19時間後
「賢者の石を探そう」
兜から顔を覗いた訳ではないが、ディギタルはやつれた顔をしていると思わせる低い声で提案する。
打つ手がないと分かったが故の絞り出すかのような最後の頼みの綱。思い描くどんなことも実現できると言われる魔法石、賢者の石。
燃える死者はリリベルの魔法で対処は可能だ。奴らは圧倒的な攻撃力と再生能力を持つ代わりに、魔法攻撃、物理攻撃に一切の耐性がない。攻撃し続ければ何ということはない。
問題は燃える死者を生み出す牙の生えた壁の存在だ。壁は通路に一切の隙間なく最奥へ向けてせり出して来ている。
そして、壁は魔力を吸収しているようで壁及び壁付近にいる燃える死者への魔法攻撃は威力が減衰して致命傷を与えられていない。
リリベル曰く、彼女1人であれば相手することが可能らしいが、黄衣の魔女以外の普通の生命体が邪魔で存分に力を発揮できないそうだ。実際そうなのだと思う。
俺も含めた普通の生命体が生き残るためには賢者の石を探すしか打開できそうな道がない。
しかし、ここでも反対する者がいた。
「ディギタルさん! 賢者の石を探す時間より、この魔法トラップの第3段階を解除する方法を探す方が良いですよ!」
「賢者の石を得る為の記述は既に分かっている。俺とダナで色々試してみるから、ジェトルは魔法トラップの解除方法を探してくれないか」
「しかし……!」
「イゼアとヴィルオーフは多分死んだ。今まで以上になりふり構っていられないんだ」
ジェトルはなぜかディギタルに食い下がっている。
俺は最奥の部屋からただ1つ繋がる、人が1人通れるかどうかの細い通路に黒盾を構え炎の波を防御している。
俺の後ろにリリベルがいて、雷の魔法主体で少しずつ近付く燃える死者を無限に殺し続けている。
その更に後ろにはシェンナが魔法による青白く光る防御壁を張り、最奥の部屋に熱波が襲わないように防いでいる。
俺とリリベルが突破されれば今度こそ調査隊は壊滅する。
何より俺も焼かれて死ぬのは嫌だ。
呼吸で肺を焼かれる痛みに耐えながらも、俺は前の敵を睨み続ける。




