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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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巡る完璧な致死性

 夢で見た1度目の空の上は、俺とリリフラメルがいた。

 まるで海の中にいるように、ただただ呼吸できずにもがき苦しむだけだったのを、地上にいたリリベルが助けてくれたのだ。

 それは俺と彼女の間に魔力の繋がりがあったからこそできた芸当だった。




 今、リリベルと俺は共に空の上にいる。


 彼女は確かに俺の腕の中にいる。足をどれだけじたばたさせて焦りが起ころうとも、彼女の存在だけは第一に感じ取る。

 だからこそ絶望的だった。


 呼吸ができないから魔法の詠唱はできない。

 地上から俺たちを引き戻してくれる存在も無い。




 不死者、特に俺とリリベルに対する完璧な殺害方法が今ここに確立された。




 しくじった。

 だが、どうすることもできなかった。


 まるであの男と再び会い、愛に関する会話を行うことを運命付けられているかのようだった。

 最初から誰も彼もの全ての行動を阻止するべきだった。


 今日というこの日こそがメルクリウスの()()だった。




 眼球どころでは無い。身体中の至る所で激痛が走り、痛みに耐えかねて気絶しかけたところで、舌を噛んで気付けをする。

 ただ、感触のあった舌が一瞬で無くなってしまった。

 口の中の収まりが悪くなる。


 氷漬け菓子のようなシャクシャクとした噛み応えで、舌が噛んだところで取れてしまったのだ。


 空の上は寒すぎた。




 絶叫しようにも呼吸すらできないから、ただ口を開けて魚のようにぱくぱくと動かすことしかできない。


 全身の痛みを無視して死に物狂いで服を脱ぎ、リリベルの身体を包みながら両袖で結ぶ。

 間も無く死を迎える。死ぬ前に最低限のやるべきことは済ませた。




 夢の内容よりも絶望的な状況ではあるが、ここで心を折る訳にはいかない。

 俺にはリリベルがいるのだ。






 失った意識が再び覚醒し、身体中に強烈な痛みが駆け巡り始めた。

 少しでも余計な痛みを感じ取らないように、口も目も閉じ、身体をじたばたと動かすことをやめてみた。どうせできない呼吸で後でじたばたするのだろうが、やらないよりは良い。


 焼け石に水のような痛みの中、空の上から地上へ戻る方法を考えてみる。


 痛みに耐えているのは俺だけでは無いのだ。

 俺の身体を掴んでいるリリベルの手が、肉に食い込む程力が入っているのは離れ離れになるのを恐れているからでは無い。彼女もまた強烈な痛みに耐えているのだ。


 さっさと良い案を出してみろと自分自身に言い聞かせる。






 既に少なくとも10回は死を繰り返していた。




 案が無かった訳では無い。


 俺もリリベルも喋ることができないから魔法の詠唱はできない。

 だが、俺にはリリベルから貰った力がある。

 その力は最早魔法の枠を超えた異常で凄い力。まるで、御伽話(おとぎばなし)に出てくる神様のような力。


 想像さえできれば、あらゆるものを具現化できる力だ。

 俺は思い付く限りの質量のある物体を具現化して、俺自身に衝撃を与えて地上に吹き飛ばそうとしてみた。




 だが、身体がぐるぐると回転するばかりで、本当に地上に近付いているのか分からない。

 自分がどの位置にいるのかを確認するために、生き返ってすぐ、目を開いて景色を確認してみるのだが、相変わらず綺麗な丸が視界に広がるばかりで、状況が変化しているようには感じられなかった。






 状況が変わったと思ったのは、地道に生と死を積み重ね続けて、そろそろ気が狂い始めそうになった時だった。


 次の覚醒で目が覚めると共に、巨大な気配を感じるようになった。

 背中からひしひしと伝わる圧力に何事かと疑問を持ち、身体を(よじ)ってから目を開ける。


 見える景色は一瞬だけだ。すぐに視界が歪み何も見えなくなる。


 だが、その一瞬の内に気配の元を見ることができた。




 全てが白色で構成されている身体。

 脚や尾は力無くぶら下がっていて、広がった翼にあちこち穴が開いている。顎は左側が欠けており、牙と舌が露出している。

 身体は痩せたように長細い。


 そして最も特徴的なのは、頭の上に身体よりも大きな白い輪が浮いていることだろう。

 巨大な輪の内側にもう1つの白い輪があり、巨大な輪と比較しても若干傾いている。




 それは大地を我が物にするために、月を用いて侵略しに空から降りて来たドラゴン、アギレフコだった。

 俺とリリベルで彼が作り上げた月を粉々に破壊したことで何とか撃退した相手が今目の前にいた。


『まさか、お前たちの方から殺されにやって来るとはな』


 直接耳元で話しかけられたかのように、言葉が降り注ぐ。


「しかし、今はお前たちに構っている暇は無い。()く地に堕ちよ」




 返答もできないままで彼の声が聞こえるだけの状況だったが、次の瞬間、強烈な光と衝撃を身に受け、背中が引っ張られるような感覚に陥った。

 その勢いは、俺の意識が再び消えるまで止まることは無かった。


 次に覚醒した時には俺とリリベルは、感じ慣れた土の上にいた。


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