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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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奇跡を起こす可能性2

 リリベルと森に入ってからすぐに事が進んだ。

 日が暮れて森が真っ暗で何も見えなくなる前に、食糧探しに勤しんでいる振りをしているゴブリンたちを見つけられたのは良かった。


 彼等の数は毎日一定にならない。

 食糧探しは3人だったり5人だったり、もっと多かったりすることもあれば1人だけのこともある。


 ()()は7人だった。


 悪戯好きのゴブリンたちはほとんど遊んでばかりで、誰1人としてまともに本来の目的を全うしようとする者はいなかった。




「リリベル。メルクリウスに会って、上手い具合に裁判について教えて欲しい。不自然だと思われないようにな」

「会っていきなり裁判のことを喋り始める魔女を、彼は絶対不審に考えると思うよ」

「リリベルなら彼に不審に思われないように話すことができる()()さ。俺は信じている」


 俺が彼女を信頼していることを真正面から伝えると、彼女は気持ち悪く身体をくねらせて喜びを表した。


 ことリリベルに関しては疑う余地が無い。これまでの経験が問題無いと言っている。




 リリベルは1人茂みから飛び出してゴブリンたちに近付いて行くと、すぐに彼女に気付いた彼等が悪戯できる相手を見つけて喜び騒ぎ始める。


 俺には理解できないゴブリン語による会話と謎の踊りを双方で展開しながら、1人のゴブリンがリリベルと共に森の奥へ消えて行った。

 彼女はゴブリン語を発音はできるが、その言葉の意味までは知らないはずだ。

 だと言うのに、俺の望む形にあっさり持っていってしまった。




 残った6人のゴブリンたちが再び遊びか食糧探しに勤しみ始める。


 いつになるかは分からないが、このゴブリンたちの誰かがフーレンに殺される可能性は高い。


 フーレンはただの魔法薬師だ。

 ゴブリンの集団を相手にできる力は無い。

 だから、彼が狙うのはゴブリンの集落からはぐれた誰か1人なのだ。これは繰り返しの中で知った絶対の出来事の1つだ。




 ただ、リリベルを集落へ案内したゴブリンが彼に殺される可能性もある。そちらだってゼロでは無いのだ。


 だから、この6人のゴブリンたちの誰かを殺害するという事実を作る。他の可能性を一切排除するように仕向ける。


 フーレンの居場所を誰も知らないのだ。

 マルムは知っているかもしれないが、今ここにいる俺はそれを知覚できない。




 頭の中で想像さえできれば、あらゆるものを生み出す力。


 俺はリリベルから貰ったその力で、ゴブリンを作り出す。

 目の前にいるゴブリンたちの性格や見た目を必死に頭の中で思い浮かべて、それを形にするのだ。


 灰色の身体に大きな金色の瞳、小綺麗な服を着せて、仕上げにもう1つ性格を()じ込む。

 このゴブリンは、仲間からはぐれる癖がある。

 彼はそういう性格なのだ。


 見た目には茂みの向こうにいるゴブリンと相違無い。


 このゴブリンこそが、繰り返しで必ず殺されてしまうゴブリン。

 今日はそういう日なのだ。




 偽者はゴブリンたちから離れて、1人で騒ぎながら森の奥へ進んで行ってしまった。


 偽者の後を追う前にまだ生み出さなければならないものはある。


 これは保険だ。

 もう1人、具現化したい者がいるのだ。


 自分の手足や衣服を良く確認して、顔を良く想像して、恐らく誰よりも知り尽くした彼の性格を付け加えながら、リリベルの魔力を手に集めてそれを作り出す。

 余り好きでは無い男が目の前に現れると、彼はすぐに茂みから飛び出して、6人のゴブリンたちと相対した。


 彼を見知っているゴブリンたちは、恰好の悪戯相手が見つかって喜び、彼の周囲を取り囲むようにしながら踊り跳ね始めた。

 彼がいれば、6人のゴブリンたちがどこかへ離れて行ってしまうことは無いだろう。

 食糧探しよりも大事なヒューゴ(おれ)への悪戯に集中しなければならないからだ。




 俺の意志を最も知る俺自身にこの場を任せて、俺は先に森の奥へ入った偽ゴブリンを追う。




 周囲は真っ暗だが、ゴブリンの位置はすぐに分かる。

 リリベルと違って魔力を感知できる訳では無いが、自分が生み出したものの位置は何となく把握できるのだ。

 まあ、端的に言えば勘だ。





 勘を頼りに森を突き進むと、割とすぐにゴブリンの声に辿り着いた。


 木の陰に隠れて様子を窺い続ける。ゴブリンの様子を見ている間に、この後のことを考えた。


 エリスロースに頼んだことが上手くいけば、今日の夜中を超えて、明日になった時には物語が進むはずだ。

 それまでにフーレンには、偽ゴブリンを殺して貰わないとならない。

 逆にその他の生物を殺して貰ってはならない。その運命になることだけは何としても死守しなければならない。






「うわああ!!」


 偽ゴブリンの動きをしばらく見守っていると、フーレンの驚く声に気付いた。


 すぐに彼の声の元を探って姿の確認を試みる。

 大きな音を立てないように注意しながら、腰を低くして、より近付いてみる。


「こっちに来ないでくれえ!!」




 いた。

 フーレンだ。


 彼は完全に動揺していた。

 出会い頭の偽ゴブリンに対して、恐怖心をナイフに込めて勢い良く刺しているのが見えた。


 滅多刺しだ。

 しかし、彼が刺している偽ゴブリンは魔力で形どられた存在で、死ぬことは無い。

 だから、目の前の偽ゴブリンに対して更なる想像を差し込んで、別の存在に作り変える。


 見た目は、そのまま。

 ただし、頭の中で想像するゴブリンが生きて動いている姿を排除する。

 すると偽ゴブリンは、ただのゴブリンの形をした人形へと変貌する。


 これで、ナイフで刺されていたのに、無邪気に動き回るゴブリンとならずに済む訳だ。




 そして、立て続けに行動を起こす。

 次なる行動は、俺が彼の殺害する瞬間を見たという事実を、彼自身に知ってもらうことだ。


 リリベルと違って三文芝居かもしれないが、そこは大目に見てもらえるよう願うしか無い。


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