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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第10章 とある手記に関して
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とある船乗りの死について7

 会話もそれなりに弾んでいたというのに、フリアが突然眠気を訴え始めた。とはいえ、彼女を無理に引き留める理由も無かったので、素直に寝室に戻ってもらった。


 彼女が談話室を出て、その姿が見えなくなることを確認してから日記を開くと、新たな予言が書き込まれていた。


「てっきり、筆者の書く動作が必要だと思っていたけれど、持っているだけでも良かったのだね」

「筆記具を持っていない場合はこうなるのかもな。随分と融通が利く魔導具だな」




 2人で日記の内容を読むと、突然眠気を感じたフリアが2階の寝室に戻ってしまったことが書かれていた。


 その後には、リリベルと幽霊に関する小競り合いしたこと、小競り合いの最中にルーカスが談話室にやって来たことが記されていた。


 文章を読んでから2人で顔を見合わせると、おそらくお互い共に言うつもりの無かった話題が勝手に展開されてしまった。

 リリベルはこの状況を理解しているはずだが、それでも怖い幽霊の話をして不安になることは避けられない。日記の通りに小競り合いが起きた。






「ガハハ! 幽霊が怖いのかい! 随分と大人びてると思ったが、まだまだガキだな!」

「ルーカスさん、声が響いて寝ている人たちを起こしかねないので、もう少し静かに喋ってください」

「おお、悪い悪い。で、何だっけ? せっかくだから聞きたいことがあるって話だが」


 フリアが座っていた椅子に今はルーカスが座っている。

 明るく笑う彼の声は部屋に良く響いた。声の通りが元々良いタイプなのか、注意して声の出し方を控えてもらっても尚、部屋に音が響いてしまう。


「フリアさんの頼みごとを無下にする訳にもいかないんです。だからマテオさんのことについて、もう少し聞かせて欲しいです」


 彼は笑顔で質問を受け入れてくれた。

 だが、やはりというかマテオの話題を切り出した瞬間、一瞬だけ妙な間があった。明らかに何か考えて言葉を選んでいる節がある。


 マテオに関する質問をすればする程、彼に対する俺とリリベルの疑いは濃くなる。




 特に違和感を感じたのは、マテオと最後に会った場所の質問をした時だ。

 その時だけは、常に目尻を下げた自然な笑いから一転して引き攣るような顔で無理矢理笑顔を作っているようだった。


「マテオが消えた最後の航海について、何か知っていることはあるかい? 人伝に聞いたことでも良いから教えて欲しいな」

「いや、分かんねえな。 ああ、いや、他の船乗りから聞いた話があったな」

「どのような話かな?」

「大した話じゃないぜ。マテオが乗っていた船が目的地にいつまで経っても到着しなかったんだ。その船の航路は特別海が荒れやすい場所を通る訳じゃなかったらしいが、とにかく船ごと消えちまったって話だ」


 こうなると何もかも怪しく聞こえてくる。

 一旦質問を否定したと思ったら、人から聞いた噂話を打ち明け始めた。




「だってさヒューゴ君」

「お、おう」


 膝上のリリベルはにやにや気持ち悪い笑みを浮かべながら、俺の胸に頭を預けている。

 フリアと違ってルーカスは俺たちの姿をはしたないとは思わず、むしろ俺たちの仲が良いことを囃し立てていた。


 それが話題を変えたがっているようにも思えた。




 リリベルが笑みを浮かべているのは、俺がフリアの願いごとをどうやって決着付けようとしているのかに興味を置いているようだ。


 多分、ルーカスにマテオについて追求しても俺たちの知りたい答えは返って来ないだろう。

 荒れた海にも出るような屈強な船乗りだ。度胸はある。


 だが、同じ船乗りでも常に不安そうな心情でいる男がこの家にいる。


 レオを強く押してマテオについて聞いてみようと思う。


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