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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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考えるな2

 酒の力に負けて、いつの間にか椅子の上で眠ってしまっていた。

 身体を伸ばすとあちこちの骨が鳴る。全然寝た気分にならない。


 既に外は太陽が昇っていて、陽の光が部屋の中に差してきていた。


 身支度を済ませてリリベルに会いに言ったが、部屋にはリリフラメルしかおらず、彼女にリリベルの所在を聞くと、分からないと言われた。


「起きた時には隣のベッドは空だった」


 そう、リリフラメルは言っていた。




 エリスロースの姿も見当たらない。


 彼女は今も血だけの状態で町中を彷徨っているのだろう。

 昨日、宿の当てを見つけた後、肉体探しをすると言って単独行動を始めたのだ。


 彼女にとって今、最も必要な肉体は放浪の旅を続けている者だ。

 彼女の血は、間借り先の精神に対して強い好印象を生ませる。ほとんど洗脳のようなものだ。


 オルラヤ程では無いが、エリスロースもまた他者の傷を癒やすことを得意としており、同時に他者の平穏を祈る魔女だ。

 間借り先の傷を癒やすことで、その肉体の持ち主は彼女に対して尊敬と信頼を捧げるようになり、肉体の操作権を渡してくれるという訳だ。


 その信頼感を強固にするため、彼女に恨みを持たれてはならない。

 血の繋がりを強く結び付けられなければ、エリスロースの血は力を発揮できないのだ。


 故に彼女は怒り続けるリリフラメルとは相性が悪い。呪いによって怒りの感情を発露しやすい彼女は、少しのきっかけで他者を拒絶してしまう。




 今だって、オルラヤに会いに出かけるからとラルルカの身の世話とリリベルへの言伝(ことづて)を頼み込んだら、何度も靴のつま先を床に当てて音を立てて威嚇し始めている。


 鮮やかなリリフラメルの青髪に触れて、戻ってきたら髪を切ってやると言う。そうすれば、彼女の怒りが強まることは無い。緊急時では無い場合で、これが彼女に物事を頼む時の定番のやり取りなのだ。




 宿の好意で朝食を食べさせてもらった後は、すぐにオルラヤたちがいる屋敷の方へ向かった。


 通りを行く間に、盛んな商店の客引きによって、何度も腕を引っ張られて売り物を見ていくように誘われた。

 入り組んだ町中を探検と称して遊び回っていた子どもにぶつかって、お詫びに何らかの虫の抜け殻を服に装着させられることもあった。


 町は賑やかだ。




 (くだん)の屋敷に到着して、衛兵にオルラヤの所在を尋ねると、屋敷にいるとのことで、本人を連れて来てもらった。


 相変わらず真っ白でリリベルに劣らず目立つ出立ちだ。

 そして、クロウモリと手を繋いで出てくる様子も、もう見慣れたものだ。




 まだろくに食事をとっていないという彼女の希望で、昨日行った店に再び赴きそこで食事をすることになった。


 かなり衝撃的な光景を見てきたであろうに、よく食事が喉を通るものだと思ったが、オルラヤ(いわ)く「血肉を見たからと言って食欲が無くなることは、無いかもです」という話らしい。


 クロウモリも意識は同様らしく、今まで少なからず戦いに遭遇して血を見てきたから、慣れたものだと言った。

 俺には中々慣れることができない話だ。




 2人は仲良く椅子を並べて座り、赤い果物のソースがかけられたチーズケーキを食している。

 朝食というよりデザートでは無いだろうか。これを突っ込むのは野暮なのだろうか。


「おいひい」

『美味』


 2人してケーキの味を堪能しているところで、早速質問をさせてもらった。


 まず、彼女たちが昨日行っていた魔力酔い(まりょくよい)を起こした患者の治療は一段落したようだ。

 肉体の形はほとんど元に戻したようで、後は狂ってしまった精神を治療する段階にあると言う。魔法薬を飲ませることで、徐々に良くなっていくと淡々と話していたその素振りからして、問題無く快方に向かうのだろう。

 此方も一安心した。


 オルラヤの依頼ごとに関しては、現在リリベルの所在が分からないことを伝えた。

 患者たちの完全治癒に向けての話はもうしばらく待ってもらうよう言った。

 そして、病源を探すという依頼については、リリベルに一任された以上、俺の意志で動くしか無い。勿論、俺の意志を挟んで良いのなら、答えは是だ。


 そのことを伝えると、彼女は口にケーキを運びながら、ピースサインを返した。

 多分、了解の意を伝えている。




 そして、次は昨日見た老婆について質問をしてみた。

 嫌な予感が当たらないことを祈りつつ、彼女にことの始終を話してみると、彼女は興味を持って聞いてくれた。


 できるなら興味を持たずに、関係無いとあしらって欲しかったが、彼女はケーキに口を運ぶことを止めて俺の話に集中し始めた。


「それはあ、話を聞くだけでは判断が難しいです。そのお婆さんの家に行って会ってみる必要があります」


 食べかけのケーキをそのままにして、すぐに移動を始めようとしたオルラヤとクロウモリを見て、嫌な予感がより高まってしまった。


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