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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第12章 鏡の中の魔女
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女魔の中の鏡

 しばらく沈黙が続いて雰囲気が悪かったから、彼女に話しかけてみたのだけれど、余程虫の居所が悪かったみたいで、右目を差し貫かれてしまった。


 右目周辺と頭がズキズキして痛いけれど、痛みに(うめ)く姿を彼女に見せるのは格好悪いから、いつもみたいに私の身体を私自身で操って見た目は平静を装っていう風に見せた。


「目を潰したくらいじゃ、死なないよ?」

「黙れブス」


 ブス?

 ヒューゴ君に綺麗だ可愛いと何度も褒められる程の容姿を前にして、ブスの一言で片付けるなんて、この魔女は見る目が無いね。


 彼女が怒っている理由は、主に私とヒューゴ君に対する復讐心からだろうね。

 彼女の名前は確か……。


「君の名前、何だっけ?」


 彼女は私のことを完全に無視している。酷い。


「君が答えるまで私は聞き続けるよ」


 余程私のことが鬱陶しいと思ったのか、物凄く大きな舌打ちをしてから彼女は叫ぶように「ラルルカ・アルゾニア」と吐き捨てた。


 その名前で思い出した。そうだった。

 彼女は夜衣(よるえ)の魔女の弟子ラルルカだったね。


 彼女は夜衣の魔女を敬愛していたみたいで、アイツを殺した私たちのことをとても恨んでいる。

 先程まで聞こえていた彼女の独り言からして、どうやら彼女は幼い頃から夜衣の魔女に育てられていたようだから、彼女にとっては母親のような者だったのだろうね。




 私とラルルカは今、とある城の中にいる。というか閉じ込められている。


 とある町と町の間にある、森の中を通っていた時に、急な雷雨に見舞われてしまって、すぐ近くにこの城があることに気付いて寄ることになった。

 ヒューゴ君絶賛の私のこの美貌と金にものを言わせれば、きっと一夜くらい泊めてくれると思ったのだけれど、不用心にも程があって城には誰もいなかった。


 別に廃城という訳では無いと思う。

 城壁は苔や蔦も無くヒビ1つ無いぐらい綺麗だし、城の中の飾り物は埃まみれでも無いし、床のカーペットは汚れ1つ無かった。




 不思議な城だったね。

 だってこんなに綺麗な城なのに、誰1人いないのだよ。あり得ないよ。


 それでも、後でお金を置いておけば寝泊まりさせてもらっても良いかなと思っていたけれど、ヒューゴ君が場内を探索し始めたんだ。

 さすがに1人はいるだろうってヒューゴ君が言っていたので、彼と一緒に城の人を探し回っていたら、あることに気付いたよ。城主の趣味なのか、鏡が一杯あったんだ。


 壁に大きな1枚鏡。

 何の用途なのか天井に張り付けられた飾りの付いた鏡。

 なぜか廊下に所々ドレッサーがあってそこに取り付けられた鏡と台の上に手鏡まで用意してある始末。


 とにかくたくさんの鏡があって不気味だった。

 鏡と言ったら幽霊や悪魔が住み着く御伽噺なんかを読むから、ほんの少しだけ、怖いと思った。ほんの少しだけね。




 それで城の者が見つからないまま、もしかしたら上の階に誰かいるのではないかという話になって行ってみたら、とある部屋の扉が開いていたんだ。


 ヒューゴ君は、きっとそこに誰かいると思ったのだろうね。

 勇んでその部屋に入ってみたけれど、そこにも誰もいなかった。

 不用意に部屋に入る私たちは、強盗と間違われて攻撃されても仕方無いから、ヒューゴ君の身に何かあってしまわないかと心配だったけれど、何も起きなくて良かったと思ったよ。


 その時はね。




 その部屋は、両側の壁一面にそれぞれ鏡が取り付けられていた。

 鏡に写った後ろ側の鏡が、更に目の前の鏡を写して、無限に鏡の中の世界が広がっていたんだ。


 一体何の目的があって、このような取り付け方をしたのかほんの少しだけ興味があったけれど、ヒューゴ君がこの部屋に誰もいないことが分かってすぐに部屋を出ていこうとした時に、不意に気付いてしまった。


 この鏡から魔力が感じ取れたんだ。

 だから、鏡を凝視した。




 もちろん鏡には私が映っていた。

 鏡だからね。


 鏡に何か仕掛けが施されているのかと思って、それに手を伸ばそうとした時に、鏡の中にいた私が突然勝手に私の手を引っ張って、私を鏡の中に引きずり込んだ。


 驚きすぎて悲鳴を上げちゃったし、泣いちゃうかと思ったけれど、私は泣かなかったから偉いと思う。


 でも、問題はそこからで、すぐに振り返って見たら、鏡の外に私がいて、その私はヒューゴ君に呼ばれると勝手に付いて行ってしまった。


 偽の私が鏡の外にいて、本物の私が鏡の中にいる。

 今はそういう状況。




 それで、どうにかして鏡の外に出られないかと思って、鏡を破壊しようと魔法を詠唱しようとしたら、このラルルカに止められたのさ。


 彼女は、私の顔を確認する前に、私の行動を止めようと手を伸ばしてきたけれど、私が仇であると気付いてからはそれはもうすごかったよ。


 彼女の怒りのままに何度も殴り殺されたり、刺し殺されたりした。

 私が不死であることを思い出すまでそれは続いたから、服がボロボロになってしまって困ったよ。

 ヒューゴ君に貰った大事なマントも、何箇所か破れてしまったから後で彼に直してもらわないとね。



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