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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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奇跡を起こす可能性4

 ゴブリンの住処へ行くことはそれ程難しいことでは無かった。

 フーレンから貰った灯りを使いさえすれば、見慣れた森だ。何度も繰り返しを経験してきたから、住処へ行くまでの道のりはしっかりと頭の中に入っている。




 住処の明かりが見えてから、足早に駆けてリリベルと合流した。

 ゴブリンたちの集落に入る前に、ゴブリンの死体を具現化してある。


 メルクリウスに仲間が殺されたことを信じてもらうには、死体を見せることが1番である。

 もっともこれは本物の死体では無い。


 だが、ゴブリンたちが騒ぐには十分な状態だろう。




 メルクリウスとリリベルは、彼のテントの中で談話していた。


 ゴブリンの死体を床の上に横たわらせて彼に見せると、彼は間も無く怒りを(あら)わにした。


「森を抜けた町に住む1人の人間が、このゴブリンを誤って殺してしまったんだ」

「その人間を血祭りに上げねばならぬ! 今すぐにでも戦いの合図を息子たちに呼びかけん」

「落ち着いてください」


 メルクリウスは鋭い目付きを更に鋭くさせて、周囲にある物を手当たり次第当て散らかした。

 怒りで我を忘れる寸前であった。


 だが、彼にはこのままゴブリンたちに号令を与えて欲しくない。

 そうなってしまえば、世界は滅んでしまう。


「ここでメルクリウスが、ゴブリンたちに号令をかけて人間たちを殺せば、仲間を殺した人間と同じになってしまう」

「何を馬鹿なことを言っているのかね! 畜生にも劣る人間を見過ごせと言うのかね!?」


 興奮した彼の唾が顔に面白い程かかる。

 リリベルの唾をかけられたとしてもちょっと嫌なのに、おっさんのゴブリンにかけられたら尚更嫌だろう。

 だが、ここは我慢しなければならない。


 余計な行動1つで未来は、何がどう変わるか分からない。


 我慢して彼を説得しなければならない。


「貴方まで人間と同じになる必要は無いと思います」

「ならば一体どうしろと言うのかね!」

「メルクリウス。貴方の方から人間に対して声を掛ければ良いのです。ゴブリンたちの方が、よっぽど理性的であることを彼等に示せば良いのです」




 リリベルの方を一瞥すると、彼女はおおと声を上げてメルクリウスの説得に加勢してくれた。


「丁度良かったじゃないか。裁判を起こせばいいのさ。君たちゴブリンが人間よりも優れた種族であることを知らせてあげればいいのさ」


 メルクリウスは歯を食いしばってしばらく唸った。

 周囲に物が無くなって、物に当たり散らかすことさえできなくなった彼は。代わりの行動として貧乏ゆすりが激しくなった。




「裁判?」


 あくまでリリベルとメルクリウスが裁判について話したことを知らない振りして、彼に質問する。


 すると彼は、先程までリリベルから裁判に関する知識を授かったと説明した。

 リリベルのおかげだ。




「だが、相手は畜生だ。畜生と裁判を行っても仕方無いと思わんかね」

「畜生だからこそ仲間を殺した人間よりも、自分が優秀であることを彼等に見せつけねならないと思います。ゴブリンとして、そしてゴブリンの王として」


 少しずつメルクリウスの興奮が収まっていることは分かった。

 仲間を殺した復讐心よりも、裁判についての会話に興味の天秤が傾き初めていることは明らかだ。




「勿論、俺とリリベルが裁判を取り仕切るつもりです。人間でもゴブリンでもない第三者の立場が判断することは重要だと思います」


 王としての余裕を見せつけて欲しいという意味を込めて、俺は彼に裁判を行うことで得られる利点をのべつ幕なしに語り続けた。


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