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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第12章 鏡の中の魔女
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鏡の外の魔女2

 リリベルが俺の目玉に夢中な内に、城の外に逃げ出してエリスロースたちに助けを求めようとしたが、彼女に阻まれてしまった。


 俺を城から出したくないのかと思ったが、俺の目玉をもっと欲しがって無意味に殺人を重ねようとしていたから、多分違うだろう。

 今までつぶさに確認をしたことが無かったから分からないが、多分死んでから生き返ってしまうと、千切れて離れた部位は消えて無くなるような気がするのだ。




 では、実際に死んでみれば良いという話なのだが、幾ら不死だからと言ってそう簡単に死を決心できるものでは無い。

 死ぬのは痛いからだ。大抵の場合、死ぬ時には痛みを伴うし、痛みの度合いも2度と経験したくない程のものだ。

 そう簡単に彼女の望みを叶えてやったら、俺は度重なる痛みで狂いかねない。


 しかも俺にかけられた不死の呪いは、リリベルの不死性と同じく、死の直前の状態に戻るだけだ。

 つまり訪れる死の場面によっては、再び生き返っても五体満足とは限らないのだ。もし、五体満足で元に戻りたいなら連続して死に続けなければならない。


 それは正に地獄のような痛みを伴う羽目になる。




 死にたくない理由はもう1つある。

 リリベルに殺されたくない。

 正確には、何らかの理由によって彼女本来の意思が失われている状態で、彼女に殺されたくないのだ。


 これまでに散々彼女のことを狂っていると表現した。実際、彼女は間違い無く狂っている。興味の無い者に対する扱いが酷かったり、どうせ死んでも生き返るのだからと自身の身体を(いたわ)らなかったりと、どうしても俺には理解できない価値観を持ち合わせているのは確かだ。




 だが、そんな彼女でも人並みに心が傷付いて落ち込むことはある。


 彼女のことを狂っていると思っているからこそ、そのようなことで傷付くのかと驚いたことは何度もあった。

 これは、その中の1つであるが、彼女は彼女の中で決めた基準以上に俺が苦しむことを好まない。


 俺が病に()したり、泣く程心や身体を痛めつけられたりすると、彼女は途轍もなく心配するのだ。普段では見られない甘やかしを受けることになるし、俺が苦しむことを予見できなかったと、なぜか彼女が落ち込んだりする。


 今、この状況を鑑みるに、リリベルが普段のリリベルとは違うことは明白だ。

 見た目や話し声からして、彼女がリリベルであることに間違いは無く、偽者の可能性ということは考え辛い。

 そう考えると彼女は、身体か精神を乗っ取られているのではないだろうか。


 そんな彼女が普段の通りに戻った場合、きっと彼女はいつも以上に心を痛めるだろう。

 俺を殺し、苦しめ続けた犯人が他の誰でも無い彼女自身であると自覚すれば、きっと彼女は悲しい顔をして落ち込んでしまう。


 俺は、その悲しむ顔を見たくないのだ。




 これではまたどっちつかずの甘ったれと彼女に怒られてしまうかもしれないな。


 目が見えない状態では真っ直ぐ歩くこともままならなず、何もできない。

 不死の身体を活かして、自ら死ねばすぐに問題は解決できるが、自らの手で死ぬのは怖い。




 今使える傷を癒やす魔法は、腕をぶった斬られたとしても、その腕さえあればくっつけることはできるが、無い腕を生やすことはできない。

 無から有を生み出すことはできないのだ。


 リリベルがくり抜いた両目を俺に返してくれない限り、生きたまま視界を取り戻す方法は現状無いだろう。




「ヒューゴくーん。どこにいるのかなー」


 彼女に殺されることを何よりも避けて、彼女の声のしない方へ全力で逃走した結果、1つの寝室に逃げ込むことに成功した。

 手だけの感触を頼りに、ベッドがあることを確認してその下に潜り込んで息を潜めている。


 魔力によってリリベルと繋がっていることを考えると、隠れても無駄な気はするが、彼女が分かるのは大体の位置ぐらいだから、少しくらいは時間が稼げる。

 その間に、腹の傷を癒やす。


 雷でできた剣によって刺し貫かれた腹部は、雷の熱によって焼かれて出血はしていなかった。

 ただ、気を緩ませれば気絶するのでは無いかと思える程痛いし、何より呼吸が困難なのだ。


 せめてこの傷は治して、逃げ回る準備を整えたい。




「君のキラキラした目の黒い部分がもっと欲しいなあ」




 驚いたことに、彼女は俺が入った部屋を通り過ぎてしまった。

 まさか俺がどこにいるのか分からないのだろうか。


 だが、彼女がリリベルであることを考えると、わざと俺を泳がせている可能性はある。

 油断はできない。


 そう思って、呻き声を上げないように片手で口を押さえながら、もう片方の手で腹部を押し当て小さく回復魔法を詠唱した。

 しばらく時間を使って、腹の痛みが無くなったところで、ようやく彼女から逃げる準備が整った。




 目が見えない今、頼りになるのは聴覚と触覚だけだ。

 ベッドの下から這い出て、そのままカーペットの感触を確かめながら、扉があったはずの方向へ静かに手を伸ばしてみる。

 こつんと指先に当たったものが、壁か扉かを認識するためにゆっくりと一方向へなぞっていき、扉の輪郭が判明したところで、そこに耳を押し当てる。




 彼女の声や足音は聞こえない。

 そもそも外の雷雨のせいで、ろくに音は聞き取ることができないのだが、それでも彼女の俺を呼び掛ける声はしない。


 これで扉を開けたすぐ先にリリベルがいたら心臓が止まってしまうかもしれない。


 腹の痛みがおさまって余裕が出てきたのか、自分でも馬鹿だと思える冗談を考えついてしまった。

 今の状況はまるでかくれんぼのようだ。


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