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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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最良にして最善4

 紫衣(しえ)の魔女と緑衣(りょくえ)の魔女とラルルカは、魔女たちの本来の合流地点に先に戻って行ってしまった。

 戻る際に紫衣の魔女がリリベルに対して突きつけた言葉は、彼女の魔女生に大きく関わるもので、俺の心を深く(えぐ)るものだった。


黄衣(おうえ)の魔女よ。お前は、理性的な女だと思っていたが、見当違いだったようだね』


『私が、お前を本気で殺す前に、ここから立ち去れ』


『我々の邪魔をして、もしや、偉大なる者を庇っているとしか考えられぬな。もはやお前を、黄衣の魔女として、魔女協会に置く訳にはいかぬな』


 踏み鳴らす者(ストンプマン)を止めるために、腕をぶった切るという結果をもたらしたはずなのに、彼女はそれを考慮しなかった。

 あの巨神を初めて止めたのは、紛れもなくリリベルやリリフラメルの力であったはずだが、紫衣の魔女たちに攻撃したことで、あっさり帳消しになったような雰囲気であった。


 リリベルは紫衣の魔女に反論する様子が無かったので、それを不思議に思いながら、代わって強く老魔女に抗議したが、全く聞き入れてはくれなかった。


 夜衣(よるえ)の魔女の騎士になろうとしたという話題を紫衣の魔女が聞いてしまったせいで、彼女にとって俺が信用に(あたい)しない人間となってしまったことは容易に想像が付く。


 最早魔女協会に俺の居場所は無いのだな。






「どうだい。不死になった気分は?」


 燃え尽きてただの大地と化した土の上に、俺とリリベルとリリフラメルは向かい合って座っている。


「最悪だな。リリベルを死なせてしまうことも含めてな」

「そうかな?」


 リリベルは顔を傾けて可愛らしく笑った。


「良く考えてみてごらんよ。心を通わせた者同士が時を同じくして、死ぬのだよ?」


「この世界にはきっと、愛し合っているのに共に死ぬことも赦されず、悲運の死を遂げた者たちだっているはずだよ。そんな世界だというのに、私たちは何度も何度も一緒に死んで、一緒に生き返るんだ」


「こんなにロマンチックなことってあるかい?」


 まるで太陽みたいだった。

 彼女の光に、俺の影はより濃さを増したと思ったら、次の瞬間には影が光で掻き消されてしまった。


 それでも俺の心の中に強くこびり付いた影が、彼女を拒絶してしまう。


「リリベルは楽観的すぎる」

「君は悲観的すぎるよ」


 ああ言えばこう言うみたいだった。


「私は君のためなら、この世界全ての死を私が一挙に引き受けたって構わないぐらいの心持ちはあるよ」

「俺はリリベルのためなら、何度だって死んだって構わないが、この呪いを受けた今となっては死にたくない」


 彼女が是と言えば、俺は非と言う。

 向きになって彼女を遠ざけようとしている。彼女の幸を思って、俺の存在が不要だと伝えたくて、つっけんどんに話す。なんと心の狭い男か。


「何と言ったって、私は君が好きだからね」

「……」


 その言葉を否定することはできなかった。

 言葉遊びに気付いた彼女が、俺が否定できなさそうなことを言って俺の返事を待っていた。俺が何を言おうとしているのか、なぜおれが迷っているのかも承知の上で、にやにやと笑っている。


 そして、少しだけ俺の表情を見てから気が済んだのか、彼女がぽつりと呟いた。


「どう? 気は和んだ?」


 茶化して場を和ませてくれようとしたリリベルに感謝せざるを得なかった。彼女は俺の心情を読み取った上で、俺の心の暗さを照らしてしまった。

 彼女にはかないそうにないと、口元が綻んでしまった。




 俺はこのほんの僅かの間に起きた多くのできごとを打ち明けた。


 踏み鳴らす者(ストンプマン)は夜衣の魔女が原因で動いているということ。彼女が『歪んだ円卓の魔女』になるために、黄衣の魔女の騎士である俺を迎えて箔を付けようとしたこと。

 できる限り詳細にことを伝えた。


 2人は黙って俺の言葉を聞いてくれた。

 俺の話が終わってからしばらくして、沈黙を破ったのはリリベルだった。


「やっぱり、彼女たちを殺せば良かったね」


 彼女は冷たく笑っていた。他人を殺さなかったことを後悔する様は、はっきり言って異常であるが、()()()()だからおあいこだ。


「状況は最悪だ。俺もリリベルも、これから何をやろうとしても、夜衣の魔女によって俺たちの立ち場を悪くさせられるだろう」

「魔女協会から抜けよう」


 瞬間だった。

 俺が言い終わった直後に、彼女があっさりと言ってしまった。『黄衣』という冠を何よりも大事にしていた彼女が、それをいとも簡単に不要だと述べてしまった。

 今までの彼女なら絶対にあり得ないことだ。


「馬鹿を言わないでくれ。それが一体どういう意味なのか分かるだろう?」

「分かってるよ」


 彼女は俺の確認の言葉を、思い切り肯定した。


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