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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第12章 鏡の中の魔女
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騎士の士気

◆◆◆



 鏡になったリリベルに対して俺はどうすれば良いか分からなかった。

 少なくともアレが俺の知っているリリベルでは無いことは確かなのだが、それなら彼女を倒して良いのか。分からない。


「ああ、面倒だな! 本物のリリベルじゃないなら倒してしまえば良いのに!」


 横で一緒に壁に隠れているリリフラメルが、俺に文句を言ってくるのだが、正直そんなことを言われても困る。


 俺たちが何かする訳でも無く、リリベルらしき者は勝手に身体を自壊させていきながら悲鳴を上げていた。

 同時に彼女は先程から雷を乱発して城のあちこちを破壊している。

 部屋の壁に腰を落として隠れているものの、壁の上側は彼女の雷で吹き飛ばされていて、無闇に身体を起こそうものなら、確実に雷が直撃するだろう。


 《こう暴れられては、私も手の内ようが無いな。ああ無いな》


 俺たちの目の前で、血の塊が口も無いのに言葉を発してきた。生き物のような気持ち悪い(うごめ)きを見せながら、お手上げの言葉を発しているのは、エリスロースだ。




 リリベルが暴れ回り始めて、さすがに外にいた彼女たちも城中の異変に気付いて助けに来てくれた。

 だが、リリベルの動きを止めようとしたエリスロースは呆気なく蹴散らされ、宿主を失い血だけになってしまった。


 リリフラメルに関しては攻撃を許可していない。許可すれば、絶対に城ごと燃える。

 どこかにいるかもしれない本物のリリベルの身を危険に晒すことになるし、城の持ち主が帰って来た時に弁解する余地が無くなってしまう。




 既にもう弁解の余地も無い程、城を破壊しているが、今はその点には目を(つむ)ろう。

 今だけは城の被害を見なかったことにしたい。




「あれだけ我を忘れる程暴れているのだから、沈黙魔法が効くのでは無いか?」

「それなら早くヒューゴがやって。私は使い方が分からないぞ」

 《同じく。ああ同じく》


 まるで頼りにならない味方だな。




 いや、いてくれるだけで十分だな。




 蠢く血の塊から触手のように伸ばされたものが俺の代わりに黒盾を構えてくれた。

 エリスロースのお膳立てを受けながら、意を決して身を出す。


 服装や声はリリベルそのものだが、その顔は最早ただの鏡の塊だった。




 そして、鏡に向かって『沈黙(サイレンス)』を詠唱する。




 詠唱が失敗したことはすぐに分かった。

 すぐに壁に隠れると、当然2人が俺に言葉を求めてくる。詠唱した結果はどうだったのかという、無言の問いに対して素直に打ち明けた。


「俺に沈黙魔法がかかった」

「何をやっているのだか」


 まさか鏡だから魔法を反射したとか?

 そんな馬鹿なことがあるのかと思ったが、それぐらいしか理由が見つからない。


 《失敗したことは仕方が無い。次の手を考えよう》




 あっさり切り替えたエリスロースだが、彼女の言う通りだ。


 エリスロースの血の魔法は、鏡で作られた身体では分が悪い。本来なら相手の血に自分の血を混ぜて、思考や行動を変化させるが、鏡では血の入りようが無い。

 攻撃によってあのリリベルを止める方法が無いとすれば、他の手立てを考えるしかない。


 やはり気になるのは彼女がおかしくなり始めた場所へ行くことだろう。

 1番疑わしいのは、大鏡があった部屋だ。

 あの部屋に入って、両側の壁一面に張られた鏡を奇妙には感じたが、城の者が誰かいないか確認したかった俺はすぐに部屋を出てしまった。


 リリベルが部屋から出て来るのに時間を掛けていたことは、今思えば怪しい。




 しかし、壁の後ろで暴れ回っているリリベルらしき者を無視して、鏡のある部屋に向かおうとすれば、攻撃を受けることは間違いない。


 ともなれば彼女たちに頼み事をするしかないだろう。


「リリベルの様子が変わり始めた場所に見当があるんだ。今からそこに向かおうと思う。だから……」

「あの変なのを足止めしておけってこと? 分かった」


 返事が早い。


 《分かったって、燃やすことしかできない火の精霊(サラマンダー)の娘がどうするつもりか》

「燃やさなくったって囮ぐらいにはなるでしょうが! 腹が立つな」


 リリフラメルの肩を叩いてどうどうと宥める。


「頼んで良いか?」

「勿論」

「助かるよ」


 短い言葉を交わしてから、彼女は意を決して身を飛び出していった。

 そのリリフラメルを守るように血の塊もといエリスロースが後を付いて行った。


 彼女たちの様子を見るなんてことはせず、匍匐(ほふく)で鎧の音をガシャガシャと立てながら、大鏡があった部屋へ向かう。


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