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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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完璧な致死性

 マルムに対する返答を、どちらの方向にも舵を取ることもできないと分かった。

 気付いたらリリフラメルを抱えて走って逃げていた。


 小さな身体のリリベルを抱えて走るなら訳無いが、彼女よりも年上で身体が普通の健康的な女の子のリリフラメルは、ちょっと重い。


「逃げる必要はあった?」

「嫌な予感がする。何だか知らないが嫌な予感がするんだ」

「ふうん。ま、お前の嫌な予感は良く当たるから、この場合は逃げるのが正しいのかもな」


 彼女を抱えるために松明は捨てるしかなかった。

 だから暗闇の中を勘で走り通すことになる。何度も壁に身体を当てながら、マルムから少しでも遠ざかろうとする。


 凹凸の無い綺麗な穴で良かった。

 俺が良く知る普通の洞窟だったら、今頃血だらけになっていただろう。そもそも普通の洞窟なら走ることすら叶わない。




 穴を抜けたらゴブリンたちにはこの穴のことを忘れてもらうよう、進言するしか無い。

 彼がもし人間だとして、人間が1人だけでここにいるのはおかしいし、マルムの風貌も、その話し方もおかしい。

 どう考えても普通ではない。


 来た道の方向ぐらいは何となく覚えている。

 その方向に向かって走るだけだ。




 走るだけだ。




 走るだけだったのだ。




 暗闇の中に突然、丸い物体が現れた。


 遠くの小さな丸い光が、その丸い物体を一方向から照らしていた。

 綺麗な丸で、とても近くに見えるが巨大過ぎる余りに近く見えるのだろうか。手を伸ばして届くような距離に無いとはっきり分かる。


 丸は緑と白と青の模様が入り組んでいる。鮮やかな色をしていて、とても綺麗だ。


 急いでいなければ、もっとゆっくりと眺めていたかった。




 しかし、それ以上目を開けていられなかった。

 何かに目が焼かれたように痛かった。猛烈な痛みだった。


 そして痛みと共に、地に足が着く感覚が失われていたことに気付いた。

 海の中を泳いでいるような感覚だ。


 どれだけ足を伸ばそうと一向に地面に辿り着かない。


 平衡感覚を失った俺の身体はその場でくるくると回っている気がした。

 だが、自分の身体がどうなっているのかを確かめる術は無い。

 頼みの目は焼けるような痛みでとてもではないが、開けていられなかった。




 そして、次に気付いた異変は呼吸だった。


 普段余りにも自然に行う行動だから意識したことなんてなかったが、今ここでは意識せざるを得ない状態になっている。


 吸おうと思っても何も吸えない。

 肺に入れるべき空気が入っていかない。息を吸い込む動作をしても途中で、それが阻害されてしまう。




 何が起きているのかを理解する間も無く、次々と襲い来る異変に、頭は上手く回らず何もできなかった。




 どこだか分からない場所で、死ぬ恐怖は確かにあった。

 いや、怖いのは死ぬことではない。死ぬという状況が永遠に続くのではないかということが怖いのだ。


 俺もリリフラメルも呪いによって不死性を得ている。

 何度死のうとも再び強制的に生きている状態に戻されるのだ。聞けば便利で幸運な話かもしれない。


 だがそれは、死が常にそこに存在し続けている場合、永遠に苦痛を味合わねばならないということにもなる。




 永遠に終わることができないことは、俺が予想し得る中で最も最悪な結末だ。




 この状況を打開する策が思いつかないまま、とにかくじたばたと足を伸ばしたりして、必死にもがいて呼吸ができる場所を求めてみたが、無駄だった。


 やがて少しずつ身体に力が入らなくなる感覚を感じて、明らかに死の危険性を感じる。


 もし、ここが海だったとしてリリフラメルを掴むこの手を離してしまったら、彼女は海の底に沈んでしまうかもしれない。




 どうすればこの状況を切り抜けられるのかはまだ分からないが、それよりも今は彼女と離れ離れになることの方がまずい。


 失いかけている意識をリリフラメルのことだけに集中する。

 彼女を繋ぎ止めるべく、着ていた服を脱ぎ彼女の身体ごと俺に結び括り付ける。


 指にすら力が入らなくて、上手く結び付けられたのかも分からない。結ぶことができたと祈るしかない。




 それが最後にできた俺の行動だった。

 間も無く手に力が入らなくなって、急激な眠気に襲われる。




 だが、その虚ろげな意識の中で身体が動かせないでいると突然、背中に衝撃が走った。


 叩きつけられたというよりかは、何かに引っ張られるような感覚だ。




 引っ張られて引っ張られて、何が起きているのかを何1つ理解できないまま、俺は完全に意識を失った。


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