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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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互いの正当性

 マルムが居座る黒っぽい山の入り口で彼女を待っていた。

 勿論、リリフラメルのことだ。


 メルクリウスと偽のゴブリンの火葬を見届けてから、集落を離れて、リリベルと共にここで待っている。




 彼女が穴から出て来たのは、夜明け頃だった。

 全身が赤く焼け(ただ)れていて、服と肌が張り付いてとても痛々しい姿であった。


 彼女は不死ではあるが、俺やリリベルと違って死ねば全てが元通りになる訳では無い。戦いでできた傷は、癒やさない限り治ることは無い。


 俺たちの姿を見て安心したのか、彼女はその場で顔から倒れ伏してしまった。

 彼女の意識が再びはっきりするまで、俺は彼女に傷を治す魔法をかけ続けた。


 身体の内側も外側も酷く燃えてしまって、これで死なないのがあり得ない状態であった。

 彼女が炎で自らを燃やしても形を保ち続けられているのは、彼女に火の精霊(サラマンダー)の血が混ざっているからだろう。


 四肢の義手義足は、炎で燃えて変形や破壊すること無く無事だった。

 さすが歪んだ円卓の魔女の1人、蒼衣(そうえ)の魔女が作った魔道具なだけある。




 彼女の治療が済んでも、ひと息つくことはできない。すぐに山から草原へ移動する必要があった。


 リリフラメルを背負って移動を始めると、リリベルから強い羨望の視線が突き刺さり始めた。

 リリフラメルのことを羨ましそうに恨めしそうに見ている彼女の嫉妬深さには、難儀するものがある。


 彼女の機嫌を損ねないように、「後で好きなだけ背負ってやるさ」と言ってみると、彼女はリリフラメルを背負うことを渋々了承してくれた。

 そのうち嫉妬で満たされた彼女に刺されないか心配になってきた。




「気を、失ってた?」


 背中からリリフラメルの声が聞こえて、彼女が目を覚ましたことが分かった。

 すぐに俺の背から下ろすよう言ってきた彼女だが、(ねぎら)いを込めてしばらくは彼女を背から下ろす気は無かった。無視して歩みを進めていると、彼女が「お前の想い人が物凄い目で私を見ているのだが」と心配の声を上げる。


「リリベルには許可を取ってあるさ。それよりも、俺の頼みごとを聞いてくれてありがとう。本当に助かった」

「気にすんな」

「気にはするさ。マルムはどうなった?」

「アイツは今も泣いていると思う。ぶん殴ったし、燃やしてやった。それでも死なずにぴんぴんとしていたのは、腹立たしいけれど」


 リリフラメルがマルムを思い切り殴り付ける場面が、ありありと想像できた。

 その想像は、俺の心をとても晴れやかにしてくれた。言い換えればすかっとした。


「アイツが大人しくなった後に、お前の言う通りに会話もした。やけに聞き分けが良かったぞ」

「彼は何て?」

「今日は大人しく私たちの動きを見守るってさ」

「それは良かった」


 リリフラメルは俺の頼みごとを完璧にこなしてくれた。


 マルムが嘘をついていないなら、これでマルムについて心配する必要は無くなった。


 リリフラメルにはマルムに対して、俺が今日の繰り返しを知っていること、マルムには何もせず俺たちの行動を見守ることを伝えるように頼んだのだ。

 今日に関して、未来を変えるための余計な行動を彼が取らないのであれば、俺たちはより行動しやすくなるだろう。




 草原を歩き続けて、馬車の荷台を放置した場所に到着した所で、次の行動へ移す。


 ここから昼までは、エリスロースへの頼みごとが完遂されていることを信じながら動くしか無い。




 全神経を具現化に集中させて、1つの物体を生み出す。

 さすがにこれ程大きな物体を生み出すのには、気を使う必要があるのだ。とは言え、踏み鳴らす者(ストンプマン)を生み出した時程では無い。


 眠気で反応が鈍くなりつつある身体に鞭を打ち、周囲に撒き散らした黒いもやを一気に形作らせると、1棟の建物ができあがった。


 厳かな雰囲気を作るために、外壁は細やかな彫刻を施してある。

 具現化で最も大変なことは細やかな部分を想像する時である。細かい部分を想像すればする程、全体像がぼやけて具現化に苦労するのだ。


 装飾を間近で良く見れば、それが入り口の扉から左右で装飾の位置や模様が異なっていて、杜撰な建築であることが良く分かるだろう。


 だが、これぐらいは目を瞑ってもらいたい。


 雰囲気を味わってもらえればそれで良いのだ。




「これが、裁判を行う建物なのだね?」

「その通りだ。エリスロースの方が上手く行けば、ここに人間とゴブリンが集まってくるはずだ」


 リリベルが壁を指でつんつんと突き刺して感触を確かめる。


 扉を開けて中に入ると、円形の大きな部屋ができあがっていることが確認できた。


 中央には演壇を作り、それを囲むように階段状の席を設けてある。

 部屋の奥側にも階段状の席はあるが、1番奥側だけは1人だけ別に座ることができる特別席が存在する。そこには今回の裁判の是非を判断する者に座ってもらう予定だ。


 出来としては中々のものだ。自画自賛しても良い。


 後は気絶したり死んだりしないように努めるだけだ。勿論、睡眠もできない。

 俺が意識を途切らせた時点で、魔力の流れが止まり、具現化したものが消滅してしまうからだ。


 舌を噛んだり、手の肉をつねったりすれば何とかなる。




 そんな眠気を持ったまま、今度は町を目指して歩く。


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