 だが、吹雪の寒さとは感じ方が違うこの心に突き刺さるような冷たい何かを、殺気と言わずして何と言えば良いだろう。

 ましてや俺は魔力を感知する力は無い。魔力の代わりに強く感じ取ることができるこれは、きっと殺気なのだろう。




 避けて通ろうとした肉塊が下から徐々に白く染まっていき、やがて動きが鈍くなっていく。

 オルラヤを見てみると、彼女の首元まで伸びていた髪が更に長くなっていた。髪の毛が伸びた訳では無い。髪の下から氷が生えているのだ。


 あらゆる服の端からつららができあがっていた。


 オルラヤどころでは無い。

 彼女の雪はクロウモリも黒衣の魔女も身体全てを純白に染めていった。クロウモリは赤い角を覆うように氷が張られて、光を乱れ撃ちさせている。


 吐息で間も無く彼等の顔元が霧にまみれて見えなくなる。


 ただ、クロウモリの方は頭の赤い角の光のおかげで位置を確認できた。




 そして、オルラヤの頭上に青白い小さな小さな粒のような光がゆっくりと降り注いで来ているのが見えて、焦って路地に駆け込もうとする。

 あの小さな粒が彼女の魔法であることは明らかだ。しかも少し距離を離している俺からでも殺気を感じ取ることができるような規模の大きい魔法だ。

 確実に俺も巻き添えを食うだろう。


 すぐ横にいた肉塊は完全に動きが止まっている。

 通りの少し奥では何人かの人が逃げるような体勢をとったまま、固まっていた。

 表面は氷と雪で覆われていて、完全にそれ等が固着しているように見える。


 氷を割った時の綺麗な音が足元で鳴って、身体の平衡を失って、頭から路地に飛び込んでしまう。


 (つまず)いて転んだのかと思ったが、後ろを振り返ったらその予想は外れていることに気付いた。俺の片足が、膝から下の部分だけ1歩後ろの地面に残していたのだ。鎧も割れてしまっている。




 その地面に立ったままの足や、路地と通りのはいり口付近の壁や、側にあった肉塊が、青白い光で照らされている。

 それぞれの光の強く当たる場所が徐々に徐々に下に降りてゆく。




 全ての物体を照らす青白い光が地面の辺りで強く照らされた時、光本体が地面に接地したことを想像した。




 きっと次には詠唱が聞こえてくるはずだ。


 まさかオルラヤが周囲の状況を全く気にせず、魔法を放つとは思わなかった。

 オルラヤこそ、魔女の中で最も命を尊く考える者だと思っていたからだ。即座に足が取れるような寒気(かんき)に人が曝されてしまえば、即死するのは間違い無い。

 それが分からない彼女では無いはずだとおもっていた。


 周囲の状況を考えることができない程、黒衣の魔女を許せない感情があったとでも言うのだろうか。




『咲かせや、六華(りっか)!!』

瞬雷(しゅんらい)!!』




 同時に2つの声が聞こえた。


 1つは、声を張り上げることが滅多にないオルラヤの大声だ。




 もう1つはリリベルだ。




 目の前で爆音が鳴り響き、俺の身体が浮き上がる。

 しかし、最初こそ優しく浮き上がったと感じたものの、その直後は巨人に蹴り飛ばされたかと感じるぐらいの強い衝撃を伴って身体が吹き飛んだ。


 痛みは余り感じなかった。


 足も背中も地面に接地する感覚がしばらく無くて、やっと降りたと思ったら、身体が削ぎ落とされたかのように無茶苦茶に転げ回った。


 こっちは痛かった。




「やれやれ、さっきから変なものが出てくるけれど一体何なのかな。生きているかい? ヒューゴ君?」


 間近で雷に当てられたというのに聴覚は良く機能していた。


 両頬を彼女に掴まれて、手の温もりを感じたところで、彼女から回復魔法を受けていたことに気付いた。

 彼女はどの瞬間に取り上げたのか、取れた俺の足を持っていて、俺にくっつけてみせた。


 あっという間に身体の寒気は無くなり、取れた足すらもまともに動いていた。


「ふふん。これで良いね」


 久し振りにリリベルを間近に感じた。


 鼻を鳴らした彼女の笑顔が見たくて、すぐに目を向けるが、残念ながら彼女の笑顔はそこには無かった。というより、表情が見えなかった。


 彼女は頭全体を包帯で巻いていて、見えるのは2つの目だけだった。乱雑に巻かれた包帯からして、彼女自身が巻いたのだろう。




 なぜかは分からん。


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