表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第12章 鏡の中の魔女
332/723

第3の目

◆◆◆




 死なずに失った視界を取り戻す方法として、想像によって物を生み出す力で目を作り出してみたが、上手くはいかなかった。

 生物に備わっている眼球の完全な再現は、ただ想像しただけでは不可能なのだろう。


 当然と言えば当然なのだろう。


 これまでの人生で人間の眼球なんて観察したことが無かったし、ましてや普段は身体の内側に収まっているであろう物体なのに、それを見えない裏側まで想像して作ったところで、正しく機能するはずも無い。




 部屋に隠れてから暫くしてリリベルの声は近くでは聞こえなくなった。


 代わりに、離れたところでとても大きな破砕音と彼女の悲鳴が聞こえた。

 外の廊下に響き渡るような音からして、相当な音だったと思う。


 その音を探るべく、慎重に扉を開けて聞き耳を立ててみると、一際大きな破砕音が3度程聞こえて、その後も小さく聞こえ続けていた。

 今はぱったりと止んでいて、外の雨音だけが聞こえているだけだ。


 破砕音は、ガラスが割れたような音で、この城に置かれている物からして鏡が割れたのだと推測はつく。

 破砕音と彼女の悲鳴が同時に聞こえたことからすると、鏡に対して何らかの関係性があるということだろう。


 彼女の悲鳴を聞くことなんて普通ではあり得ないことだ。

 正に異常事態だった。




 まさか目が見えなくなるだけで、得られる情報の範囲がこんなに制限されるとは思わなかった。

 彼女の身に何かあったことは確実で、不安は募るばかりである。


 できるなら、すぐにでもエリスロースたちに助けを求めに行きたい。

 ガラス窓でもあれば、そこから外に出て壁伝いに城の出入り口まで行くことができるのだろうが、ここは舞踏会を行う絢爛(けんらん)な館では無く、防御に徹した堅牢な城だ。

 記憶が正しければ廊下は上部に小さな窓が取り付けられているだけで、人間1人が通り抜けできるような大きさでは無い。




 やはりエリスロースたちに助けを求めるには、城の出入り口を抜ける必要がある。

 使用人用の裏口があって良いものだと思うが、見当たる扉は無かったので、やはり正面の出入り口から外に出ざるを得ないのだろう。


 しかし、リリベルが出入り口付近で待ち伏せか罠を張っている可能性は大いにある。彼女なら何の対策も無しに出入り口付近を空けたりしないだろう。

 やるなら、罠の有無を確認して更に、どこか別の場所で彼女を誘き出してから、出入り口から抜ける必要がある。

 つまり、リリベルを出し抜く必要があるのだ。


 難題極まりない話だ。




 意を決して部屋の外へ出て、身体を廊下に完全に投げ出してみる。

 リリベルが俺を呼びかける声は無かったので、この廊下に彼女はいないとみていいだろう。


 壁に直接手を付けて歩いたら、血が付着しかねない。

 外が雨雲に覆われているおかげで、この辺りも暗いはずだが、血痕が見つからないという保証は無い。


 手を伸ばすのでは無く、肘を前に出す形で、壁との距離を測りながらもと来た道を引き返していく。




 正面の広間に入る扉は開けっ放しのままで、すんなりと入ることができそうだ。

 壁伝いに歩いていれば、出入り口扉に辿り着くことは間違いない。




 顔だけを出してみて、彼女の反応が無いことからここにはいないことを確認し、抜き足差し足で歩く。




 パリンとかジャリとかいう音が鳴る。

 ガラス質の物が割れた時のような音にそっくりだ。




 抜け目のない彼女が、罠を張らない訳が無い。

 予想が当たって嬉しい。




 いや、そんな訳あるか。




 城の中に雷音が響き渡り、頭上から崩れてきた何かが城を揺らす。


「ヒューゴ君。ここにいたのだね」


 とても嬉しそうな声だが、今の彼女は、絶対に俺に会えたことを喜んでいるわけでは無い。

 あれは、眼球という鏡が再び手に入ることを喜んでいる声だ。


「リリベル! 一体どうしたんだ!」


瞬雷(しゅんらい)


 此方の言葉は一切無視かよ。




 咄嗟に具現化した盾で何とか彼女の雷を防ぐことはできた。

 それでも雷の凄まじい威力に盾は手から離れて、俺の身体は後ろの廊下に弾き飛ばされた。


 当たれば普通なら消し炭になる彼女の雷魔法だが、リリベルの魔力で作り上げだ盾で防いだからなのか、上手い具合に相殺してくれた。

 同じ者から放出された魔力であれば、魔法の効力は幾分か薄れてくれると教わったことがある。


 ただ、雷音に関しても普段聞いているものと比べると物足りない気がする。

 心臓を直接鎚で叩きつけられる感覚と、聴覚を一時的に失う爆音が襲ってくるはずだがそれが無い。


 それに、彼女の放つ『瞬雷(しゅんらい)』は、本当に瞬なのだ。

 詠唱をした時には既に狙った地点に雷が降り注いでいるはずだが、なぜか盾を具現化し、防ぐ暇があったのだ。




 リリベルは全力を出していない。

 あえて全力を出していないのか、全力を出すことができないのか、それは今は分からない。


 こうなると残された手段は1つ。

 リリベルの正気を取り戻すしかない。この城の中の何かが彼女を変えたことは違いない。


 広間に戻ることは諦めて、廊下の奥へがむしゃらに走り抜く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