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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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不死にして魔女2

「やけに勘が鋭いな。少ない情報で良くこうも想像が膨らむものだ」


 リリベルの独特な賞賛の仕方に対して、リリフラメルは細目で俺を睨み付けて毒を吐いてきた。

 責め立てられても、そう思ったものは思ったのだから仕方ないじゃないか。


「ヒューゴ君は私より素晴らしい閃きを持っているのだよ」

「そんなものなのか?」

「そんなものさ」






 南側はまだ踏み鳴らす者(ストンプマン)の影響を受けておらず、いくつか山が残っている。

 その山々の中で、最も背の高い山に向かって俺たちは闇の中を駆け抜けている。


 途中でリリベルの雷魔法を使った無茶苦茶な移動方法で移動を短縮したため、山の頂上は既に見えている。踏み鳴らす者の1歩からも逃れることができて、無駄な死を遂げることから避けられて一石二鳥である。


「ところで! あの赤い奴はどこに行ったの!」


 リリフラメルが言う赤い奴とは、恐らくエリスロースのことだろう。そういえば、ドラゴンもどきから落ちてから彼女に会っていない。

 目まぐるしく変化する状況について行くのが精一杯で、彼女のことをすっかり忘れてしまっていた。申し訳ない、エリスロース。


「ああ。彼女なら血を集めに行ったよ!」

「集めるのは良いけれど、まさかことが終わってから来たりしないよな!?」


 踏み鳴らす者(ストンプマン)を止めて、夜衣(よるえ)の魔女を出し抜く最後の最良の機会を逃す訳にはいかない。エリスロースがやって来なかったとしても、俺たちは名も知らぬ山の頂上を目指さなければならい。


 東の空の果てがほんの僅かだが、白い光を伴って夜を輝かせている。

 踏み鳴らす者はルーブラントに足を踏み入れており、踏み込んだ先は魔女たちが集っている場所か、ルーブラントの民が集まる町かのどちらかが壊滅しているはずだ。


「ヒューゴ! 1つだけ言っておくけれど、私を怒らせるために両親の話をすることは絶対にするな!」

「無理だ! 必要とあれば、俺はお前を苦しめるつもりだ! 嫌なら新しい生き甲斐を見つけた方が良いと思うぞ!」

「お前……嫌な奴になったな!」


 そりゃどうも。




「待ちなさい」


 歩き辛い山道を進む道は限られている。

 歩きやすい道をゆっくりと吟味する訳にもいかないから、がむしゃらに突き進んでいる訳だ。その行手を遮る形で影が姿を現す。


 夜衣の魔女の弟子、モズッキが夜のようなマントを照らしながら、そのまま地面の暗闇が全て(めく)れ上がる。


 真っ黒な波が下り坂を利用して勢いをつけて此方に迫り来る。

 止めたのはリリフラメルだ。


噴火(ヴァルカン)!!』


 地面から火が噴き上がり、黒い波に衝突し流れを変える。

 その隙に俺は黒鎧を纏い、盾を構える。詠唱をする必要が無いと分かっても、癖になってしまった詠唱を口にするとリリベルに揶揄われてしてしまった。


「夜衣の魔女に貴方たちの企みを阻止するように言われて来たは良いですが、3対1は分が悪いですね」


 モズッキの言葉を聴きながらも歩を止めることなく、俺たちは突っ切ろうとする。

 リリフラメルの炎に近付いても尚、モズッキが平気でいられるのは、彼女の周囲に影が覆っているからなのだろうか。

 蠢く影と蠢く炎がぶつかり合うという、見たこともない景色が左右で繰り広げられている。リリフラメルの炎が俺たちのもとに影が侵入しないように、常に足元を照らしながら道を切り開いてくれている。


「それなら、3対3に持ち込もうでは無いか」


 真後ろから、しかも土の下から男の声が聞こえてきた。不意打されては不味いと俺が振り返ろうとするよりも早くリリベルの雷が真後ろに向けて飛び放つ。


「さすが世に名高い黄衣の魔女。何と強き女か!」


 雷に遅れて振り返って確認した彼の姿は鎧を着込んでいて、顔は肌を晒していた。

 そこいらの兵士とは違う装飾の入った位の高い者が着ていそうな鎧だった。


 そして見たことのある鎧だ。

 ロンドストリアのブライデ。ルミシアという国を助けるために軍隊を率いていた者で、踏み鳴らす者(ストンプマン)の1歩に殺されたと思っていた。


 生きていたことも意外だが、彼が鎧と共に影を身に纏っていることの方がもっと意外だった。



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