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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第10章 とある手記に関して
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とある船乗りの死について9

 船乗りの男を器にしているエリスロースは首から血を流して死んでいた。

 流れ出た血は移動しないまま、ベッドのシーツや木の床に血が乾きこびり付いている。身体も血も、ぴくりとも動かない。


 一方、リリフラメルは腹や胸辺りの服がいくつも穴が開いていて、血だらけであった。

 更に首が切断されていた。切り口はズタズタで、首を切断するために何度も刃物を通したことを表している。

 殺人者は、不死であるリリフラメルの動きを止めるために相当苦労したように見える。


 多分、首をくっつければ彼女は再び復活するだろうが、一般人の目の前で彼女が再び動き始める姿を見せてしまうと、混乱が起きるだろう。

 死んだはずの女が生き返るなんて化け物以外の何者でも無い。きっと動く死体を目にした彼等は、俺たちを魔女か何かだと疑って、今までできたいた()()の会話ができなくなってしまうだろう。


 だから、今ここで彼女を救う訳にはいかない。


 リリフラメルには悪いが、もう暫く死んでいてもらうしか無いだろう。




 2人の死体を見つけたのはフリアとレオだった。


 昨夜の幽霊話のくだりと夜の情事が無かったせいか、リリベルが朝早く起きて料理をすることは無かった。それで代わりに朝食の準備を始めたのは、フリアだったという訳だ。


 リリベルが作らないなら俺が代わりに作ることもあるが、さすがに久し振りの充実した睡眠に、今日は身体が朝早くに目覚めることを許さなかった。




 フリアは朝食ができあがってから、皆を起こしに行ったそうだ。

 その時、たまたま早めに起きて談話室にいたレオと共に皆を起こしに行ったのだが、2階の寝室の扉を開けたその先に死体を見つけてしまった訳だ。

 まさか2人も死体を見る羽目になるとは思わなかっただろう。ご愁傷様だ。


 魔法の腕に覚えがある2人がこうも簡単に殺される訳は無いはずだが、彼女たちも俺のように寝不足だったから、きっと泥のように眠っていたと思う。抵抗することもできずに殺されるのも仕方無いことなのかもしれない。




 リリフラメルのいた寝室には天井も壁もベッドも焼け跡は無かった。焦げ付いた跡すら無い。

 それはつまり彼女に怒る余裕すら無かったということになる。


 殺人者がとんでもない殺しの腕を持っていたということは考えにくい。

 身体が穴だらけで、首も切断するために何度も切り付けた痕があるからだ。どう考えても人を殺し慣れた者の仕業ではない。


 猛烈な眠気のせいで、彼女は自身に起きている出来事を理解する前に殺されてしまったというのが、有力な仮定話と考えて良いだろう。




 そして、2人が殺された理由は大体はっきりしている。

 昨晩、俺がレオに脅しを掛けたことが原因だ。


 レオに対して、記憶を読み取ることができる者の存在を明かしたのだ。


 皆の前で記憶を読み取ってマテオに関する隠し事を丸裸にしてやろうと提案したことが、やはり彼にとっては余程都合の悪いことだったようだ。




 誰が記憶を読み取ることができるかまでは明かさなかったため、犯人はエリスロースとリリフラメルのどちらが、記憶を読み取ることができる者なのかは知らない。

 故に両方殺した。




 記憶の読み取りに関する話は、レオにしかしていないから彼が犯人である可能性は高い。

 可能性は高いのだが、寝室に戻った後の彼の行動を俺は知らない。


 別の誰かと共謀して襲った可能性もあるだろう。


 2人を傷付けた者への落とし前はつけてやりたい所だが、それなら確実に犯人を見つけてやらなければならない。


 無実の者に誤って手を出すことは、俺の()()に反するからな。




 リリベルは一般人に表情が見えないように位置取りながら、にやにやしている。

 そして、死体を指でつついている。エリスロースは完全に死んでしまった可能性があるから分からないが、少なくともリリフラメルは狸寝入りを決めているはずだ。


 彼女はそれを面白がって、リリフラメルの頬をつついているのだが、正直ヒヤヒヤする。後でリリフラメルが怒り狂っても知らんぞ。




 とにかく、あくまで俺たちは()()を装って、死体をシーツで隠して、皆を食堂に集まってもらうことにした。


 ごく自然に、誰が2人を殺したのかを確認するという()で、話を進めることはできた。


 数々の演劇を見てきたリリベルは、女優顔負けの演技で鼻をすすりながら悲しんでいる振りをしていて、俺はその姿に恐怖すら覚えた。


 小さい女の子だが、しっかりと女だと思った。



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