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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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互いの正当性4

「お前が見えている未来では、俺は世界よりリリベルを選び続けて、世界を滅亡に向かわせるってことか」

「その通り!」


 なるほど合点がいく。

 どうやって世界が滅ぶのか、具体的に想像することはできないが、例えばリリベルの存在が世界滅亡の原因となっているなら、世界とリリベルどちらかを選択せざるを得ない状況になるどろう。


 そうなった時にどちらを選ぶかと聞かれたら、残念ながら今の俺はリリベルを選ぶだろう。




 だが、先程マルムに言ってやった通り、今日の繰り返しで俺たちは未来を変えることができた。

 俺はあり得ないことを引き起こすことができる性質になっていると言ったのは、他の誰でもないマルム自身だ。

 神ですら引き起こすことができなかった世界の変化を引き起こしてみせたのだから、次に起きる困難だって解決できる。


 それぐらいの自信はある。


 俺は1人だけでは無いのだから。




 よくよく考えてみると、彼はこれまで散々愛を謳っておきながら、自分以外の誰も頼ろうとしてこなかった。

 ただ1人で世界を変えようとしてみせた。


 神なんだからそれぐらいできて当然だと思っていたが、どうやら俺が見ている神は想像よりもすごくないようだった。


 なぜ、自分が愛していると言った者を頼ろうとしないのか。

 それは分からない。


 もしかしたら神には神の掟があるのかもしれない。

 他の神とは不干渉の決まりがあるように、この世界の誰の力も頼ってはいけないという決まりがあるのかもしれない。


 そうでも思わないと、今までの彼の行動に納得がいかないのだ。

 そう考えてしまうと、独りぼっちの神様を哀れに思ってしまった。




 だが、俺がここで死ぬこととは話が別だ。


「自分で言うのも何だが、俺が死ねば悲しむ者がいる」

「知っているよ。君はたった1人の愛する者のために死なない」


 いや、もう1人か2人ぐらいは悲しんでくれる者がいるはずだ。

 さすがにそこまで寂しい人間じゃない、と思いたい。


「そもそも俺とリリベルが原因で世界の滅亡が確定してしまうのは、いつなんだ? そこでお前はまた繰り返しを始めるのだろう?」


 きっと今日みたいな繰り返しを彼はまた行うはずだ。その日まで俺の殺害を保留できないかを聞いてみたい。


「君に教える訳にはいかないよ。でも、遠くない未来さ」

「なぜ教えるわけにはいかない? また神特有の制約というやつか?」

「そうだよ」


 欲しい情報が得られず、無意識に頭を掻き毟ってしまう。勿論、鎧に身を包んでいるから、実際に掻いたのは兜だ。




「話は変わるが、今、町の方はどうなっている? お前は外の様子が分かるのだろ?」

「裁判? というもののことだね?」


 時間稼ぎの話題逸らしに、彼は何の疑問も抱かずに答えようとしてくれている。

 いや、もしかしたら彼は俺の意図に気付いていて、質問に答えてくれているのだろうか。


「君が呼んだフリアさんという人が、裁判官という役割で愛するゴブリンの話を聞いているよ」


 いつの間にか、彼女がこの地に到着していたようだ。

 山の中の暗闇にいるせいで時間の感覚が分かり辛いが、どうやら予定通りにことが運べているようだ。




「俺を殺すかどうかを悩む前に、せめてこの裁判の行方を最後まで見守らせて欲しい。俺はここから移動することはしないから」

「良いよ! 愛する君の頼みなら何だって聞くよ!」




 そこからは長い間、彼の口から裁判の行方を聞かされることになった。


 本当は自分の目で裁判の様子を見届けたかったが、致し方無い。


 当たり前だがフーレンの日記には、フーレンが見聞きしたことしか書かれていないのだ。

 俺の身に何が起きるかまでは、日記の特性からして記述は無理なのだろう。




 メルクリウスの主張は、目には目を歯には歯をだった。

 自分の大切な仲間が殺されてしまったのだから、フーレンにも同様に死が与えられるべきだと言った。


 人間側は町の(おさ)が代表になって言を発した。

 そもそもゴブリンが人間を脅かすような行動を起こしたから、今回の事件が起きた。

 故にフーレンに落ち度は無く、不幸な事故として解決して然るべきだと、長は主張した。


 日記がどのように記述されたかを読む前に、ここに転移させられたから、裁判の途中の状況がどうなるかは俺も分からない。




 できれば裁判が終わった後も、2種族間で禍根を残さないようにして欲しかったが、そこはフリアと日記の中にいるマテオの匙加減次第だ。

 事細かく書かれる日記の内容を伝える隙も無かったから仕方無い。


「聴衆も皆、白熱して騒ぎ立てて収集がつかなくなっているね」


 そう言ったマルムは、すぐにあっと声を上げて続けた。


「君の愛する者の怒声で、皆一気に黙ってしまったよ」


 周囲の者を全て黙らせる程の大声をリリベルから発せられたなんて信じられない。

 そもそも彼女は、ゴブリンと人間の争いに全く興味は無いのだ。その彼女が大声を出したということは興味深かった。


 尚更、裁判の様子を見たくなってしまった。


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