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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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逆らうな3

 なぜ黒衣(こくえ)の魔女は神に呪いをかけられたのか。それは想像が難しい話では無い。


 俺が神だったとして、大事なものを奪われたらすぐに奪い返す行動に出る。

 奪い返すことが即座にできないなら、きっと黒衣の魔女に奪われたものを取り返すように命じるだろう。


 しかし、呪いとして不老不死を与えられたのだとしたら、神の命令なぞ無視してもいいものだとは思わないだろうか。


 何と言ったって不老で不死なのだ。


 俺やリリベルのようなただの不死者には、例え死なずとも最後には必ず老いが訪れる。死なずの身体が老いでいくら朽ち果てようとも、永遠に生き続けなければならない。不死だけでは足りない。

 対してただの不老には、死が訪れる。病が悪くなれば死ぬし、怪我の度合いが悪ければ死ぬ。不老になった瞬間から老いることは無くなるが、それでも変わらずに死の可能性は残り続ける。不老だけでは足りない。


 不老と不死、2つの異常性を持って初めて、誰もが憧れる存在になることができるのだ。




 命ある者だったら必ず考え付く妄想を現実にできたとしたら、わざわざその呪いを解きたいとは思わないはずだ。


 黒衣の魔女が不老不死の呪いを解きたいのか、それとも別の目的があって神に協力する振りをしているのか。

 それはトゥットでも分からないという。




「なぜアンタは黒衣の魔女と仲が良い?」

「仲が良い? はっ! 馬鹿も休み休み言え。誰があんな腐り物と仲良うするものか」


 トゥットは至極迷惑そうな顔をしていた。黒衣の魔女のことを良く知るようで、決して友と思っている訳でも無いようだ。


『トゥットさんは黒衣の魔女の試練を乗り越えたということですか』

「気付いたら試練を乗り越えておった。それで勝手に子分にされたんじゃ。賢者の石を作り上げた時も彼奴は喜んでおったわい。彼奴のために作った訳でも無いというのに失礼な(ばばあ)じゃ」


 黒衣の魔女が喜んだ理由は、賢者の石を作るための材料が命を主にしているからだろう。

 ノイ・ツ・タットで出会ったモドレオという賢者の石を持っていた子どもは、消費した魔力を補充するために数え切れない程の人間やエルフを使っていた。


 賢者の石を作るためには膨大な魔力が必要なのだ。

 そしてそれは、リリベルでないなら、必ず他者の命を使う必要がある。到底1人分の魔力で賄って済む程度のものでは無い。


 魔力を石の中に集めて、不要な命を消し去るその物体は、黒衣の魔女の目的とそのまま合致する訳だ。




 だから、黒衣の魔女が喜んだ理由をクロウモリの前で話すことはできない。話せば彼と同じ境遇に陥った者たちの多さを理解する羽目になり、きっと心を深く傷付けてしまうことになる。




「それなら俺とクロウモリを助けたことは、奴の目的に反する行為なのでは無いか?」

「知ったことでは無いわ。お前たちの生きている様が、ただの人間と比較して面白いから命を拾ってやったまでじゃ。お主たちに会って初めて、彼奴がこの町にいることを知ったぐらいじゃからな。たまたま知らずに治したと言えば何も言われんだろうて」


 たまたま黒衣の魔女とトゥットが同じ町に居合わせていた。


 この広い世界でそのような偶然が重なる訳が無い。

 だが、それは俺がここにいなければの話だ。


 俺がこの町に存在することで、あり得ない運命を引き寄せてしまったのだ。神のご加護から見放された俺の存在が、俺や他者が意図しない、神すらも制御できない偶然の中の偶然の最悪の奇跡を引き起こす。




 だから、今はまだトゥットのことを心から信用する訳にはいかない。偶然で起きた出来事は信じられない。


 それでも彼からもらった情報はとても役立つものばかりだった。


 黒衣の魔女は、不老不死であること以外は普通の魔女だ。

 不老不死以外にとんでもない魔法や魔道具、性質を持ち合わせている可能性はあるが、それでも遥か次元の違う存在といった訳では無い。


 途方も無い実力差があるかもしれないが、決して埋められない差だとは思わなかった。


 リリベルがいるから変な自信があって勘違いしているのかもしれないが、勝てない相手では無いと思っている。




「久しぶりに何百年か前の話をしたのう」


 さらっと自分が人間の度を超えた長寿であることを打ち明けた。

 特段驚きはしない。黒衣の魔女を古くからの知り合いと言うような存在だ。俺やリリベルでは物差しにならないぐらいの年月を生きているのだろう。


『ヒューゴさん。僕はそろそろ上に戻らないと』


 クロウモリが持つ紙は端の方が握りつぶされて皺だらけになっている。

 角の光は未だに強いが、リリフラメルと違って正気を保っている。角を生えていることとリリベルの存在を除けば、彼は最も人間らしくて、接しやすくて、会話をしていても安心する存在だ。




 クロウモリの提案を、伝えるのが遅いと言わんばかりに食い気味にトゥットが先程作り出した上へ向かう階段を指差して言った。


「出口は既にある。その階段を真っ直ぐ登って行けば良い」


 トゥットがこの坑道で何をしているのかは今は置いておくしか無い。

 彼を背に俺たち2人は駆け足で地上を急いだ。


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