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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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逆らうな2

 トゥットはつまらない者を見るような目で俺を見ながら、黒衣の魔女について語った。自分を(ないがし)ろにされたことが相当に嫌なようだった。


「先に言っておくが、お主が考えている程、儂から話せることは多くは無いぞ」


 それでも良いと先を促すと彼は、歯と歯に隙間がある老人特有の空気の抜けた舌打ちをしてから、先を続けた。


「まず、あの(ばばあ)の目的は、この魔法の時代に終焉をもたらすことじゃ」


「そも魔力は、神の私物じゃ。神以外が使うことを許されておらぬ。この地に存在するあらゆる生きとし生ける種族が持っていて良い代物では無い」


「あの婆が神から魔力を奪い取ったのじゃ。そして、奪った魔力をこの世に撒き散らした訳じゃ」


 なぜそのようなことをしたのだ。神に挑んで一体何をしたかったのだろうか。


 瓦礫から何かが転げ落ちる音が聞こえて振り返ると、クロウモリが起きていた。

 今の状況が飲み込めていない彼のために、一旦トゥットの話を中断させて、それからクロウモリに説明を行った。


 彼との意思疎通の手段が無くなってしまっていたので、彼に具現化した紙を渡した。本当は書く物も渡そうと思っていたのだが、彼に不要だと手で遮られてしまった。

 彼が捲り上げた壁から黒鉛の端くれが出土していたようで、彼はそれを拾い上げると紙に文字を書いて「何となく状況は分かりました」と返答した。


「……ほう」

「トゥット?」

「お主、面白いな」

「何の話だ?」

「何でもあらぬわい」


 クロウモリは座ったままでは居心地が悪いと思ったのか、ふらつきながらも立ち上がろうとしたので、俺の肩に掴まらせた。




 謎の問答をやり取りしている間に、クロウモリがトゥットに向かって文字を書いた紙を見せた。


「読み辛い小さな文字を書きおって。老人を労ろうという気持ちはあらんのか」


 文句を言いながらも、深い溜め息をつきながら腰を上げて、クロウモリが持っていた紙に近付いてそれを読む。


「何じゃ。お主、(おし)の童女の連れだったのか」

「もしかして2人は知り合いなのか?」

『僕は以前1度だけ会ったことがあります。白衣(はくえ)は何度か会っているみたいです。黒衣の魔女と知り合いだなんて初めて知りましたけれど……』

「聞かれておらぬからのう」


 白衣の魔女を唖と呼んだのは、彼女がまだ言葉を発することができないと思っているからだろう。

 恐らく、オルラヤとクロウモリが出会うより前の話なのだろう。




「話を遮ってしまってすまない、トゥット。続けてくれないか」

「ふん、続きを話せば良いのじゃろう。全く……」


 老人は膝を痛めなさそうな丁度座りやすい岩に座ってから、話を始めた。


「あの婆は自分が行った過ちの尻拭いをしておる最中なのじゃ」


「魔力によって歪めてしまったこの世を作り変えようとしておるのじゃ。歪みは、本来存在し得なかったであろう(いのち)を産み、奇異な(えにし)を作る。たった1つの歪みが、この世全てを歪ませたのじゃ」


「儂から話せることは多くは無い」とか言っているが、まだまだ情報が出てきそうじゃないか。それに、情報の密度も高い。

 オルラヤやクロウモリがこの老人を知っているという情報も加えると、トゥットの言葉は信じて良いだろう。




「とは言え、儂は婆より長生きはしておらん。あの魔女の言うこと全てが本当かは知らん。表向きはそう言って別の目的があるのかもしれん」

「各地を回って病を伝染させて皆殺しにしているのは、一体何が目的なのだ?」

「簡単なことじゃ。魔力を持つ万物を抹殺し、1つに集めようとしているのじゃよ」

「仮に元の世界に戻したとしても、その後の世界には誰も残らないのでは……」

「そんなことは、儂は知らん。ただ、彼奴は一旦この世を更地にしようとしていることは確かじゃ」


 ぴしゃっと言い切られしてまった。

 彼にとっては興味が無い話なのだろう。ただ、黒衣の魔女のことを知っているというだけで、覚えていることを口に出しているだけなのだろう。


 黒衣の魔女の目的からして、彼も命を狙われる立場であることは確かで無関係では無いはずなのに、やけに他人行儀に振る舞っている。


「この世全ての魔力宿りしものを消し去ることは、無謀で望みの薄い話じゃ。何せ『歪み』は、神すらも生み出してしまったからのう」


 地獄というとんでもない世界に行ったことはあるし、マルムという神らしき者にも会ったことがある。

 だから、神の存在については今更疑問に思うことは無い。


 だが、まさか、この世に存在する神も黒衣の魔女やトゥットが知る神と異なっているとは思っていなかった。

 マルムという神も、もしかしたら本来は生まれるはずのなかった神だったのかもしれないという話になる。話の規模が段々と大きくなっていっている気がする。




 汚水が流れ落ちる音は大きな音だ。

 その音を掻き消せるのではないかと思うぐらい、クロウモリは紙に強く文字を書き込んでいた。


『なぜ、わざわざ病という手段を使って殺し回っているのですか』


 クロウモリの角の光が強まっていた。

 此方は光の強弱が感情の起伏を表していることにつながっていると認識しているが、その彼の感情は今、怒りで一杯であることは間違い無いだろう。


「見定めているのじゃ」


「彼奴が振り撒く病は、強制する()という試練なのじゃ。土だろうが、草木だろうが、人だろうが竜だろうが関係無く、万物に伝染し、死という概念をもたらす病をかけておる」


「そして生き残る者を確かめておるのじゃ。病に打ち勝つ力を持つ者こそが神と対峙するに相応しい存在であろうと考えているのじゃろう」


「即殺してはその見定めとやらもままならん。だからこそ、病という形にしたのじゃ。病という試練に打ち勝つための猶予を与えているという話じゃ」


 自分の尻を拭く話にしては余りに身勝手な話だ。


「さすがに彼奴も1人では、大事を成し遂げられんと思ったのじゃろうな。知らんけど」




 これまでに出会った者たちの中で得られた黒衣の魔女に関する情報は、それらしき者を見たとか聞いたことがあったとか、奴の足跡程度の情報ぐらいしか無かった。

 それ等と比べると非常に有益な情報だった。


『どうすれば、黒衣の魔女を殺すことができますか?』


 クロウモリが直球の質問をした理由は言うまでも無い。

 黒衣の魔女の都合なんぞ知ったことかと言わんばかりの赤い光が、トゥットに答えを求めている。


 しかし、トゥットは痰混じりの高笑いを上げて、クロウモリの質問を馬鹿にした。


「言うだけなら簡単じゃ」


「神から与えられた不老不死の呪いを解けば、彼奴は殺せるぞ」



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