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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第2章 弱い騎士殿の初めてのあれこれ
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初めての魔法授業

 ある日。


 1階の食卓で食事をしていると、ヒューゴ君が突然相談し始めた。


「リリベル。俺に魔法を教えてくれないか」

「ごほっ」


 びっくりしてむせた。

 彼は今まで魔法の勉強に奥手だった。以前、私が回復魔法『ヒール』を教えた時も魔力の扱いに四苦八苦していたからだ。

 私を助けたい一心があったからこそ、魔法を詠唱できたのであって、平時の時には愉快なぽんこつになる。恥ずかしく思ったのか、それ以来魔法を覚えることに億劫になってしまったようだ。

 それがどういった風の吹き回しか、魔法を習いたいと言い始めたのだから驚きもする。


「いきなりどうしたんだい? あんなに嫌がっていたのに」

「町の酒場に行った時に色々あったんだ」


 話を濁してくるということは、十中八九嫌なことでもあったのだろうね。

 少し顔を伏せた彼が見えると、その予想は濃くなる。

 でも、そうやって駄目な部分が見えちゃうとどうしても深掘りしたくなってしまう。興味深い。


「私にはその色々を教えてくれないのかい?」


 困った顔をし始めたヒューゴ君を見てしまうと、とても愉快な気持ちになってしまう。

 以前誰だかに私の騎士を虐めるなと怒ったような気がするけれど、これでは人に言えないな。

 ヒューゴ君は少し沈黙してから観念して話してくれた。


「その酒場で知り合った男が騎士でな。飲んでいた時に騎士の話になったんだ。それで、騎士なのに自分の好き嫌いで技を習うことを怠っていたら、大切な者を守ることはできないぞって説教されたんだ」


 なるほど。

 きっと核心をつきすぎて落ち込んでしまったのかな。


「俺は甘ったれていたとその時に気付いたんだ。だから剣術もそうだが、魔法も使えるようになりたいと思ったんだ」

「なるほどね。でも、その話はそんなに私に言いたくなかったことなのかい?」

「は、恥ずかしいじゃないか」


 全く恥ずかしいことではないと思ったのだけれど、彼にとっては恥ずかしいことらしい。

 騎士として、なのかそれとも男としてなのか。きっとその辺りの理由で恥ずかしさが生まれてきたのだと思う。

 変なの。


「理由は分かったよ。ふふん。黄衣の魔女に任せなさい!」


 理由は何であれ、ヒューゴ君が魔法を学びたいと言ってくれたこと、しかも私を頼ってきたということには、とても心躍った。

 食事なんかすぐに置いて今すぐにでも彼に教えてあげたい。


 落ち着け、黄衣の魔女(わたし)






 食事を終えて、家の表の庭に私たちは出た。

 日差しもそこそこに来て辺りは明るく見やすい。


「それでは授業を始めます」

「はい、先生」


 ヒューゴ君も最近は冗談を飛ばすようになってきたので、話しやすくなってきたように感じる。

 私は黄色のマントに、帽子の先が折れ曲がった鍔の広い黒三角帽子をかぶっている。この帽子はヒューゴ君に魔法を教えることが決まってから、すぐに部屋の押し入れの奥から引っ張り出してきたのだ。

 彼にこの姿を見せたら、よく思い描く魔女のイメージにぴったりだけれど、そのマントに黒い帽子は合わないと言ってくれた。私もそう思う。黄色い帽子でも買っておけばよかったなと思った。


「まず、魔法学の初歩中の初歩から話そうか。魔法を放つためには、魔力と詠唱と魔法陣の3つの要素が必要になる。魔力は自然界に存在するものや、自身の体の中にある魔力管に流れる魔力を動力源としているんだ」

