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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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最善にして最良6

 彼女から紡がれたのは俺の知らない俺自身のことだ。


 俺には3つの契約が彼女と交わされている。


 1つ目は、使役の契約だ。

 成り行きで彼女の騎士になると決意した時に交わした契約で、彼女の魔力は無条件で俺が使用できるようになる契約だ。

 魔女が他人に名前は御法度とされているのは、使役の魔法を詠唱されて自身の魔力を奪われ、操られる危険性さえあるからだ。

 だから彼女は最初、リリベル・アスコルトという名を明かすことをやけに躊躇っていた。


 彼女のたった1つの興味本位が、使役の魔法を俺に使わせるという行動に至った。

 俺は今の今まで、彼女の魔力を使って魔法が使えるのは、彼女の匙加減のおかげだと思っていた。彼女に拒絶されれば魔法が使えなくなると思っていたが、むしろ彼女に拒絶する権利が無いのだ。


 あの時から彼女は俺に身を捧げていたのだ。




 2つ目は、魔女の呪いだ。

 ノイ・ツ・タットで俺は1度死に、俺の死が確定することを恐れたリリベルは俺に不死の呪いをかけた。

 俺はこれからずっと、呪いが解かれるまで死ぬことは無い。

 不死が呪いと呼ぶに値するのかと考える者もいるかもしれないが、彼女の話を聞いて正しくこれは呪いだと俺は思った。


「不老ではないんだ。最後の最期、老いて老いて年老いて皮も肉も臓物も干からびて、自然な死が訪れても尚、私たちは死なない。死ねないんだ」


 病や怪我等のあらゆる死の可能性を避けたとしても、命ある者が必ず辿り着く死。確か老衰と呼んだだろうか。

 彼女の想像ではあるが、おれたちが老衰に辿り着いた時、おそらく無限の生死の繰り返しが起きるだろうと考えられている。

 途切れゆく意識が永遠に続き、死ねない身体に魂が留まり続け、世界が終わってもそこで生死を繰り返すだけの存在になる。例え身体の機能が止まって全て腐り落ちたとしても、リリフラメルに燃やし尽くされた時と同じように、意識だけはそこに残り続けるのだと思う。


 しかも、呪いの代償として俺が死ぬ度に、リリベルも共に死ぬのだ。彼女は俺以上に死が折り重なって訪れる。

 不死は純然たる呪いだ。




 3つ目も、魔女の呪いだ。

 俺には2つの魔女の呪いがかかっているとリリベルは打ち明けた。彼女の自然な誘導によって、いつの間にか俺はこの呪いを受けていたようだ。


 それは、俺が今まで黒鎧や黒剣を彼女の魔力を使って物を生み出す魔法だった。

 てっきり彼女が編み出した便利ですごい魔法だと思っていた。

 だが、それは厳密には魔法ではなく、呪いによって生み出された魔法のような何かだった。


 俺は、魔力さえあれば、あらゆる物体を生み出す力を得たのだ。想像する何もかもを想像した通りにこの世界に顕現させる力で、魔法陣も詠唱も必要としない。


 代償は、何かを生み出す度に、リリベルが死ぬということだ。

 不死でも痛みはそのまま感じる彼女を、死から遠ざけ守ろうと盾を構え剣を振るう度に、彼女は死んでいる。俺と出会ってから、彼女は凄まじい数の死を遂げている。


 彼女を最も殺しているのは、他の誰でもなく俺だった。




 更にこの呪いによって俺はこの世の者ならざる存在となったことを彼女は明かした。


 大それた願いになればなる程、魔女の呪いを成立させるために必要な魔力はより膨大になる。凡とした魔女では、きっとこの呪いは正しく効果を発揮しなかったと思う。

 だが、俺の主人は黄衣の魔女リリベル・アスコルトだ。魔女でも1、2を争う程の魔力量を持つ彼女だからこそ、呪いは成立した。

 いや、成立してしまったと言うべきだろう。


 魔法を魔法として使うためには、魔力と魔法陣と詠唱の3つが用意されてなければならない。それがこの世界の(ことわり)だ。

 故に、理を大きく捻じ曲げる力を得た俺の存在は、魔女協会の共通の敵とされる黒衣(こくえ)の魔女と同列に扱われることになるとリリベルは言った。




「君に呪いのことを黙っていた理由は、君の優しすぎる心を殺してしまうことを怖いと思ったからだよ。君の決心が、私の悪意で押し潰されてしまわないようにしたかったんだ」


「だから君から尋ねられるまで、私は嘘を付いたり、誤魔化したりしたのだよ」


 平穏に暮らしたいと思っていた頃の俺だったら、きっとすぐにでも彼女から逃げようとしたかもしれない。

 他者と生死を賭けた戦いを行うことなんてまっぴらごめんで、環境が変化することをとても嫌っていた牢屋番の頃だったらな。


「言ったでしょう? 君を守るとね」

「……できることなら俺にもリリベルにも苦痛を与えないで済む契約にして欲しかった」


 彼女を背から覆うように抱き締めて彼女の耳元で小さく言うと、リリフラメルが「不器用すぎるよ、お前たちは」とぴしゃりと言い放った。


 そうだな。リリフラメルの言う通りだ。

 俺も、リリベルも不器用だった。




夜衣(よるえ)の魔女にはきっとこの話は聞かれているはずだから、魔女協会から抜け出すことは避けようが無いと思う」


 いつから俺に狙いをつけていたのかは分からないが、夜衣の魔女はある時から俺の行動を()()()()()()()()()ことを考えると、俺の異常性に勘付いていた可能性が高い。

 リリベルが魔女協会から抜けようと言い出したのは、俺が魔女たちから狙われる前に行方を暗ましたいという思いがあったからだと気付いた。彼女にとっての最善策なのだ。


 さすがにこれは察することができないな。


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