不死にして魔女6
踏み鳴らす者が通った国とその周辺国は、しばらく荒れることになるだろう。というよりかは既に荒れている。
国王も死に国民の大半も死んだルミシアとロンドストリア国は、領土拡大を目論む周辺国から攻撃を受け、周辺国同士の争いにまで発展している国もある。
戦争に参加することを趣味とする紫衣の魔女は、今、正に趣味を謳歌するために国の用心棒として参加し、名のある魔法使いや軍人と戦いを繰り広げているらしい。
帰路に着くまでに寄った酒場での噂話では、いずれ大国レムレットが各国に介入して争いを収める動きがあるらしい。
帰るに当たって苦労したことは、借りた馬車が壊れてしまって弁償のために金貨をエリスロースに届けてもらったことだろう。
俺の血を彼女に分け与えることで、俺の記憶を読み取りどのような顔をした者と取引をしたのか彼女は知ることができる。俺たちが馬車を返さなかった時のことを考えてリリベルは余分に金貨を渡していたはずだが、商売道具である馬車を壊した詫びとして俺から頼んで渡しに行ってもらった。
エリスロースにはとても面倒なことを頼んで悪かったと思っているが、引き受けてくれて正直助かった。
その後俺たちは本来の目的である、地獄の王ゼデの探し物を届けにノイ・ツ・タットへ赴き、例の巨大な水晶を通して彼に返却するに至った。
どうやら地獄は今、急激に増えた魂の処理にてんやわんやしているらしく、地獄の王たちの雰囲気も最悪らしい。特に地獄2層の王ヤヴネレフは、他の王たちを管理する立場でもあるため、殊更に苛立っている様子らしくゼデが「つまらんつまらん」と連呼していたのを覚えている。
人間だけでも千や万できかない程の数が死んでいるのだから、動物や虫の命まで含めたら途轍も無い魂が向こうへ行ってしまったのだと想像できる。
そして、1度家に戻った俺たちは、身支度を整えて魔女協会の本拠地に向かった。
長い旅をするに当たって1台の馬車を借りて、そこに必要な荷物を積んでいった。
ちなみに馬車とは言ったが、正確には動物の馬では無く魔物が荷を引く魔馬車と呼ばれる物らしい。魔馬車を見たことは過去に何度かあるのだが、その呼び方までは知らず乗ったことも無かった。
一角馬ヴィルケと呼ばれる魔物で、動物の馬より何回りも大きく、人間の肉体で物理的に制御することは不可能だ。
ただし、上質な魔力を求め、自身が認めた魔力の質を持つ者に対して敬意を払い従う習性があるため、黄衣の魔女であるリリベルの魔力を定期的に与えることで、制御が可能となる。
故に引く荷台に関しても材料を頑丈な物に変えたり、荷台そのものを大きくすることができる。
とにかくそこにありったけの荷物を積んだ。
魔女協会の本拠地である魔女聖堂は、過去に彼女が無視していた魔女会の招集状を使って向かった。
聖堂に行くためには様々な方法があるが、招集状に込められた移動の魔法を使って移動することが最も楽で早い方法だろう。
碧衣の魔女セシル・ヴェルマランの情報によって、この日魔女会が開催されることを知った俺たちは、敢えて乗り込んだのだ。
セシルには感謝していると共に申し訳なさを感じる。別れ際にはしっかりとお礼を言いたい。
「リリベル、最後の確認をさせてくれないか。その、本当に良いのか?」
「うん、行こう」
多くの魔女が聖堂へ向かおうとする俺とリリベルに視線を突き刺してくるが、構わずリリベルは笑顔で突き進んで行ってしまう。
彼女に遅れないように、彼女の騎士であることを示すように俺は彼女の左後ろを付いて行く。




