表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
282/723

人間たちの正当性2

 鮮やかな草原を越えて、森の入り口に辿り着く。

 そこから先は道が無いため、リリフラメルとエリスロースには馬車で待ってもらい、俺とリリベルとフーレンだけで森の中に入ることになった。


 魔法薬の材料探しのために、何度も森の中に入ったことがある彼にとって、ここは庭のようなものだ。道標(みちしるべ)も無いのに迷わず先へ進んで行く。


 太陽があっても、すぐに周囲は暗くなっていく。背の高い木々が、頂点で光を()き止めている。

 魔物が現れても彼は対処できるという話だが、それでも1人でこの暗い森を歩くのは度胸がいる。素直にフーレンがすごいと思った。




 入り組んだ木の根に体力を奪われながらも進んで行くと、ある所で彼が背を低くして大きな倒木の陰に隠れ始めた。

 俺たちも彼と同じように屈みながら倒木に辿り着くと、彼が小さく指を指して、その先の景色を俺たちに確かめさせようとしていた。


 倒木から顔を出して確認してみると、その先には何匹かのゴブリンがいた。

 灰色がかった体色に、金色の瞳を覗かせている。この距離からでも分かるが、リリベルの瞳と違って濁ったような色味であった。

 体毛は無く頭は寂しいが、皆、小綺麗な服を着ていて、背中に身体と同じぐらいの大きさがあるカゴを背負っている。


「最近、この辺りにゴブリンたちが出没するようになったんです。彼等は僕の魔法薬の材料を奪っていっちゃうんですよ」


 横から小声でフーレンが説明を始めた。


 どうやら彼にとって、というよりかはあの町にとってゴブリンは珍しい存在のようだ。町で会話しても問題無い内容であるのに、わざわざゴブリンたちの姿を見せようとしたことがその証拠だ。


「商売上がったりですよ。それに、被害が出ているのは僕だけじゃない。ゴブリンたちは町に来て、食べ物を盗んで行くのです」

「基本的にゴブリンたちには通貨を支払う文化は無いからね」


 その返答もどうかと思う。




「とにかく、あのゴブリンたちを殺して欲しいんです。今はまだ食べ物や魔法薬の材料が盗まれるだけで済んでいますが、いずれ僕たちの誰かに危害が加わるかもしれないですから」


 小さな魔物たちを彼の目の前で簡単に狩ったことで、俺たちに相当の力があると思って、彼はこの頼みごとをしてきたようだ。

 正直、種族に関わらず他者を無闇に殺すことは好まない。


 以前フーレンと魔法薬の材料探しに行った時に、確かに魔物を殺し回っていたが、アレは長い睡眠不足で精神的に死にかけの俺とリリフラメルをエリスロースが先んじて守ってくれた結果の行動なのだ。




 会話が可能なら、会話で解決できないものだろうか。


「人間同様、ゴブリンたちにも知能の差はあって、私たちと会話できる者もいるよ」

「お、おう」

「ヒューゴ君。どうせ君はまた会話で平和的に解決できないかと考えていたんでしょう」


 呆れ気味で俺の考えごとを先回りした彼女が解決策を教えてくれた。彼女には頭が上がらない。


「しかし、随分とゴブリンに詳しいのだな」

「ふふん、もちろんさ。君と初めて出会うより前の、別の国の人間に捕まっていた時にね。彼等の遊びの一環でゴブリンにお――」

「いや、もういい。大丈夫だ。すまない」


 口を開けば、初めて聞かされる彼女の凄惨な過去が出てくる。驚きが止まらないし心が痛くなる。

 皆まで聞かなくても何をされたのか分かるので、彼女の口を急ぎ塞いで、何ともなく彼女の頭を撫でる。彼女はゴブリンたちの様子を見ながら、俺にされるがままだったし、彼女自身はその凄惨な過去に全く興味を持っていないようだった。




「ちょ、ちょっと。それよりもゴブリンと話し合いで解決するってどういうことですか……!」


 狭い場所に更に詰め寄ってきたフーレンに暑苦しさを感じる。

 ゴブリンのことを良く知らない俺からの説明では説得力が無いと察したのか、リリベルが代わりに答えてくれた。


「ゴブリンたちは家族の絆が強いのだよ。もし、私たちが彼等の根絶やしに失敗して、1人でも生き残りがいたら、きっと君たちに仕返しに来るよ。だから、まずは話し合いで解決してみようという話さ」


 自信たっぷりに述べるリリベルと、フーレンにゴブリンの知識が無いことも手伝って、彼は逡巡しながらも結局リリベルの言葉に乗ってくれた。


「早速やってみよう。君は森を出て、先に帰るといいさ。青髪の子たちにもよろしく伝えておいてくれると助かるよ」


 リリベルの言伝を受けて、フーレンは静かに森を後にした。






 ゴブリンたちが食材探しに精を出している間に、俺とリリベルは倒木を越えて彼等に近付く。

 すると1匹のゴブリンとすぐに目が合った。


 この苔で覆われた緑だらけの景色に、金髪と黒髪の俺たちはすぐに目についただろう。


「やあ、君たちの長と話がしたいのだけれど、案内してもらえないかな」




 沈黙の後、ゴブリンたちはギイギイと鳴き声を上げて、蜘蛛の子を散らすように森の奥へ駆け始めてしまった。

 どうやら俺たちの言葉は通じなかったようで、彼等はゴブリン語で会話を行って逃げてしまう。


「ギギイ!!!」


 隣にいたリリベルが突如、大声でゴブリンと似たような鳴き声を発した。


 すると驚いたことに、ゴブリンたちは皆、時が止まったかのようにぴたっと動きを止めた。

 その様子を見てリリベルは更にギイギイと鳴くと、ゴブリンたちは振り返って少しずつこちらに歩み寄って来た。


 彼等を刺激しないように剣を生み出すことは抑えておく。

 だが、彼女がいつ襲われても守ることができるように、常に目を見張っておく。




「ギュイ」

「ギイ」

「ギッギッ!」


 一体何と言っているのか全く分からないが、彼女とゴブリンたちの間で何らかの会話が行われていることは確かなようだ。

 彼女は数歩前に出て、腰を落として更に鳴き続けると、散っていたゴブリンたちが彼女の前に集まって来た。


 彼等は最初こそエルフのように長く大きな耳をピンと尖らせて、怯えた目つきでこちらを見ていたが、やがて耳が垂れ始めると子どものように跳ねた。

 先程までの低い鳴き声から、少し甲高い声に変わって俺たちの周りを飛び跳ねている。


「リリベルはゴブリン語も話せるのだな」

「いや、全く」

「え、いやだって、さっきまで逃げようとしたゴブリンたちが俺たちの近くで飛び跳ねてるぞ……」

「適当に言ってみたら何だか喜んでくれたみたいだね」


 おいおい、大丈夫か。

 何を話したのか分からないが、後で話が違うって彼等に怒られたりしないだろうな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