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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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良心に基づいた残虐性2

 洞窟の中は綺麗に切り抜かれたような道になっていた。

 火の灯りで壁を照らすと、土や岩等の不純物が一切ない鉱石だけの壁ができあがっていた。拳で叩くとやはり硬い。

 ゴブリンたちはこんな硬い山によく住もうと思ったな。


「山というより、でっかい鉱石の塊の上に土や緑が乗っかっているようだな」

「それはそうかもしれないが、山1つが鉱石の塊だなんて本当にあり得るか?」


 すぐ傍にいるリリフラメルの感想に対して素直な疑問を投げかけてみた。

 山のように大きな鉱石の塊なんて聞いたことが無いし、鉱石のでき方に詳しい訳では無いが、何となく普通ではあり得ないことは分かる。


 しかし、リリフラメルがそんなことを知っているはずも無く、「知らん」と一蹴されてしまった。




 途中で道が分岐する箇所があって、行き止まりに着いては戻ったりを何度か繰り返した。それでも人の気配が無く、奥へ奥へと進んで行った。

 黒っぽい壁は火の灯りを吸収し、閉塞感をより強く与えていて、進めば進む程息苦しさを感じる。

 穴の中なのに、地面は綺麗に整備されていて妙に歩き易く、それが逆に気持ち悪い。




 やがて歩くことにそろそろ飽き始めて、戻ろうかと思ったところで、ようやく道の先に明かりが見えた。


 向こうで音は特にしていないが、きっと誰かいるはずだ。いて欲しい。


「念の為、俺が先導する。問答無用で相手が攻撃を仕掛けてきたら後は頼む」

「皆殺しか?」

「リリフラメルにも危害を加えて来るようだったらそうしてくれ」


 若干、納得のいっていないような表情を見せた後、それでも彼女は頷いてくれた。

 地面が綺麗なため、音を消して歩くことは簡単だった。




 それでも明かりに徐々に近付いて、黒っぽい壁の輪郭が浮き上がるのが良く見え始めたところで、向こうから声が掛かった。

 かなり気を付けて歩いていたつもりだが、あっさり俺たちの存在を知られてしまった。


「ようこそ! やあやあ! ようこそようこそ!」


 少し声は高めだが、紛れも無く男の声だった。とても陽気だった。


 恐る恐る近付いて、明かりの源が角を曲がった先にある1つの部屋にあることが分かった。

 驚いたのは、その明かりは恐らく声を掛けた男の者自体から発せられていたことだった。




 なんと言えば良いか。

 とにかく見たことの無い服を着た男が、地面にそのまま座っていたのだ。


 いくつかの綺麗で目立つ色をした布を繋ぎ合わせたような服で、どこが腕を通す袖なのか分からない程に、布が垂れ下がっている。

 風に吹かれたら良くはためいてくれそうだ。


 しかもその服の至る所に、光っている丸い物がくっついていて、その男を煌々と照らしている。


 破茶滅茶な服装だが、髪は綺麗に整えられていて、前髪を後ろへ流している。顔を見るに人間らしい目鼻立ちをしているので、やっぱり人間だと思うのだが、どうにも彼自身の明かりのせいで肌が真っ白に見えて仕方が無い。


「人間のお客と火の精霊(サラマンダー)のお客だ! 2人とも何と可愛いのだろう! さあ早くこちらへ!」


 可愛い?

 それに火の精霊とは一体何の話だろうか。


 余りに奇抜な見た目に、リリフラメルと顔を見合わせて彼に近付いて良いものか決めかねていると、彼の方が立ち上がってこちらへ近付いて来た。


 眩しい丸が歩く度に揺れ光り、鬱陶しく感じる。

 垂れ下がっていた布は、彼が立つと丁度足元ギリギリの所まで垂れて、誤って踏んでその場に転ばないよう上手い具合に揺らめいていた。




 彼は突然、俺を抱き締めてきた。


 旧友と出会ったのかというぐらいの反応を示した彼は、そのまま俺の頭をとても愛おしそうに撫でてきた。

 正直、鳥肌が止まらない。


 同じことをされるらな、リリベルの方が良い。


 彼の行動に何も言い返すことができないでいると、今度はリリフラメルに向かって突進して、彼女を思い切り抱き締めた。


「ま、待て! 彼女には触れない方が……!」


 気安く彼女に触れれば、彼女の怒りに身を焼かれる羽目になる。

 注意が遅かったと後悔しつつも、次の瞬間には、彼の身体から火の手が上がるだろうと思っていたのだが、これまた驚いたことに彼女は怒らなかった。


 彼女は口を開け目を点にして、放心していた。

 どうやら奇抜な見た目と奇行によって思考を停止させられていたようだ。




 リリフラメルが意識を取り戻したところで、改めて彼から紹介を受けた。


「私の名はたくさんあるから……どれを紹介しようかな……ああ、そうだ! これが良い! 私の名前はマルムだ!」


 偽名だろう。

 その言葉には聞き覚えがある。


 マルム教。


 俺が知っているいくつかの宗教の中で、良く出会う者たちが属している宗教の名だ。

 熱心な教徒が自分の名前をその宗教の名に改名する者も少なくは無い。


 彼は少なくとも()()では無い。

 何と言ったってマルム教の司教に何人か会ったことがあるのだ。少なくとも彼等は、真っ白な装束に身を包んでいて、このような派手な衣装は着ていなかった。


 信仰心の深い者が、こんなふざけた見た目はしない。宗教的な衣装ということもあり得ない。




 だが。




「さあさあ! 理由無くここに来た訳では無いのでしょう? 聞かせて欲しい! 愛しい君たちの言葉を!」


 だが、彼の物言いや振る舞いは、今まで出会った者たちとはどこか違う異質さを感じる。


 全く同じではないが、似たような感覚を挙げるとするなら、地獄の王と対峙した時と似ている。


 多分、彼は普通の人間ではない。



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