「そんな器官があるのか」

「うん。といっても通常は肉眼で確認できるものではないけれどね。魔力管は少量の魔力の生成と魔力の貯蔵を可能としている部分だよ」


「次に属性の話をしようかな。魔法には数多くの属性があるのだけれども、その中でも代表的な属性が火、水、風、土の4つだ。これらは4大属性と呼ばれているね」


 ヒューゴ君は木立に座って私の話を大人しく聴き続ける。


「この4つの属性を組み合わせて他の属性を作り上げたりすることもある。この4大属性独自にも属さない独自の属性もあるが、それら全てを今覚える必要はないかな」

「はい、先生」


 受講生から挙手。大変勤勉でよろしい。


「はい、ヒューゴ君」

「先生は魔法についてたくさんの知識を有していて、黄衣の魔女として人々から知られていますが、やっぱり見た目の割に相当年を重ねていたりしませんか」


 全然魔法と関係のない質問だったので、思わず肩をつまずいてしまった。

 とはいえ、質問には真摯に回答しましょうか。


「私はこの身体で生まれてから13か14年くらい一切このままです。人の精気を吸って若返っている化け物とかではありません」

「くらいって……。見た目の割に語彙力があるから、いつも不自然に感じていた。見た目が若くて綺麗なのは魔法で若くしているのじゃないかと思っていたよ」

「きれ――!?」


 こほん。

 面と向かって言われるのは初めてだったので、ちょっと驚いたけれど努めて平静を取り戻す。


「話の続きに戻るよ。詠唱と魔法陣についてを話そう。君が『ヒール』を使った時に大体分かっているかもしれないけれど、魔力を魔法として目に見える形にするためには、詠唱と魔法陣が必要なんだ」


「魔法陣は魔力を魔法へ置換するための土台で、詠唱は魔法として出力させるためのスイッチだ」


「例えるなら部屋と扉かな。魔力の部屋と魔法の部屋があって、魔力と魔法の部屋の間を行き来するには、扉を通らなければならい。扉は魔法陣で、正しい魔法陣じゃないと立てつけが悪くて上手く開かない。魔法陣が正しくても詠唱という扉の取っ手がないと扉を開けられないという訳さ。イメージは伝わったかな」

「ああ。大丈夫だ」


 うんうん。理解できたようで何よりだ。


「よし。では、魔法の実技に入るとしよう!」


 手頃な魔法と言えば、『ファイア』とか『ウェイブ』の魔法かな。

 正直、雷の魔法以外は基本的な魔法しか使えない。特殊な魔法を覚えたいと言われてしまったら、すぐに答えられるか分からない。

「その魔法は分からない」なんて格好悪くて言いたくないよ!


「やっぱり火を出す『ファイア』の魔法かな」

「雷の魔法ではないのか」

「あ、え」


 雷の魔法を知りたいと言ってくれるとは思いもしなかったよ。

 でも、嬉しくて嬉しくて仕様がなかった。私の作った魔法はたくさんある。そのほとんどが雷の魔法であるが、それをヒューゴ君に教えることができると思うと、高揚感で胸が湧き立ってしまうね。


「黄衣の魔女の騎士として、雷の魔法を知りたいと言ってくれたことはすごく嬉しいよ。でも、まずは4大属性の基本的な魔法を知っておこう。日常でも使える魔法だから知っておいて損はないよ」


 多分、今の私の顔はだらしなくなっていると思う。

 彼は「確かに基本的な魔法を学ぶ方が今は大事だな」と私の提案に乗ってくれた。


 土に『ファイア』の魔法陣を描き、私がお手本として詠唱してみせる。

 片方の手を魔法陣の上にかざし、もう片方の手をなるべく草木も何もない場所へ向けてかざす。


『ファイア』


 何もない場所へ向けられた手から炎が息を吹くように流れ出す。

 詠唱は成功だ。


「次はヒューゴ君の番だよ」


 彼も私と同様の仕草をとって詠唱してみせる。


『ファイア』


 彼も同じように手から炎が唸りを上げて吹き上げた。

 さすが私の騎士だよ。一発で詠唱できたね。

 私は拍手をして彼を称えた。


 こうして、たまに彼と魔法を教える授業を行うことになった。

 また楽しみの1つが増えてしまった。


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