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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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戦うな3

 リリベルと直接言葉を交わしてはいないが、作り物の彼女は出てすぐに俺の意図を察したかのように1つの方向を指差した。

 その後は、にこりと微笑みを返して黒いモヤへとなって消えていく。


 彼女が指差した方向へ走ってみるが、屋根の上は意外と走り辛い。

 それに、当たり前なことだが人が激しく動いて良い場所では無い。何度も屋根を破壊して足を取られながら進んだ。クロウモリは良く転びもせずに走ったものだと感心する。


 進みたい方向に通りの道があれば、通りを挟んだ向こう側の屋根に向かって橋を具現化して架けた。歩みを止めること無く進むことはできた。




 少し進んではリリベルを具現化し、本物のリリベルがいる場所を教えてもらった。

 2人目、3人目のリリベルは同じ方向を指し示したが、4人目のリリベルは急に指差す方向が変わった。彼女の居場所が近い。


 家と家の間が裏路地の幅ぐらいの空間であれば飛んで跨げないことも無い。

 着地で転ばないことだけに集中して跳躍し、次の屋根に乗り移る。


 周辺の建物で目立つものは無く、どれも普通の住居の用途をした建物ばかりだ。

 リリベルが行きそうな建物は外見では判断がつきそうに無い。


 ともなれば地上に降りてみる方がきっと良い。彼女が行きそうな店が、周辺にあるかもしれないからだ。


 ただ、地上には肉塊が転がっている。

 幸いにもエリスロースたちと出会った通りと比べると、こちらの通りの方が、肉塊の大きさも数も少ない。まだ、病の広がりが少ないとみえる。


 地上に降りる階段を具現化して、店を探すことにした。

 リリベルの興味を引きやすいものと言えば、魔法薬とか魔力石等、魔法に関する店か書店だろう。


 通りの並びにそれらしき看板が無いか注意深く確認してみる。

 人々がちらほらと逃げ惑っているが、行く手を塞がれる程の多さは無い。肉塊には接触しないように、たまに周囲を見回してから看板を1つ1つ見る。




 しかし、彼女が行きそうな店は見つからなかった。

 もしかして、具現化したリリベルが指し示す場所はこの辺りでは無いのではないか。そう思ってもう1度彼女を具現化して方向を教えてもらった。


 モヤが人の形になって、その後リリベルとはっきり視認できる形になると、彼女はすぐに指を差してくれた。


 指差した場所はすぐ目の前にある家と家の間の小路であった。

 まさか店に用は無くて、裏路地にいるとは思わなかった。




 ひと目で進もうとしている道に肉塊がいないことを確認してから、進んでみる。




 たまに人が俺とすれ違って逆方向へ逃げて行くが、目立つ黄色のマントを羽織る彼女の姿は無かった。


 突き当たりまで進むと左右に道が分かれていた。具現化したリリベルが指し示した方向が若干右手側だったので、右に曲がってみた。




 そうしたら、すぐ目の前に黄色のものが現れた。


 いた。


 リリベルに間違い無い。

 背丈は小さく、彼女の傍にいる時に感じる独特の空気感を感じている。


 何よりあんなに目立つ黄色のマントを羽織るのは、この世界でただ1人彼女しかいない。




 ただ、顔が確認できなかった。


 フードを目深(まぶか)に被って俯き気味だから、表情までは窺い知ることができない。ただフードから下がっている綺麗な金色の髪が見えるだけだった。




 やっと彼女に出会うことができた。

 息を整えながら、声をかけようと近付こうとした。


 その瞬間、拒絶の声が目の前の彼女から吐かれた。


「近付かないで」


 普段のリリベルを知っていれば、彼女が俺に対して絶対に吐かない言葉であることは間違いなかった。

 しかし、なぜ彼女が拒絶の声を上げたのかという理由を察することができる出来事が、今この町では起きている。


 信じられなかった。


 リリベル程の力を持つ魔女が、魔力酔い(ディスコード)を引き起こすはずが無い。




 だから聞き間違いだと思った。逃げ惑っている別の誰かが発した声をリリベルの声だと勘違いしたのだと思った。

 そう頭の中で先程の言葉の整理をして、俺は止まりかけた足を確かに動かし始めて、彼女を抱え上げようと手を伸ばしてみた。




 もう少しで手が彼女の身体に触れようかという距離まできたところだった。




「触らないで!!」


 やっぱり何度も何度も聞いてきた彼女の声に間違い無かった。確かにリリベル本人から拒絶の言葉は紡がれていた。


 リリベルは俺の手の届かない位置にまで後ろに下がった。


「……いで」

「リリベ――」

「私を、見ないで」




 俺の心はズタボロだ。

 この町に来てからリリベルには避けられてばかりだし、こうして拒絶すらされている。


 しかし、彼女に何を言われようと、俺は彼女をオルラヤの元へ連れて行かねばならない。

 そうしないとこの町は滅んでしまう。


 彼女に拒絶されることと、町を救うことを天秤にかけたら、拒絶されることの方に天秤が傾くだろう。

 だから深く考えないようにして、彼女を無理矢理攫おうと思った。


 彼女に本気で抵抗されたらどうしようかと不安はあったが、とにかくやってみるしかない。

 オルラヤたちが助けを求めている。




 だが、彼女に触れることは叶わなかった。




 すぐ真横の家の壁から肉塊が突き破ってきて、俺を反対側の家に吹き飛ばしたのだ。

 ついさっきにも同じことがあって、既視感を感じた。


 こんな時に邪魔をしてくれるなよ。




 俺は反対側の家の中に押し込められる。

 肉塊に取り込まれないように必死に身体を掻き回して、どうにか逃れ出たところで肉塊と相対する。


 そんなにいらないだろとツッコミたくなる程に身体にできている口が、同時に動き出して同じ言葉を言った。


「戦うな」

「それなら邪魔をしないでくれ」

「戦うな」

「……通じる訳が無いよな」


 せっかくリリベルの目の前にまで来たのに、この肉塊に時間を取られてはまた彼女と離れ離れになってしまう。


 決心はついた。

 肉塊が元は人であることを知りながら、俺は斬る。




 命を奪う準備をして、剣を構える。


「瞬きするな」

「え?」


 今まで同じ言葉しか繰り返さなかった肉塊が、突然別の言葉を発したのだ。


 油断した。油断せざるを得ないような初めての出来事なのだ。


 その隙を突くかのように、肉塊の腕が猛烈な勢いで俺の腹を叩きつけた。


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