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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第12章 鏡の中の魔女
334/723

像鏡

◆◆◆



「死なないアンタを殺したからって、アタシの心が収まるなんて思っていないでしょうね」

「分かっているよ、ありがとう」


 ラルルカに殺してもらったのは、中途半端に私が負傷して、彼女のお荷物になりそうだったから。

 これ以上私の矜持を傷付けられたら、私の心が死んでしまいかねないと思ったからだね。




 彼女のヒューゴ君を奪い取るという脅しで一悶着あった後、開かない扉をこじ開けたら地下に続く階段があった。


 そこには牢屋があって、たくさんの人間やエルフが鉄格子の向こうに閉ざされていた。

 何人かは()()()()()()になっていて、動いている者はとても衰弱しているみたいだった。

 立ち上がることもできずに、芋虫のように身体を這わせるような体力しかなくて、必死に鉄格子から手を伸ばして、言葉にならない声で助けを求めていた。


 当然、助けたよ。

 ラルルカ以外で初めて会えた生きている者たちだからね。彼等から聞きたいことがあって、ここまで来たのだから。




 それで、彼等を助けている途中で私たちは襲われた。


 暗闇に近い牢屋周りで突然鋭利な物で私は顔を切り裂かれて、言葉を発することができなくなってしまったのさ。

 詠唱できない魔女程お荷物なものは無いから、必死でラルルカにお願いして殺し続けてもらって、負傷する前の状態の私に戻してもらった。

 ラルルカに言葉が通じた訳じゃないけれど、正体不明の誰かに襲撃されている状況で私が暴れているのが余程鬱陶しかったのか、彼女は喜んで私を殺してくれたよ。


「アンタのせいで敵を見逃しちゃったじゃないのよ!」

「ここにはもういないのかい?」

「……そうよ! この地下にある影を隈なく探してみたけれど、いるのはこの死に損ない共だけよ」


 すごい。

 彼女はこの短い時間で暗闇の中にいる者を把握して、片手間に私を殺してみせたのだね。

 あ、また泣きそう。




「良いからアンタはこの死に損ない共を助けていなさいよ! 私が敵を探す!」


 私の返事も聞かずに彼女は、詠唱もせずに全身を影で覆う。鋭く赤い眼光が一瞬だけ私を睨んでから、獣のような唸り声を上げて四足で一気に階段を駆け上がっていた。

 狼みたい。




 これ以上彼女と行動を共にしたら、彼女の優れている所ばっかりに目が向いちゃって、また泣いてしまいそう。

 だから、彼女の言う通りに虫の息の人間やエルフを助けてあげることにした。




 彼等が必要としているのは、傷を癒やすことでは無く、食事だった。

 私の出る幕は無さそうだけれど、水を飲ませるぐらいのことはしてあげた。


 生き延びるかどうかはそれぞれの体力次第だね。


「どなたか分かりませぬが、助かりました」


 助けている内の1人が私に謝意を伝えてきた。

 彼は喋るぐらいの体力は残っているようなので、彼にどうやって牢屋に閉じ込められたのかを聞いてみたよ。


 本当は城主がいたら良いのだけれど、暗闇で服装での判断もできないから、今はまず話ができる人間に状況を聞くことを優先したのさ。


 結果として、会話できた彼こそが城主だった訳だけれどね。


 毎日、良い物を食べて栄養を蓄えている城主だからこそ、体力を残していたのかもしれないね。私に感謝するよりも自分が裕福であったことに感謝すべきかも。




 城主に鏡のことについて尋ねた結果、あることが分かった。

 彼は牢屋に閉じ込められてしばらく経つ時まで、正気では無かったみたい。彼自身が、自らの過ちを悔いていたよ。


 始まりはただの収集癖の延長線だったみたい。

 何となく集め始めた鏡の数々を眺めて日常を楽しんでいるうちに、鏡に対する歪な愛情が深まり、狂気を混ぜ込んでしまったのだってさ。まるで私みたい。


 世界中の芸術的価値のある鏡を集め続けた結果、遂に彼は鏡の中の世界を知ってしまった。

 自分こそが世界一の鏡の収集家であることを誇示するために、彼は触れてはいけないものに触れてしまったみたい。

 私だって知らなかった鏡の世界を知るということは、彼にとってはこの上ない程のステータスになるのでしょう。


 けれど、権力にものを言わせて得た魔道具の大鏡は、彼には毒にしかならなかった。

 魔法に耐性の無いただの一般人は、魔力にあてられてしまいやすいからね。(くだん)の鏡と共に生活をしたことで、いとも簡単に彼の性格が豹変してしまったみたい。


 鏡に魅入られた彼が大鏡を直視したのは、豹変してからすぐの話だったでしょうね。




 鏡の中に住まう者(スペクリュグス)という種族の名を聞いたのは、これで2回目。

 彼が最初に鏡の中の世界に取り込まれて、すぐに何者かにこの牢屋に閉じ込められたみたい。


 牢屋の中で徐々に正気を取り戻していった彼の元に、城で働く人間やエルフが後に続くように閉じ込められた。

 その次は、旅の者や彼を尋ねた者が牢屋に閉じ込められていき、今に至るという訳さ。


 彼が言うには、牢屋に閉じ込められた者は皆、口を揃えて人の形をした鏡に襲われたと言っていた。

 それが鏡の中に住まう者(スペクリュグス)と呼ばれる存在なのだと、彼は本で得た知識を披露してきた。


 鏡の外にいた者が誰彼構わずに鏡の中の牢屋に閉じ込められていたことで、先住民の目的を何となく察することができたかな。




「それじゃあ、最後に教えて欲しい。どうしたらこの世界から出られるのかな?」

「それは……もう1度大鏡の前で、鏡の外に出てしまった鏡の中に住まう者(スペクリュグス)と……目を合わせることです」


 やっぱりね。


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