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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第13章 笑わぬ者には戦いを
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離れるな2

『とても美味しいです』


言葉を失ったクロウモリは他者との意思伝達ができるように、常に1枚の大紙が貼り付いた平たい板とインクが入った魔力石を持っている。

彼はその紙で、文字を読める者には文章で書いて伝えて、読めない者には絵を描いて伝える。




今、とある町の飲食店で俺とオルラヤ、クロウモリの3人で菓子を食べてくつろいでいる。

2人とも菓子には余り馴染みが無いようで、その甘さに驚いてばかりだ。


両者とも美味しいという感想は一致しているので、食べさせて安心はしている。




クロウモリは目深に被ったキャスケット帽子が特徴的だ。

この帽子を外すことは、見知った者の家の中でしかしない。


実は帽子の下に角が生えているのだ。

赤い1本角だ。

彼はその1本角を隠したくて、帽子を被っている。


他の外見的特徴は特に無い。

黒髪ではあるが、ラルルカや夜衣(よるえ)の魔女の存在を知った今となっては、個人的に珍しいとは思わない。


顔立ちは歳の若さもあってか、中性的で一見すると女の子と見間違ってしまうかもしれない。

服装は町中にいる子どもと余り変わらず、何でもないズボンと何でもないシャツを着ているだけだ。




彼が旅をしている理由は、とある魔女を探しているという話であったが、それはとても心温まる感動話では無い。

端的に言えば復讐だ。


彼には父母と4人いる弟妹がいた。




全員、魔女に殺されてしまった。


黒いマントを羽織った魔女にかけられた魔法によって、家族は瞬く間に病に冒され死に至った。

彼はその様子を見てしまったのだ。


彼が言う黒いマントを羽織った病を振り撒く女は、黒衣(こくえ)の魔女で間違い無いだろう。

そんな奴、他にいる訳が無い。


家族を殺された彼にとって魔女に対する印象は最悪で、その当時は魔女と名乗る者は全て殺し回ったそうだ。

角が生えたのは、魔女を殺し回っている間に突然生えてきたようで、なぜ生えたかは本人も分かっていない。


彼が殺した魔女の内の誰かの仕業である可能性が濃厚だろうが、彼は角を取り除きたいとは思っていないようだ。

角が生えてからの彼は、途轍もない力を使えるようになったのだ。比喩では無く、純粋に力持ちになったのだ。


普段から訓練によって鍛えている訳でも無い細い腕をしているクロウモリだが、想像を絶する筋力を持ち合わせている。

片手で隣のオルラヤを持ち上げることができるし、自分の身体よりも遥かに大きな岩を拳1つで容易に粉々にすることができる。




その力のおかげで魔女を殺すことが容易になったのだから、彼としては角を取り除く気にはならないという訳だ。




復讐に取り憑かれた彼のその行為を心から否定することはできないから、何とも言い難いのだが、少しだけリリベルに出会わなくて良かったと思う。


だがオルラヤにだけは、彼女が魔女だと分かっても殺すことができなかった。それは彼女の顔が妹に似ていただからと言うが、実際は分からない。

妹に似ているという理由だけで、その後も彼女と行動を共にするだろうか。




しかもクロウモリの姓は、アフィスティアだぞ?


オルラヤ・アフィスティアとクロウモリ・アフィスティアと同じ姓を名乗っているのなら、まあ、そういうことなのだろう。




温和なオルラヤと出会ったことで、クロウモリが持つ魔女の印象は幾分か和らいだようだ。

それでも、クロウモリは黒衣の魔女に対する復讐を諦めてはいない。


そんな復讐に取り憑かれたクロウモリの意志を尊重するように、オルラヤは共に旅をして彼の手助けをしている。

彼女は、幼い頃から病弱で外の世界を見る機会が無かったから、外の様子に興味があって旅をしていると言っていたが、彼女の普段の口振りからしてそれは建前で、実際はクロウモリと一緒であれば何でも良いのだろう。




そうでなければ、俺の目の前で、「あーん」なんて言って、自分の皿にあったケーキを彼の口に運ぶことなどしないだろう。




実を言うと2人の存在は、俺にとってとても有り難い。

リリベルが探している黒衣の魔女の情報を共有できるだけでなく、クロウモリという男と話すことができるからだ。

魔女の騎士として生きているからこその因果なのか、中々男と話す場面が無くて肩身の狭い思いをすることがあった。


酒場に良く行くのは、たまには男臭い話ができる友を見つけたいという理由もあるのだが、最近は旅続きでそうもいかなかった。

そんな中で出会ったクロウモリは、貴重な男の友なのだ。


お互いに魔女と身近に生きる者として、()()()()()()()だってある。




「あのお、ヒューゴさん。そろそろ教えて欲しいです」


此方がはてと困っていると彼女は続けて質問をしてきた。


「リリベルさんと喧嘩しました? しました?」




喧嘩をした訳では無い。

俺の知らない内に彼女を怒らせた訳でも無い。


いや、きっとそうだ。


いや、やっぱり自信は無い。多分、無意識に放った言葉が彼女を怒らせたかもしれない。




そう。今、俺はリリベルに避けられている。


彼女に話し掛けると、彼女はすぐに顔を背けてしまうし、彼女の隣に立とうとすると、彼女はすぐに距離を空けてしまうのだ。

オルラヤとクロウモリと久し振りに会ったのだから、飲食店でゆっくり話でもしようと提案したら、彼女に「君たち3人で行ってきなよ」と素っ気なく言われてしまったのだ。




今の気分は最高に憂鬱だ。

憂鬱過ぎて吐きそうだ。甘い菓子なんて食べている場合では無いのだ。


「俺も分からないのだ……。もしかしたら、何か彼女を怒らせるようなことを言ったのかもしれない」


原因が分からずに悩んでいる俺の様子を見て、オルラヤの口角が吊り上がった。

彼女は自分の得意分野が披露できることを喜んでいるのかもしれない。


「お? おお? おお?? それなら私にお任せあれー。魔女の中でも1、2を争う程、恋を熟知した白衣の魔女が解決しますよ」


それはとんでもない嘘である。

2つ名のように言った彼女の自負は、あくまで自称であって他者から認められたものでは無い。

しかも、彼女が熟知していると自負した恋についても、聞きかじりの知識ばかりで実用性を持たない。

彼女の言う通りに意中の相手に恋心を伝えようとすれば、失敗するだろう。




本当の白衣の魔女オルラヤ・アフィスティアは、魔女の中でも1、2を争う程、傷病を癒やした魔女である。


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