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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第1章 24時間戦争
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24時間後の12時間後

「つまり、魔法トラップの動力源が賢者の石だったということなのでしょうか」

「そうだね」


 遺跡近くの村ハイレの調査隊拠点に戻ってきた俺たちは、ロベリア教授へ早速の報告をした。

 彼の話によると、どうやら丸1日が経過していたらしい。1日中戦い続けたということであれば、どうりで疲れて眠い訳だ。


 戻る途中に盛り上がった灰の塊が2つ見つかったが、恐らくイゼアとヴィルオーフのものだろう。やはりというか、あの熱で死んでしまっていたのだろう。

 死者を出したものの、初めて調査隊が宝を持ち帰ってきたことに、ロベリア教授は喜びと動揺を交えながら迎え入れてくれた。




 家の中に入ると、早速と言わんばかりにロベリア教授と話をする。


 今、ロベリア教授の目の前に(くだん)の石がある。

 2つの賢者の石の内、1つは魔法トラップの動力源でもあった動く人型の石として存在していた。もう1つは遺跡最奥の部屋の天井に埋め込まれていた石だった。

 この埋め込まれた石が財宝の1つなのだろう。


 暗い場所でも確かに光りはするが、目立つ程の光ではない。

 ロベリア教授が以前話していた、調査隊メンバの生き残りが伝えた2つの光る物があったという話は、嘘だったということになる。

 リリベル曰く、今までの調査隊の生き残りの正体はディギタルと同一人物で、あの手この手で誰かになりすましたりして、調査を妨害していたのだろうと推測できる。


 動力源である賢者の石が、遺跡を守るために自らの意思で動き魔法トラップを操っていたのだ。

 それが遥か昔に作り上げられたというのだから驚きだ。


「いずれにせよ、依頼を達成いただき感謝いたします。こちらの賢者の石はお約束どおり、差し上げます」

「いや、いらないよ」

「え?」

「その代わりと言ってはなのだけれど、私の宣伝をお願いしたい」

「え、ええ……?」


 何のことやらといったような表情をするロベリア教授。

 リリベルが報酬として要求したものは、黄衣の魔女へ仕事を依頼できるように宣伝広告を打ってもらうことだ。

 実は俺の入れ知恵だ。


 あらゆる種族から忌み嫌われる魔女。古くから伝わる魔女の悪しき伝説。その数々の伝説から魔女は恐ろしくて、嫌われるべき存在として扱われてきた。その魔女の悪いイメージを少しでも払拭できるようにしたいと俺は思った。

 魔女であるリリベルは、確かに畏怖の対象とされている。


 だが、俺が今まで接してきて感じたことは、彼女は多少は頭がおかしいがそれ以外はいたって普通の女の子である、ということである。決して、人間として扱わなくて良いという存在ではないと思った。

 だから、誰かの魔法に関する困りごとを解決してみないかとリリベルに提案した訳だ。

 良い魔女の噂が流れてくれれば、攫われて牢屋に囚われて飼い殺されることもなくなるのではないかと思った。




『私は他人にどう思われようと気にしないけれども、君の言うことだったらやってみるよ』


 よく分からない肯定のされ方だった。俺の提案にはほとんど「はい」で返すので、逆に不安になってくる。

 本当は嫌なのに断れない性格とかだったら申し訳ない。




「『魔法でお困りごとがありましたら、黄衣の魔女が解決します』とでも広告を打ってほしい。君が仲介者となって、私に依頼の手紙を届けてくれ。その依頼を達成した報酬の半分を君に渡す」


 ロベリア教授は金にあまり執着していないと以前話していたが、研究するのにも金は必要だ。あるに越したことはない。

 ましてやここは商人の経済力で成り立っている国だ。その国民の1人である彼が金に一切の頓着が無いというのもいかがなものだろう。だから断ることはないだろうと踏んだ。


 ロベリア教授は、そのぐらいのことなら他愛もないと承諾してくれた。

 これからはロベリア教授の召使いを使って手紙を届けさせることになった。


「これから長い付き合いになりそうで、とても光栄に思います」


 リリベルはふふんと鼻を鳴らして満足げに話を終える。


「他に何か気がかりはありますでしょうか」


 俺は今まで言いたくて言いたくて仕方ないことを、すぐさま手を挙げてその気持ちをぶちまけた。


「何でしょうか、騎士殿」

「寝させてください。眠くて眠くて仕方がないです」



 ◆◆◆



 報酬として賢者の石は断ったが、金は貰って欲しいとロベリア教授から渡されて、今、金の入った重い袋を馬車に詰め込んでもらっている。

 リリベルは既に馬車の中に入っている。


 ハイレ村を出る前に、生き残った調査隊メンバとそこそこに挨拶をする。

 特にシェンナには改めて礼を言いたかった。


「『ヒール』は完全に習得できたか?」

「ああ。たまに途切れてしまっていたが、これから何度も使っていけば詠唱はできるようになると思う。アンタのおかげだ」

「それは良かった。どこかでまた仕事ができたらその時は……」


 シェンナが急に黙ったと思ったらいきなり笑いだした。

 何が原因で笑っているのか聞いても教えてもらえなかった。言ったら私が怒られそうだと返されたので、余計に頭のなかにはてなが浮かぶ。


「帰ったらあの魔女に改めて『ヒール』について教えてもらいな」

「いや、でも詠唱はもうほとんどできるようになったが……」


 シェンナは笑いながら素っ気なく挨拶を済ませて、ダナのもとへ歩いて行った。

 いまいち合点のいかない挨拶となったが、礼は言えたので良しとしよう。


 用は済んだので馬車の方へ歩こうとした際に、馬車の開いた扉からリリベルが腕を組んでこちらを睨み付けていた。若干の殺気を感じて思わず冷や汗をかく。


 リリベルを一瞥しながら馬車の中に入ると、開口一番俺に文句をつけた。


「いいかい? 君の覚えた『ヒール』はダメダメな『ヒール』なんだ」


「一口に魔法と言ってもね。作った魔法使いや風土によって、同じ魔法でも異なる魔法陣が存在するのだよ。使う魔法陣によって魔法の効率や魔力を使う量も変わってくる」


「私が1番効率の良い魔法陣の『ヒール』を教えてあげるから、昨日覚えた『ヒール』は忘れること! いいね?」


 とてつもない早口で捲し立てながら、眉を尖らせて俺の方へ詰め寄るリリベルを見て、俺は思わず声を上げて笑ってしまった。

 魔法の扱いに長けた魔女としての嫉妬心が、これほどまでに分かりやすく表に現れるとは思わなくて、素直に笑ってしまう。


「あ、後、魔法トラップのせいで服が燃えちゃって、今こうして趣味でもない服を着ているのは嫌なんだ。帰りに服屋で服を買いに寄るからね! いいね?」

「分かった分かった」






 帰り道の途中、馬車に揺られる中でふとディギタルについての疑問を思いついた。


「そういえば、なぜディギタルは俺たちと一緒に魔法トラップ内に留まっていたのだろうか。わざわざ自分も危険な目に遭う必要はないと思ったのだが」


 リリベルに問いかけてみたが、返事は返ってこない。

 どうしたことかとリリベルの方を見てみると、彼女は俺の肩に体を預けたまま目を瞑っていた。


「まあいいか」


 今となっては推測するしかないことで、きっと魔女にとっても些細なことだろう。

 その些細な疑問のために彼女をわざわざ起こすのは悪いので、俺も目を瞑って馬車の揺れに身を任せることにした。


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