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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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憎悪絡んだ奇跡性2

「難しい。とても難しい問題でしょう!」

「難しいとは?」

「愛の総量は決まっているから、君の百ある愛の内のほんの少しだけしか貰えないことは、私にとって辛いことでしょう?」


 「でしょう?」と問われても困る。

 それに愛の総量が決まっていると言う文句も気に掛かる。感情の表し方を気軽に数値付けられるものなのか。それこそ、その人の主観によって決まるものでは無いだろうか。


「私が君にとっての2番目に収まって、君を1番に愛することは難しい……」

「アンタの方こそ、誰を1番愛していると言うんだ。まさか全員が1番とか言わないよな」

「勿論だよ! 私は私を愛してくれる皆を等しく愛しているよ!」

「愛の総量が決まっているのだから、アンタは誰も大して愛していないのでは?」


 先程のマルムの言葉を借りて、彼の愛に関する疑問を呈する。

 これまで散々、理解し難い思考を持つ者に出会ってきたから、人間に遠く及ばない神様の素晴らしい御考えが返ってきても驚くことは無いだろう。


「困ったものだよね……もっと多くを愛せたら良いのに」


 少なくともマルム教の信者全員を愛するぐらいの度量があるのだから、それで充分だと思う。




「もう1つ尋ねたいことがあるのだが」

「何だい? 愛する君の疑問なら幾らだって答えるよ!」


 表情の変遷が激しい彼に対して、俺の今の表情はきっと変化に乏しい。早くこの場から立ち去りたい。

 尋ねたいことは此方が受けている痛みに関することだ。


「なぜ、俺たちの内、誰か2人を空の上に吹き飛ばすのだ?」


 彼が何と言ってくるか、予想が付かない訳では無い。

 彼が空の上に俺やリリフラメル、リリベルを追いやったのは、彼から愛しているか愛していないかの2択を迫られた時のことだった。心から彼のことを愛していると言わなければ、彼はきっと嫉妬に心を満たされて、不死ならではの殺し方を実践する結果に至るのだと思っている。




「重大なことだ! 君を空の上に吹き飛ばすくらいの奇跡が起きないと、君たちに今日を生き続けてもらうことができないからだよ!」


 当然、彼が何を言っているのか理解不能であった。

 今日を生き続けてもらいたいなら、なぜ不死者を最大限苦しませるような所業を行うのか。まさか今日の内に必ず苦痛を味わっておかないと、本当に死んでしまうとでも言うのか。




「君はリリベルという魔女を愛しているのだね!」

「なぜリリベルの話を……」

「リリベルは神様では無く魔女だってね? 魔女である彼女は、特定の神を愛している訳でも無く、他のどの神からも神の御加護を与えられている訳でも無い。いや、正確には神もどきの魂がなぜか彼女に1つ……」

「彼女は確かに神を嫌いっている節があるが……」

「とにかく! 神の御加護も無いただの魔女が、魔女の器を超えてなぜあれだけの魔力を内に秘めることができるのだろうね?」


 直接的に説明せず、俺に何かを理解させようと敢えて物事を濁して話す姿勢に疑問を持った。

 今まで彼とは、話の意味は割と分からないが、言葉自体は通じる会話をしてきたはずだ。

 彼の伝えたい意図を濁してまで、俺に問い掛ける意味は一体何なのか。


 彼女が他より魔力を小さな身体に貯めることができるのは、魔力を貯める器官が発達しているからだ。俺はリリベルからそう習った。

 まさかリリベルが実は神様だとでも言いたいのか?

 馬鹿馬鹿しい。




 リリベルの名が出て来てしまって、頭に彼女の顔が強く浮かび上がってきてしまった。

 俺が想像する神様像を彼女に当てはめてみた。

 彼女に白い装束や、背中に生えた羽根は似合わない訳では無かった。きっと可愛らしいと思う。

 だが、それはリリベルらしい姿では無かった。やはり彼女には怪しくて胡散臭くて悪い意味で目立つ服装を来ているのが、1番だと思った。




 そうして彼女の姿を着せ替えて想像していた時に、先程のマルムの言葉が強制的に差し込まれて、更に地獄で会った王の言葉がよぎった。

 あの時は、潰れ消えかけていた魂をリリベルのおかげで辛うじて存在させることができていた。彼女のおかげで、俺はあの時の出来事を覚えていられる。


 甦った記憶。

 黒翼を生やした地獄2層の王、ヤヴネレフ。

 そして、彼女の放った言葉だった。


『貴方たちは、貴方たちが魔力と呼び誤っている、神の所有物に勝手に手をつけ汚した』


 ヤヴネレフから言わせれば、魔力は神の所有物であるようなのだ。

 だから、正規の手順以外で魔力を得る者は、罪であり、地獄で罰を受けるべき存在の1つとなるのだろう。




 では正規の手順とは何か。




「神の御加護って言うのは、神からの魔力の受け渡しを意味するのか?」

「そうだよ!」


 彼は俺を学を知らない子供に接するような態度で当たる。良くできましたと言わんばかりの表情をしていた。

 マルムの場合、愛こそが神の御加護に当たるのだろう。彼に愛された者は、神の御加護によって魔力を正規に与えられることになる。

 俺はそう理解した。


 そして、マルムが今日を繰り返す理由について、俺は一部勘違いをしていたようだ。


「神の御加護を受けていないリリベルの魔力は、神であるアンタからしてみれば誰の所有物でも無い状態である、ということか?」

「そうだよ!」


 また同時に俺は、目の前の神に刃を向けなければならない理由ができたようだ。明らかに無謀で現実的にあり得ない行動を、人間である俺が起こさなければならない。それは御伽噺のようなことだ。


「神のアンタでも疑問を持ってしまう程に、1人の魔女の中に膨大な魔力が存在することを知った」


「アンタが今日を繰り返す目的は()()()()か」




 今日の繰り返しの中で、俺と誰かが空の上に吹き飛ばされるのは、マルムが今日という日の中に必ず俺たちを縛り付けたかったからだ。


 今日が繰り返される瞬間までに、俺たちがこの地帯に存在しなければ、次の繰り返しに俺たちは存在できなくなる。

 つまり、繰り返しから脱出することができる。


 マルムは繰り返しの瞬間まで、俺たちをこの地帯から抜け出ないように、空の上に吹き飛ばして時間を稼ぎたかった。




 過程に意味は無い。結果だけが必要だったのだ。

 俺たちがこの地帯に縛り付けられるように、必ず繰り返される結果を今日の中の幾つも用意しているのだ。

 彼を愛していない俺とリリベルに向けて憎悪に近い嫉妬でもって、彼は今日を繰り返そうとしている。


「今日が繰り返されるという奇跡! 君の愛するリリベルがこの地にやって来たという奇跡!多くの奇跡が連続で起きるのはあり得ないことだよ! でも、だからこそ奇跡なんだ! 愛があるからこそ起きた奇跡なんだよ!」


 光る玉を携えた怪しい男の愛は、どうやら俺やリリベルにとって良き愛とはならないようだ。

 本人たちの意志はまるで無視である。


「ヒューゴ。君は、リリベルと私、どっちをより愛しているのだろうか?」




 3度目の空の上に吹き飛ばされる前に、マルムに向かって走り出す。

 何ができるのかは分からないが、とりあえず彼に向かって走ってみるしか無かった。


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