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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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目立たぬ事件性

 度重なる不幸。

 普通に生きていれば巻き起こらないであろう出来事に異常なまでに遭遇する運の悪さ。


 リリベルと出会うまでの人生でも、俺にとって少しは特筆すべき事件があった。ただ、それは稀な話だ。


 俺が、子どもの頃から奴隷としてワムルワ大陸へ連れて来られたことや、捨て駒として縁もゆかりも無い国の戦いに参加させられたことなど、年齢の割には悲惨な事件に遭遇したと自負できる。


 だが、その18年余りの時間よりも、彼女と出会ってから2年程の時間の方が、遥かに事件が多い。望まない事件ばかりだ。

 ひと月でも平穏無事に過ごせたこと等無いのだ。


 そして、巻き込まれた事件では必ずと言っていい程、平穏にことが収まらない。

 それは、運が悪いでは片付けられないような巡り合わせの連続だ。ある意味では運が良いとも言える。


 その酷い巡り合わせの原因は、リリベルと行動を共にしたからこそだと思っていたが、どうやら違うようだ。

 今の話で納得できた。


 これまでの滅茶苦茶な巡り合わせは、俺に掛かった呪いによるものなのだ。

 彼女との契約によって俺は、世界から仲間外れにされてしまった。




「それじゃあ何か。俺は運が途轍も無く悪い人間になってしまったってことか?」

「いや、君には運そのものが無いのだよ。幾ら努力をしようと全てから見放されている。君は誰からも救われることは無く、誰からも愛されることはない」


 その場合の愛が何を指すのかは想像し難いが、マルムのその言葉だけは否定できる。

 リリベルには愛されていると思うぞ。


「私はヒューゴ君を好んでいるから、『誰からも愛されることはない』というのは間違っているよ」

「加護、という意味なのだよ。運命すら無い君は、常に死と隣り合わせなのさ。路傍の石に(つまず)いて死ぬことだってある」


 不慮の死。

 本来なら死ぬ場面でないが、加護も運もない俺は、降りかかる雨の如く死の機会に恵まれている。




 リリベルが不死の呪いを掛けてくれなければ、俺はとうの昔に死んでいたのかもしれない。()()ではないが、幸運だった。


「リリベルのことを好きで良かった」

「うへへ」


 彼女は気持ち悪い笑みで喜びを表した。






 山を後にして穴の外に出ると、太陽が沈みかけていることが分かった。

 最初は夜明けだと思っていたが、町に向かって歩いている間に、陽が山の向こうに下がっていくのが見えて、今が夕暮れ時であることが分かった。


 これまでと同じなら、間も無く繰り返しが起きる。


()()はフーレンによる殺人ならぬ殺小鬼を止めなければならない。ただ、どうやって止めれば良いのか……」

「まず、彼の動きを把握する必要があるね。いつゴブリンを殺そうとするのか、突き止めないとね」

「そうなると、皆に説得しないといけないな。いきなり俺だけが別行動を取ったらリリベルたちは不思議に思うだろう」

「そうだね。だから、君には悪いけれど、これまでのあらましを私たちにまた説明してもらえるかな?」

「構わない。それぐらいはやってみせるさ」




 俺だけが繰り返しを知っている。

 だが、俺が最も信頼できる存在であるリリベルたちは記憶を持たない。

 だから彼女たちには最初から何としても繰り返しのことを伝えるつもりだった。何より心細くなって耐えられないだろうしな。




 もう少しだけ彼女と話し合っていたかったが、背後から照らされた光が次の繰り返しを知らせていた。

 町の方は色々な所から煙が立ち昇っていた。




 次の繰り返しでは、あの町から煙が昇らないことを祈るばかりだ。生憎、祈る相手がいないが。






 そうして、俺は50回も()()を繰り返した。


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