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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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不死にして魔女5

 2人から貰った魔力で生み出したものは、踏み鳴らす者(ストンプマン)だ。


 過去に俺はリリベルを具現化したことがあった。

 頭の中で強く想像された俺にとってのいつもの彼女が、そのまま形となって魔法の詠唱さえしてみせた。

 まるで心を持っているみたいだったことを今でも強く記憶に残っている。


 だから今度は、俺が頭の中で想像する踏み鳴らす者(ストンプマン)を具現化してみた。

 それは、俺たちに怒りを向ける()()()()()()怒りを向ける巨神だ。頭の中では、俺が生み出した巨神が、目の前の巨神の顔を思い切り殴り付ける姿が出来上がっている。




 嵐のように風吹く黒いもやがあっという間に遥か高く空まで昇り、そして形作られていく。


 奴に先手を打たれる前に、想像していた踏み鳴らす者(ストンプマン)は殴る前の体勢に整えておいたが、徐々に具現化されていくそれは俺の想像通りの状態になっていた。


 巨大すぎる山が北側の景色をあっという間に占拠して、空に轟音を響かせる。




 リリベルの手が強く握られて思わず彼女の方を見ると、彼女はこんな時でも踏み鳴らす者(ストンプマン)に興味が無いことが分かった。

 視線の先は未だ俺を映していたようだ。


「すごい、すごいよ。想像力を正しく形にできる人間なんて、そうはいないよ」

「2人の魔力があってこそだ」


 謙遜してみせたら、さも嬉しそうに彼女はふふんと鼻を鳴らしてきた。




 具現化した踏み鳴らす者(ストンプマン)の拳は、轟音とも呼べる風切り音を鳴らしながら、ゆっくりと、しかし速く北に向かって振り切る動作をした。




 何が起きているのかはこの目で確認はできないが、彼の動作がひとしきり終わったその直後、心臓が止まるのではないかと思うぐらいの衝撃音が身体全体に伝わったことで、踏み鳴らす者(ストンプマン)が殴られたことが分かった。




 いくらすごい魔女の魔力を貰って偽物の踏み鳴らす者(ストンプマン)を具現化したとしても、この巨体を維持し続けることはできなかった。


 すぐに身体が黒いもやに変わり、足から頭に向かって徐々に形を失っていく。


 もやが晴れて徐々に夜空が透明に切り替わっていくと、その奥にいる本物の踏み鳴らす者(ストンプマン)が現れた。




 落石と呼ぶには余りに巨大過ぎる。


 流星のように砕けたいくつもの大地が四方八方へ広がって行く。


 偽物の拳が本物の上半身を確かに砕いてくれてホッとする。


「お前、すごいな。本当に……」


 リリフラメルが夜空を見上げながら、怒りの感情に支配されやすい彼女から感動にも似た言葉を紡ぐ様子に、俺の方が驚いてしまう。

 だから、彼女は俺の手から離れて放り捨てられた人形のようにべしゃりとその場に倒れてしまった。




「けれど、夜衣の魔女がもしも魔法を詠唱する振りして、あたかもあの女が倒したかのような状況にされたら……」


 リリフラメルの心配はもっともだ。

 夜衣の魔女に出し抜かれることは想定できていた。


 だが、俺とリリベルは安心して砕かれた巨神を見ていられる。

 ()()を信頼しているからだ。


 俺とリリベルは()()に助けを求めた。




 夜衣の魔女が監視していたのは、俺とリリベルだということは分かり切っていた。

 俺とリリベルの仲を知っている奴は、俺たちが物事を決めていると思っている。そのことに間違いは無い。


 だから奴はエリスロースの監視なんかするつもりが無かった。そもそも奴にエリスロースの監視なんかできない。

 エリスロースの本体はあくまで血そのもので、血だけで移動できるし、他者に乗り移って操ることさえ可能とするのだ。彼女の大量の血の1滴1滴を監視するには、夜衣の魔女は余りに凡人すぎる。




 今、目の前には、夜衣の魔女によって奪われた多くの血が、地上から夜空へ向かって雨のように降り注いでいた。

 肉眼ではっきりと見える程の無数の巨大な血の雨が、先を鋭く尖らせながら上昇し、四散する大地を砕き、絡め取る。




 夜空の下では、赤い液体も暗く影にも見えてしまうかもしれない。

 だから、リリベルの雷魔法で踏み鳴らす者(ストンプマン)を照らしてもらおうと思っていたが、どうやらその必要も無いようだ。


「夜明けだね」




 遥か遠くから差し込まれた光が、血を照らし(あか)を強調してくれた。


 魔女協会の魔女たちも、周辺の国の人たちも、あれだけの高さで繰り広げられている血と踏み鳴らす者(ストンプマン)の破片との戦いを見逃すことは無いはずだ。




「聞いているか、夜衣の魔女。アレが、お前が無作為に殺してきた者たちからのプレゼント(ふくしゅう)だ」


 この山にも差し込み始めた光によって、影がまるで悔しそうに引いて地面から去っていった。


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