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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第11章 ゴブリン側の主張
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人間たちの正当性

 とある日記に振り回された事件が解決した後、俺たちは元来た道を引き返して、魔法薬師フーレンがいる町へやって来た。


 実は彼に依頼されていたことがあって、それを解決するために戻ってきたのだ。

 いつもの如く、リリベルには全く興味の無い依頼なのだが、1度承諾した頼みごとをしらばっくれるのは、人としてどうかしていると思うので放り出す訳にはいかず戻ってきた。もっともリリベルを人の枠組みにはめるのは間違っているかもしれない。


 依頼を達成するためにフーレンがいる町へ戻ろうと強く願ったことで、彼女は渋々了承をしてくれている。


 俺たちが乗る馬車を牽く大馬ヴィルケは魔物であり、野生下であれば常に魔力を求めて彷徨っている。

 もちろん魔物であるから凶暴なのだが、馬車の馬代わりに荷を運搬する対価として充分な魔力を与えてやれば、彼は割りかし大人しい。


 何せ魔女の中でも1、2を争う程の魔力量を持つ元黄衣(おうえ)の魔女リリベルがいるのだから。

 ヴィルケの目には、とてつもないご馳走が常に映っていることだろう。


 だから、移動の時間に関しては通常の馬車よりも速く、その巨体からより多くの荷物を運ぶことができ、町までは非常に楽ができる。

 ただ、残念ながら乗り心地に関しては目を瞑るしか無い。




 丘に広がる草原の上にその町はあり、爽やかな風が草の匂いを運びとても心地良い。

 陽の光も暑すぎず、都会の人混みは無く、町人は穏やかに暮らしている。町の中を通っていると、時折家畜を引いて畑仕事に従事している者がいたり、家の側で機織りしている者がいた。


 町の中央に近付くと、壁はレンガ造りでカラフルな屋根に彩られた街並みが広がる。

 さすがにこれだけの巨大な馬を道に通すには少しだけ気を使う必要がある道幅だが、それでも人の数からして楽だ。


 余生を過ごすならここは最適な場所だろう。


「酒屋もあって良いね」


 御者台の横に一緒に座っていたリリベルが(へり)の上に顎を乗せて、町の様子を眺めていた。

 そよ風で(なび)く金色の髪がきらきらと光っている。綺麗だが、その姿はやはり非常に目立つ。


「酒はまだ駄目だぞ。せめて後1年」

「えー! 君、前にも同じようなことを言っていなかったかい!?」


 酒を飲みたそうにしていたリリベルに、先にけん制を仕掛けておくと彼女が勢い良く振り返って抗議をしてきた。

 彼女の騎士になってから、もう1年は経っただろうか。いや、2年は経っているかもしれない。

 その当時の彼女の年齢は、13か14ぐらいだと聞いたから、今はもう15か16ぐらいあるだろう。


 その当時の彼女の姿を思い出して、今の彼女と比べると背も伸びて顔つきは大人になってきた。




 いや、ほとんど変わっていないな。

 少しだけ背が伸びている。ほんの少しだけだ。


 しかし、彼女のこれまでの境遇を考えると、同じ年齢の他の子より成長が遅れているのは仕方無い。

 国の資源になる魔力を生み出す存在として牢屋に捕えられ、ろくな食事を与えられず虐げられ続けた期間があったのだ。


 今は、少しでも成長していることが分かって安心していると共に、今後の成長も見守っていきたい。

 故に彼女に酒はまだ早いのである。




 酒を飲みたがる彼女の言葉を誤魔化すべく、目的地への到着を大げさに伝える。


 リリベルを御者台から下ろして、後ろの(ほろ)付きの荷台に乗っているに2人に馬車で待っていることを伝える。


「そろそろ髪を切ってくれ! 邪魔で邪魔で腹が立って堪らない!」

「いや、髪を綺麗に切るのは後でやるから、せめて長くて邪魔な分は自分で切ってくれ……」

「嫌だ!」


 俺かリリベル以外の者に髪を切られることを嫌がるリリフラメルが、俺に噛みついてきた。彼女自身でさえも髪を切ることを拒むのは一体どういうことか。理由は今も判然としない。

