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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第10章 とある手記に関して
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とある船乗りの死について11

暖炉の火。

リリベルがその状態を聞いた理由は、誰が火の番をしたかを確認するためだろう。

嘘をついたとしても焼け焦げた木の屑を見れば、嘘を見抜けると思ったのだろう。


日常的に暖炉の薪を見ている訳では無いから、俺には燃えカスの具合いで何度火が継ぎ足されたのかは分からないが、きっと洞察力に優れて多くの知識があるリリベルには分かるのだろう。




俺とリリベルが談話室にいて3人の聴取をした時に、1度薪をくべた。

その時は古い薪は端の方が焼け残っていたが、今はもうその残りも灰になっているはずだろう。

今も同じように薪の端が焼け残っているのだが、さすがにアレは同じ薪ではない。誰かが足した物だろう。


朝早くレオが談話室にいたことをフリアは確認していて、その時の暖炉の薪はそこそこに燃えていたと言う。

そしてレオは朝には薪を足していないと言うのだから、燃焼した時間からして薪を彼が足したものでは無いと思う。

そして彼は、夜中にもう1度寝室から階下に下りていたことは確かだが、談話室には近付いていないようだ。


ルーカスは薪を足していないと言った。

薪の火はまだ焚かれていて、明かりはあったし、その時は自分しかいなかったから薪を足すこともしなかったようだ。

彼が俺たちと別れてから再び起きて談話室に戻ったのは、正確な時間までは分からないが、さほど時間は経っていなかったそうだ。


アルバロは薪を足しておらず、談話室の火は僅かに明るかったことを覚えていたそうだ。

濡れた服を乾かすために椅子に掛けた時に、薪がまだ余裕をもって大きかったことを確認したから、確かな話だと彼は力説していた。


フリアは夜中に起きていたことは確かだが、談話室、というか1階には下りていないと言う。

皆が寝たのだと思って、談話室に行く考えには至らなかったそうだ。1人で談話室に行っても寂しいだけだと言うのは、多分本心なのだろう。




ここまでの情報を元に、リリベルは何かを分かったように頷いていた。彼女の答えを黙って待っていると、彼女はいきなり俺の肩を引っ張って耳打ちしてきた。


「君が薪を足した後に、薪は2度足されているね」

「なるほど」



それで、誰が薪を足したのか。

彼女の次の言葉がいつまで経ってもやって来ず、彼女の顔から一旦離れて表情を窺うとなぜかにやにやと笑っていた。


「え、誰なんだ」

「ヒントは与えたよ。さあさあ、君の推測を聞かせて欲しいな」


何とここに来て彼女は、あくまで俺に謎を解かせようとしていた。

なぜ、彼女がここまで回りくどいことをするのかは少々理解できなかった。


考えられるとするなら、リリベルはあくまで俺に謎を解いて欲しいと思っているのではないか。俺が彼女の期待に応えたいという気持ちを知っていて、彼女はそんな俺の気持ちに応えようとしているのではないだろうか。


それか彼女の一種の嗜虐(しぎゃく)心に火がついて、俺が悩む姿を見ようとしているのか。

彼女の天真爛漫さをこれでもかというぐらいに感じる笑いに関しては、彼女は心から笑っているということは十二分に分かるが、対してにやにやとした薄ら笑いは、大抵の場合悪いことを考えている笑みなのだ。




だとしたら、素直に答えを教えて欲しい。




「もう少しヒントは無いのか?」

「あげても良いけれど、何かを得るには相応の対価が必要だよ」


彼女のにやけた顔からして、彼女の要求はどうせ碌なことでは無い。

一応彼女の要求を聞いてみるだけ聞いてみたら、黙って目を閉じ顔を突き出してきた。他人の目をまるで気にもしない頭のおかしい主人の唇を指で押し戻し、「後で必ずする」と答えると彼女は、余り納得のしていない表情をしつつも返事をくれた。


「死ぬ程寒い訳では無いのに、なぜ火を絶やさないようにしているのだろうね」


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