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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第10章 とある手記に関して
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とある船乗りの死について10

 食堂室に集まって食事を始めた皆だが、さすがに死体を見たフリアとレオは食欲が無いようで、手がすすまないようだ。


 ルーカスは少し雑ながらも2人を励ましていたが、死体を見慣れない者たちからしたら中々立ち直るのは難しいだろう。




 本当は食事が終わってから、朝起きるまでの全員の行動を知りたかったのだが、どうしても興味を抑えることができなかった。


「すまない、仲間が死んでどうしても気持ちを抑えられないんだ。皆の朝までの行動を教えてくれないか?」


 エリスロースもリリフラメルも本当に死んだとは思っていない。

 だから余り彼女たちの心配はしていない。これはあくまで心配している振りだ。リリベルの本物と見紛う演技のおかげで、俺の三文芝居は隠せている。


 それでも鼻水を垂らしながら食事をするのはどうかと思うので、彼女の鼻の粗相を始末してやった。


「お、おう。俺は構わねえけどよ」


 ルーカスが他の3人に目を配って促すと、それぞれは一応了解をしてくれた。






 元々、戦闘は得意じゃないと思っていた。

 だから、リリベルが俺の頭脳を褒めてくれた時は嬉しかったし、そちらの能力を活かそうと思っていた。もちろんリリベルを守るために武力を捨てようと思ったことなど無い。


 こういった考えごとが必要な場面だったら、俺は結構自信を持って活動できると思っていた。




 思っていたが、さっぱり分からん!




 何と全員が朝までに何らかの行動をしていたと言うのだ。


 ルーカスとレオは俺とリリベルの聴取の後、夜中にもう1度1階に降りて来ていた。2人は寝付きが相当に悪かったようだ。

 ルーカスは談話室で消えかけた暖炉を眺めていたようで、レオはなぜか食堂室から外の嵐の様子を窺ってみたいだ。夜更けなのか夜明け間近なのかは不明だ。

 だから2人がすれ違っていたかどうかも分からない。


 フリアは1度、ルーカスとアルバロの部屋に行っていたようだ。

 彼女は彼女で、嵐が吹く音が酷かったようで中々眠ることができず、知り合いである彼等と話をしようと思い立った。

 しかし、ルーカスもアルバロも寝ていたか部屋にいなかったのか、2人は気付かなかったと言う。


 アルバロに至っては何と1度家の外に出たと言う。


 全く止む気配の無い嵐の状況を確認するためだと彼は言っていた。

 船乗りは天候次第で航路を変えることは多々あるようで、海で生き抜くためには天候を海や空の機嫌を読み取れることが必須の能力になるようだ。

 だから、風の強さや、季節柄の風向き、雲の具合などを確かめるべく家の外に出ていたと言う。


 彼だけ服装が変わっていたのは、それが理由のようだ。

 ずぶ濡れになった服は暖炉近くの椅子の背もたれに掛けられていて、それは確かに酷く濡れていた。


 ちなみに彼の見立てだと嵐が止む可能性は低いとのことだ。




「なあ。外から盗賊が忍び込んで来て2人を殺したっていう可能性は無いのか?」


 ルーカスが窓の外を見ながら、そう言った。

 彼は犯人はこの中にいないのでは無いかと思っているようだ。


「ずっと嵐だったんだ。この音のせいで、何が起きているのか分かりゃしねえさ。忍び込んで来た盗賊がたまたま起きていた2人を咄嗟に殺してしまった! とかじゃねえのか」

「外は嵐だ。盗賊が来たのなら靴は泥だらけになるだろう。それなのに2人が殺された部屋も、廊下も汚れた形跡が無い。まさか泥棒がお行儀良く靴を脱ぐとも思えない。さすがに玄関辺りはアルバロさんが言った通り、水浸しだし泥の汚れもあるが」


 俺の見解に続いて、リリベルがふふんと鼻を鳴らしながら付け加えてくれた。


「それに私たちを含めて、ここにいる全員が部屋の外に何度も出ているからね。私たちが眠った後も君たちは部屋の外に出ていて、皆が皆、誰とも会うことができなかったと言うなら、それぞれが部屋を出ていた時間帯にズレが生じている可能性が高いと思うよ」

「つまり、誰も盗賊を目撃していないのはおかしいという訳か」

「そうだね……あ、ぐすっ」


 思い出したように悲しみ始めたリリベルだったが、さすがにそれは胡散臭いと思うぞ。


「だが、2人を殺した奴がこの中にいるとして、一体誰が得をするって言うんだ」


 話に参加してくれるルーカスに対して、後の3人はほとんど沈黙している。それがとても怪しい。

 怪しい3人の様子を見ながら、昨夜俺がレオに対して言ったことを皆に打ち明けて、更なる反応が無いか確かめようとしたら、リリベルが遮ってしまった。

 その遮り方は少々不自然で、俺が話そうとしていたことを今はまだ黙っているようにという意味が込められているのでは無いかと思った。


 でも、あの時、リリベルは寝ていたよな?

 まさか狸寝入りだったのか。


「君たちが知っている限りで良いのだけれど、暖炉の火がどうなっていたのかを1人ずつ聞いても良いかな、ぐすっ」


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