 彼女の髪が伸びる速度は明らかに他の人間よりも早い。異常である。


 見たこともない青髪ということも相まって、もしかして彼女の種族は人間ではないのかと以前から疑っている。

 とはいえ、切らない訳にはいかない。

 放っておけば荷台は青髪で埋まってしまうだろうし、同行人のエリスロースが嫌がるだろう。


「あー、私は買い物にでも行って良いか?」


 リリフラメルの爆弾のような感情から離れたくて、食糧も十分だというのにエリスロースは馬車から逃げようとした。

 むさくるしい船乗りの姿をした彼女の行く手を遮って、リリフラメルとこの馬車に残っているようきつく言う。




「すぐ戻ってくる。こんな馬車、街中では目立って仕方ないし、彼女が怒りに身を任せて何かをしないか見ていてくれ」

「また子守りか。ああ子守りか」

「平穏にことを運ぶという意味においては、リリベルの次に頼りになるのが、エリスロースしかいないんだ」


 異常者の中では割と常識人のエリスロースが、ずっと付いて来てくれて良かった。

 魔女協会に所属していた彼女だが、何者かの陰謀により魔女としての地位を捨てざるを得なくなり、表面上はリリベルの騎士として今まで行動を共にしてきた。


 彼女は彼女を慕う者を守りたがる()()があり、俺たちと出会うまでは彼女が支配する町でひっそりと暮らしていた。

 その町が滅ぼされてからは、自由のままに行動してきて、リリベルと行動を共にしているのはあくまで成り行きである。


 行く先々で町人や魔物などにこっそりと自分の血を混ぜ込み、彼女の手足となる者を増やしている。

 その者の血から記憶を読み取り共有できる彼女にとって、血を分け与えた者が増えていくことは、彼女が得られる情報が増えていくことを意味する。

 しかも血を分け与えた者は皆、彼女の魔法が使える。


 世界征服を成し遂げるとするなら、彼女が1番近い位置にいるのではないかと思う。




 2人を馬車に置いて、リリベルと共にフーレンのいる家の戸を開けて中に入る。

 扉に取り付けられた鈴が鳴り、店の奥からフーレンが現れた。


「いらっしゃ……ああ! 君たちか! 来てくれたのですね」


 彼の家は魔法薬店でもある。棚にはたくさんの薬が置いてあり、魔法薬に縁のない俺には何が何だか分からない。

 だが、リリベルが手を出そうとしている魔法薬は、絶対俺に危害を加える効力がある物だということは分かる。


「お、惚れ薬に興味があるのかい? 以前、材料集めを手伝ってくれたお礼にお安くしますよ」


 リリベル、お前……。

 ピタッと手を止めて、ゆっくりと俺の方へ振り返った彼女を此方はじっと見つめ続ける。彼女は顔を背けたままだ。


 彼女が手を引っ込めて、誤魔化すように口笛を吹きながら戻って来たところでフーレンに改めて話を始める。


「依頼を受けに来たんだ。どんな内容なのか教えてくれないか」

「ああ。ああ。そうだね。説明するよりも見てもらった方が早いでしょう。一緒に来てください」




 言うが早く、彼は茶色の外套を駆け足で取って来て外に出て行った。

 彼の後に付いて行こうとしたら、リリベルが未だに惚れ薬があった棚を物欲しそうに眺めていたので、無意識に出た溜め息と共に彼女の手を引く。




「お、大きい馬ですね」

「魔物だ。しっかりと飼い慣らされているから安心してくれ。これに乗って移動した方が良いか?」

「歩くより楽でしょうし、そうさせてもらいましょう」

「それじゃあ後ろに乗ってくれ。方向の指示も頼む」


 フーレンが荷台に乗って、リリフラメルの毛量にひとしきり驚いたところで、彼の指示に従って一旦町を出る。


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