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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第12章 鏡の中の魔女
328/723

者うま住に中の鏡

◆◆◆



「君、私の傷を治したのかい?」

「はあ? なんでアンタの怪我をアタシが治さなきゃならないのよ」


 それはそうだよね。


 それなら一体、どのような仕掛けで私の目は治ったのかな。

 気付いたら右目の痛みが無くなっていて、いつの間にか目蓋も開くようになった。


 鏡の中の世界には私とラルルカ以外に誰かいるのではないかと思えてきた。




 でも今は、話し途中になっている彼女が鏡の中に入るまでの状況を聞かないといけないね。私から聞いたのに、彼女の話を無視して右目の傷の謎を考え始めたら、きっと彼女にまた右目を潰されてしまうかもしれない。


「ごめんね。続きを話してもらえるかな」

「しっかり聞いていなさいよ。この城の1番高い塔の部屋に小さな書庫があるの。鏡に関する本はそこで読んだのよ」


 ラルルカが行動を初めたのは、もっと前の話みたい。

 彼女は私とヒューゴ君に復讐するためだけに、必死で魔法を勉強して力をつけた。

 そして遠路はるばるワムルワ大陸からエクラータ大陸まで、影に乗ってやって来たという訳さ。影さえあれば、瞬間的な移動を可能とする彼女にとって、ここまでの移動自体は苦じゃなかったみたいだけれどね。


 エリスロースは置いて、金髪の女と黒髪の男、そして青髪の女という特徴的な者たちが一緒になって行動していれば、嫌でも目に付くし噂にもなるから、私たちの居場所を突き止めるのは、彼女にとってあまり苦では無かったみたいだね。影から影を移動して、たくさんの町で噂を集めて、短期間で私たちに接近できた。


 彼女の執念には目を見張るものがあるね。


 ラルルカは私たちを見付けてもすぐには手を出さなかった。

 夜衣(よるえ)の魔女の口が軽かったみたいで、私だけでなくヒューゴ君も不死性を持つことは既に知っていたみたい。


 私たちの行く先々を調べ上げたり、彼女自身で私たちを永遠に殺すための魔法を開発したり、たくさんの努力をしていた。

 そうして、私たちの行動を見守りながら復讐の心を研ぎ澄まして、やる気を維持し続けていった結果、用意できたいくつかの手段ができあがった。その内の1つとして、この城に私たちを招待して行動に及んだという訳さ。




 ラルルカは夜衣の魔女に習った魔法を才能でもって、強力な魔法に作り変えた。


 彼女は私たちの心に影を差し込ませて、私たちの心を操り城に移動するよう仕向けたのだよ。天候が雨でなくとも、きっと私たちは城に行くように心を動かされていたかもしれない。

 ヒューゴ君はともかく、私でさえ気付かないぐらいの緻密な魔力制御は、本当にお見事としか言えないね。


 気付きにくかったのなら、彼女との力差は互角か少しだけ彼女の方が上手と言えるけれど、全く気付かなかったとなれば圧倒的な差があったということになるね。


 彼女の魔力を制御する力は、私よりも優れている。

 これは「多分」じゃない。「絶対」に優れていると自信を持って言えるよ。


 幼い頃から、皆に優秀だ天才だとちやほやされていたから、私は本当に天才なんだと思って生きてきた。

 実際に私自身、今までの魔女生で私より優秀だと思える魔法使いに会ったことが無かったから、それは本当のことなんだと思っていたよ。


 でも、どうやら認識を変えないといけないみたいだね。

 彼女の方がずっと天才と呼ぶべきに相応しい魔女だよ。




 魔力制御が上手い魔女は、効率的な魔法を詠唱することができる。

 効率的な魔法を詠唱できる魔女は、あらゆる属性の魔法を使いこなすことができる。

 ラルルカは私より強く綺麗な雷を放つことができるかもしれないね。


 そして、魔力制御が上手いなら、大量の魔力を必要としない。

 その辺にいる魔女が必死になって詠唱するような魔法でも、私だったら鼻歌混じりに詠唱することができる。

 でも、ラルルカは瞬きをするのと変わらない感覚で詠唱することができる。


 私の好きな魔法『万雷(ばんらい)』だって、私が必死になって魔力を制御して放ったとしても、彼女だったら涼しい顔をして放つことができるかもしれない。もしかしたら連発することさえ可能にしてしまうかもしれないね。




 正直、ちょっとだけ嫉妬しちゃったかな。

 誰よりも優れていると自負できていたはずのことが、今は自信を持って言うことができなくなってしまったよ。

 彼女が存在していることで、私はただの魔力が多い魔女に成り下がってしまうのだからね。


 もしかしたら、ヒューゴ君が尊敬する相手が変わってしまうかもしれない。

 今までは私だけに言ってくれていた優しい言葉が、ラルルカに向いてしまうかもしれない。


 私の大事なものが2つも奪われてしまうのだよ。


 それは、それはとても怖いことだよ。


 そう考えてしまうと、ほんの少しだけ彼女に殺意が湧いてしまった。




「この大きな鏡は魔道具で、鏡の中に住まう者(スペクリュグス)と目が合うと入れ替わって……って聞いてんのかしら?」

「え、ああ。うん、聞いているよ」

「とにかく! アタシは、その……ちょっと……んで……で! 見た目も声も性格も魔力さえもそっくりそのままの奴が、私と入れ替わっちゃったの!」


 途中で歯切れが悪くなって小さく話した彼女の言葉を私は聞き逃さなかった。

 彼女は、この綺麗な床で転んでしまい、咄嗟に鏡を見てしまったことで鏡の中にいる誰かさんと入れ替わってしまったみたい。


「読んでいた本に書いてあったのは、あくまで鏡がどいううものかっていう説明だけだったし、出る方法なんて書いて無かったわよ!」

「でも、その本はちょっと気になるね」




 私の心の中にある恥ずかしい小さな殺意をどこか遠くに追いやりたくて、強い反抗を受けると知っていながらも、私はラルルカの手を無理矢理取った。小さな書庫があるという、塔への道案内をお願いしたのさ。


 彼女に道案内されなくても塔までの道のりは覚えているけれどね。


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