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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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戦うな2

 増殖する肉塊を見て人々は恐怖しているはずだった。


 だが、彼等はほとんど笑っている。

 得体の知れない生物に襲われる恐怖よりも、笑うことで得られる幸福感を失う恐怖の方が勝っている。

 肉塊に飲まれて行く人を見て、誰かが指を差して笑っていた。肉塊に引き摺られていく者を、最高に面白い冗談でも見ているかのような反応をするのだ。


 そして、笑うことに集中するあまり、周囲の景色が見えずに笑っていた者も別の肉塊に取り込まれてしまう。

 彼等には危機感が酷く欠如している。正確には、呪いによって欠如させられていると言った方が良いかもしれない。


 俺にとっては、最悪に笑えない冗談でも見ているようだった。




 人が歩ける場所は、肉塊が溶岩流のように流れ込んで来ていて、いよいよ進む道を失い始めていた。

 クロウモリのように屋根伝いに走ることができないかと思って、自身に筋力強化の魔法を詠唱して挑戦してみたが、1度目の跳躍で失敗した。

 脹脛(ふくらはぎ)に嫌な感覚を覚えて断念した。


 筋力強化の魔法は、あくまで肉体に備わった力を限界以上に引き出せるようになるだけで、肉体の作りは素材の味そのままなのだ。

 限界を超えた行動をする度に肉体を破壊して、一々傷を癒やしていては、ただ回り道するよりも時間がかかってしまう。




 いっそのことクロウモリを具現化して、彼に運んでもらおうと思案したその時に、助けが来た。

 だが、俺が声をかけるまで気付いてもらえなかったから、助けに来た訳では無く、たまたま道を通りに落ちて来ただけなのだと思った。


 頭に一本角を生やした魔物、大馬ヴィルケに乗った3人のうち1人が馬から降りて、此方に近付いて来た。

 余りにも巨体なため、普通の馬の高さのつもりで飛び降りれば、絶対に着地に失敗する。


 彼女は着地に失敗して舌打ちをした。


「リリフラメル、無事だったか!」

「今、無事じゃなくなった」


 良し、無事だな。


「それより、この有り様は一体何なの?」


 リリフラメルが周囲の状況を指して質問するが、その質問には答えずリリベルの所在を確認した。

 ヴィルケに乗って来たのは、血液で身体を作っていたエリスロースと、エリスロースの血の揺籠で未だ目を瞑っているラルルカ、そしてリリフラメルの3人なのだ。


 リリベルがいない。

 なぜいないのかを尋ねるが、3人とも返事ができなかった。


「どこにいるのか分からないんだよ! 宿にもいなかったし!」




 俺たちが宿泊していた馬宿も肉塊に襲われたらしく、リリフラメルとエリスロースは俺とリリベルを探すべく町を駆け回っていたようだ。

 エリスロースが未だ血液の状態のままであることを考えると、彼女も町の異変に気付いてそのままで戻って来たのだろう。


 ひとまず無防備なラルルカを危険な目に遭わせる訳にはいかないと思って、彼女たちにはオルラヤたちがいる屋敷への道と屋敷の特徴を伝えた。

 彼女たちは屋敷を守るべく、魔法か何かを使っているだろうから、近くに行けばきっと目で見て他の家とは違うと分かるはずだ。


「そこでオルラヤの指示に従ってくれ。俺はリリベルを探す」

「当てはあるの?」

「無い!」

「自信満々に言うなよ。腹立つ」


 リリフラメルが俺の肩を小突いてきた。腹立つ感情を俺の肩で発散したのは、今は大目に見よう。


 当ては無いと言ったが、四方八方を肉塊に囲まれるような状況になれば、きっと彼女は雷を放つだろう。

 音さえ聞こえれば居場所を確かめるのは簡単な話になるはずだ。




 エリスロースの血に巻き付かれて、リリフラメルは再びヴィルケの背中に乗る。

 彼女たちが先へ進み出す寸前で伝え忘れていたことを思い出し、すぐに叫び呼び止めた。


「エリスロース!」

 《何だ》

「町中にいる肉塊は全て、元々は人間だ! 人の慣れ果てだ! エリスロースの血の魔法が効くかもしれない!」


 血液がぷるぷると震えて蠢いた。


 《私の血をばら撒いてみせよう。ああそうしよう》


 手綱を握る血液が蠢くと、ヴィルケは力強く駆け出した。

 肉塊なぞ知ったことかと言わんばかりの勢いで蹴破り、肉塊は踏みつけられていった。




 彼女たちの姿が消えるのを待っている暇など無い。


 彼女たちを会話したからなのか、先程までと違った柔軟な発想が生まれた。

 リラックスしたのだろうか。


 近くの家の壁伝いに屋根の上まで上がる階段を想像する。

 リリベルの魔力をいつものように手の内に練り込んでから、想像通りの物体になるように放出していく。


 あっという間に金属製の階段が出来上がり、想像通りの出来栄えを前にして、思わず「良し」と独り言を呟いてしまった。




 屋根の上に立ち、周囲の状況を確認する。


 たまに家々の間から、空に向かって肉塊の色をした何かが飛び出る。

 家の高さよりも大きな肉塊がいくつか見える。

 屋根の上に逃げのびた人々がいる。

 悲鳴と笑い声と破壊音が響き渡っている。




 しかし、雷の音は聞こえないし、光も見えてこない。


 攻撃せざるを得ない状況で雷1つ聞こえてこないのはおかしい。


 やはり、リリベルの身に何があったのでは無いかと思わざるを得ない。




 リリベルを探す手段はまだある。といっても俺は彼女のように魔力感知に長けた能力がある訳では無い。俺自身には誰かを探す力は持っていない。


 だが、大丈夫だ。

 無いものは借りれば良い。無いなら頼れば良い。


 そのための具現化する力なのだ。


 最も簡単に想像できて、最も完全に再現できる存在を頭の中に想像する。

 出来上がった想像を目の前に具現化するように魔力を放出していく。


 何度も具現化してきた黒鎧や剣の次に早く具現化できたものは、リリベルだ。



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