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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第10章 とある手記に関して
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とある船乗りの死について3

 リリフラメルの問いを答えられる者はいなかった。皆が日記を書いていないというのだ。


 日記を追う中で、今まで日記を書いていない者などいなかったはずだ。確かに誰かが日記を書いたと白状していたが、今回だけは誰も手を上げなかったのだ。


 本当に日記を書いていないのか?




「確かに船乗りの中には、航海士でなくても航海日誌を書く奴はいるがな。俺が毎日マメに日記を書く奴に見えるか?」


 ルーカスはそう言うが、少なくともレオは日記を書きそうなタイプだと思う。

 しかし、レオもアルバロもフリアも書いていないの一点張りだ。




 俺たちに居場所を悟られないように、日記が持ち主の記憶を良いように改竄している可能性はある。まだ、彼等の言葉を鵜呑みにすることはできないだろう。




「俺からも質問があるのだが、あんたらは何者なんだ?」


 今度はアルバロから俺たち4人に対しての質問が始まった。

 彼等に明かせる素性は少ない。魔女がいると言ったらきっとパニックになるし、今後の円滑な会話に支障をきたすだろう。


「旅の者だ。隣りにいるこの女はとある良家のご令嬢と言ったところだ。彼女の興味が向くままにここに来た」




 リリベルの金色の髪は、非常に目立つ存在であることを俺は知っていた。

 単に色が明るく見付けやすいという話ではなく、そもそも金色の髪を持つ者は王侯貴族の間でしか見られないからだ。


 国をまとめる王たちの中でも金色の髪を持つ者が王として相応しい。いつからなのかは分からないが、遥か昔からそういった習わしがあった。

 故にその髪色を他の髪色で汚してしまわないようにと、王族同士の婚姻が何度も行われていった。


 だから、そこら辺の町や村で金色の髪の子が生まれることは本来あり得ないし、町中でそうそうお目に掛かるものでもないのだ。手の早い王族が町娘を手籠めにしたというなら話は別だが。




 特にリリベルの素性が気になっているであろう彼等には、想像通りに身分の高い者だと伝えた方が、怪しまれずに済みやすい。


 ルーカスとレオ、フリアの反応は概ね予想通りであった。驚き、態度を改め、言葉遣いが気持ち良くなる。

 だが、アルバロは用心深い性格なのか、態度を改めることは無かった。


「それにしては護衛が頼りなさそうな奴ばかりだな」


 彼に言われて同感する。

 自分で言うのも何だが、俺の見た目は頼りない。物を軽々持ち上げられるような筋骨隆々の肉体も無ければ、アルバロのように顔つきだけで相手をいなす凄みも無い。


 自分で言っていて悲しくなってきた。


「旅の者と言う割には、俺たちの素性を知りたがるし、何か失せ物を探しているようだしな」

「ああ、探し物の旅なのだよ」

「本1冊だけを探す旅か?」

「ただの本じゃないよ。とても珍しい魔道具でね、一族の宝なんだ」


 リリベルが俺の設定に合わせてもっともらしい理由を付け加えてくれた。


「俺たちが盗んだって言いてえのか?」

「違うよ。その本は珍しいだけでなく、たちの悪い魔道具でもあってね。勝手に動き回って、本を持ってくれる宿主を探してしまうのさ。宿主の記憶を違和感が無いようにいじって、日記として本に書かせたり、無意識に持たせたりするのさ」


 陽気なルーカスは大げさに反応しながら笑い飛ばし、レオとフリアはもしや自身が無意識に本を持ってしまってはいるのでは無いかと怯え始めた。

 アルバロは顔つきを変えない。


「そんな勝手に飛び回っちまう物をどうやって探しているんだ」

「魔道具の持ち主は私だからね。魔力の流れで魔道具を探し当てることができるのさ。これでも私は魔法に覚えがあるのだよ」


 リリベルはふふんと鼻を鳴らしながら、人差し指から小さな炎を作って彼等に見せた。余程魔法に縁の無い者たちなのか、彼女にとっては朝飯前の魔法を目にして驚きの声を上げた。

 もちろんアルバロ以外だ。




 表面上は和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気で自己紹介を行った後、しばらくは船乗り特有の冒険譚をルーカスとレオから聞かせてもらった。

 フリアの夫が彼等と共に仕事をしていた時の話も出てきて、最初は気分が沈んでいた彼女も少しはリラックスできているようだ。


 船乗りの身体を借りているエリスロースも、彼の血の記憶を通して船乗りのあるある話に華を咲かせていた。




 話が動いたのは、皆の食事が一通り終わって、食器を片付けようと皆が席を立った時である。




 長机の丁度ど真ん中に大きめの衝撃が走った。皆の驚きが一瞬の静寂となって生まれる。

 その場にいた全員が机の上に視線を移す。




 1冊の古い本が、表紙の文字を堂々と見せつけるかのように平たく置かれていた。


 本の見た目には見覚えがあるのだが、表紙に書かれた題名には見覚えが無かった。


 ただ『マテオ』とだけ記された表紙の文字を見て、頭の上に疑問符を浮かべたような顔色をしたのは、俺とリリベルとリリフラメルだろう。


 だが、残りの5人は明らかにただならぬ雰囲気を漂わせていた。マテオという言葉に何らかの意味があることを絶対知っていると思えた。それぐらいの反応の仕方だった。

 エリスロースも反応したのは驚きだ。




 改めて本を見てみると、見た目のボロさだけで言えば、今まで追いかけてきた日記に間違いは無い。

 その日記が、彼等と関係がありそうなことを考えると、どうやらまだ一悶着ありそうだ。


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