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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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真の明日の方向性2

 今までの笑顔はどこへやら。たった1つの嫉妬で、滅茶苦茶なことをしでかす彼に対する恐怖なんかは一気に無くなってしまった。

 神様の癖に何と心が弱い。


 いや、案外神様も人並みの精神力しか無いのかもしれない。


「どうして……どうしてそんな酷いことを言うんだい。私は、ただ皆を救うために頑張っているだけなのに……」


 何度も涙を拭う仕草を取る彼が段々哀れに思えてきた。

 リリベルは呆れ顔で溜め息を吐いた後、目の前の彼に一層の興味を失ったのか、俺の胸元に後頭部を押し付けてそのまま寄り掛かってきた。


「ヒューゴ君が泣き喚く姿を見るのは好きだけれど、あんな男の泣く姿を見せられるのは拷問と同じだよ」

「できるなら俺の泣く姿を好んでも欲しく無いのだが」




 穴の中で彼の泣き声は良く響いた。前後左右から彼の声が聞こえてくるみたいで良い気分にはならない。


 彼が泣き止んだのは、俺たちが立って待っているのに疲れて、座り込んでからだった。


 途中リリベルが何度も彼に雷魔法を放とうとしたので、食い止めるのに苦労した。今も彼女は怒っているが、少なくとも問答無用でマルムを攻撃する意志は保留してくれている。


 さすがに無防備に泣いている者に対して、容赦無く攻撃するようなことはできなかった。

 俺の良心が咎めたということは勿論理由としてあるが、それよりも彼の言葉に気になる点があったのだ。


 彼の涙がようやく止まり掛けたその瞬間を狙って、彼に対して問いかける。


「さっきの『皆を救うために繰り返しているだけなのに』という言葉について教えて欲しいのだが。お前が繰り返しを行う理由は、本当は何なのだ?」


 自分を信じてくれる者たちが失われて、急遽魔力を得るためにこのようなことをしでかした。

 では、なぜ魔力を得る必要が生まれたのか。

 彼はその大事な部分を愛だの何だので誤魔化していたので分からなかった。


 俺たちが受けた仕打ちを考えると、彼の愛を受けた者が必ずしも良い結果とはならない。


 だからもしかしたら、彼が碌なことを言い出さないとは限らない。

 故に気になった。




 マルムはリリベルみたいに鼻水を無防備に垂らしていた。

 とても会話ができるような姿には見えないが、それでも彼は言葉を紡ぎ始めた。




「本当は……本当は……皆を助けたかったんだよ」

「だから、皆を助けるとはどういう意味なのかと聞いているんだ!」

「皆だよ! 世界中の皆を助けたかったんだよ!」


 世界中の皆?

 一体彼は何をしでかそうとしているのだろうか。


「もうすぐ世界が滅びるのだよ!」




「はあ?」




 はあ?




「世界が滅びる。そして世界が滅ぶ原因は()()なんだよ」

「ふふん、ちょっと面白そうだね」


 先程までの怒りはどこへいったのか、リリベルは世界が滅ぶことについて興味津々だった。

 大規模な事件や伝説の物事に対して興味を示しやすいから、もしかして彼女には破滅願望でもあるのではないかと心配になってしまう。


「私の愛するゴブリンと人間が、些細なことから争いに発展してしまうんだ」


「争いは長い時間を使い、場所を変えて他の愛する者にも波及して、やがて世界中の皆が戦いに巻き込まれてしまう」


「どんなに手を尽くしても結局は、世界は滅びてしまうのさ。今日、この日の争いの始まりを止めない限りね……」


 頭をうなだれて再びぐずり始めるマルムにまるで同情できない。




 世界が滅ぶと言われても全くピンと来ないのだ。

 それもこんな片田舎の町で起きる出来事が、世界中を巻き込んだ争いに繋がるだなんてそう簡単には信じられる訳が無い。


「今の話を聞いていると、まるで未来のことが分かるかのように聞こえるのだが」

「もちろん! 皆から愛されて愛している私は、いつも奇跡に囲まれているさ……」


 声色は弱々しいが、淀みなくすらすらと口を動かす素振りからしても、嘘をついているとは思い辛かった。


「未来の世界はどこもずっと血の匂いがする。愛する者たちの亡骸があちこちで転がっている。それは私にとってとても辛いことだよ……」


 元は魔法薬師の小さな依頼を受けたつもりだったのに、いつの間にか世界を巻き込む話に発展してしまって、どうしてこうなったのだと頭を抱えるしか無かった。


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