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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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最善にして最良2

 リリフラメルは正気を保ったまま怒り狂っている。

 彼女の青い炎は見る分にはとても綺麗だが、綺麗だからと言って近付いてはならない。近付いた者は誰をも焼き尽くしてしまう。


 リリベルの教育によって、彼女の炎が無差別に誰かを焼き殺さないように、炎と熱を操ることができるようになったが、それは彼女の理性が保たれている間だけの話だ。


 本当に心から怒る者は、一々怒りを制御なんてしない。彼女の全力の炎を生み出すために、本当の意味で憤怒してもらうためには、彼女と俺との関係だからこそできることがある。




 今の状態でも存分に力を振るおうとしているリリフラメルの前に立ち、相対する。


 ギラついた目線が俺に突き刺さり、睨まれただけでも身体を燃やされたような感覚に陥る。


「ヒューゴ、私に近付くな」

「リリフラメル、最初に謝っておく」


 彼女に事情を話す訳にはいかない。

 俺が彼女を怒らせる目的で暴言を吐いたと彼女に事前に教えてしまっては、彼女の怒りを増幅できない。


 壊れかけている俺の良心をぶっ壊すことに躊躇いは無い。

 俺は彼女の良心を破壊しようとしているのだから、自分の良心の心配なとしている暇も資格も無い。


「モドレオという幼い国王を覚えているか? お前の親を殺した張本人だ」

「その話はやめろ……」


 俺を気遣っていた炎が、一気に俺の身体に降りかかる。

 怒りを具現化したものが、俺への殺気を直接伝えてくれる。


「俺がお前の復讐を邪魔したことも覚えているよな?」

「やめろと言っているだろ!!」


 やめない。


 猛烈な地響きの音は、俺たちの会話をほとんど掻き消しているが、彼女も俺もはっきりと声は聞こえている。

 彼女にとっては聞きたくない話なのに、怒りのせいで他の不要な音を遮断している。


「お前の親は、復讐をやり遂げなかったお前をどう思う!?」


 こんな言葉、言いたくなかった。

 彼女に殺されても文句は言えないな。


 むしろ、殺して欲しい。夜衣(よるえ)の魔女を倒すために、俺まで彼女の位置に堕ちているのだ。踏み鳴らす者(ストンプマン)を止めるついでに俺も燃やして欲しい。


「お前は結局、何もかもが中途半端なんだ!!」

「……!!」


 リリフラメルの怒りは最早、言葉にすることさえ叶わなくさせている。

 彼女の周りの草原は一瞬で発火し、燃え尽きる。


 鎧の中で肉の焼ける音と匂いが立ちのぼる。

 溶けた鎧が腕や足に取り付き、肉を焼き尽くそうとしている。一瞬で蒸発しないでいられるのは、魔法の防御壁の役割がこの鎧にあるからだが、それが逆に中途半端に痛みを引き伸ばしている。


「適当な理由をつけて、逃げているだけだろ!!」

「だあまぁれえ!!」

「黙らせてみろ!!!」


 青い炎が1つに凝縮されている。

 遠くから名のある魔女たちの魔力が、リリフラメルに集約されている。与えられた魔力は彼女の頭上に展開され、炎の球体となる。


 まるで小さな太陽だ。

 青い太陽は徐々に大きくなり、彼女の身体を優に超えていく。

 灼熱は周囲に爆風を巻き起こし、青い小さな太陽自身が陽炎を生む。太陽の先の夜空が酷く歪んでいる。


 不気味ながらも美しかった。

 その炎に見惚れて直視してしまった瞬間、眼球が小気味良い音を立てて頬に水分が伝う。


 痛みで叫んではいけない。叫びで彼女の同情を誘ってはいけない。




 鎧の背に跳ね飛んで来た石や砂粒が、踏み鳴らす者の腕の接近を知らせている。


 今だ!

 今、この時が彼女の炎を解き放つ最良の瞬間だ!




「やってみろよ!! 腰抜け――」

青い(ブラウアー)!!青い(ブラウアー)!!月曜日(モンターク)!!!』


 青い太陽が爆発した瞬間を最後に、俺の身体が跡形もなく消し飛んだことを自覚する。

 不思議なものだ。身体なんか何も残ってないのに、意識だけが残っているなんて。




 俺は意識だけを残したまま青い炎に飲まれ続け、焼き尽くされた後に視界を取り戻し、また焼き尽くされる。


 痛みを感じる暇すら無かった。

 身体すら残らない程に死んだ場合は、意識を保ったままになることを初めて知った。


 点滅する視界は、きっと俺の生死の回数をそのまま表している。


 炎に飲まれたまま、何度も生死を繰り返したまま、彼女に背を向けて踏み鳴らす者(ストンプマン)の腕を確認すると、巨大過ぎて頂点の見えない壁のような腕に青い亀裂が縦に走っていた。




 意識が保ち続けられるのは幸運だ。

 これならリリフラメル自身が青い太陽に直接焼かれないように、彼女の身体の前に盾を顕現し続けられる。


 彼女は不死ではあるが、失った身体は2度と戻らない。ただでさえ彼女に不幸を負わせているんだ。彼女にこれ以上何かを失って欲しくは無い。


 詠唱する口が無くても、盾を顕現できることは不思議だが、今はただ幸運と思って気にはしない。




 そして、巨大な山は男のような悲鳴を上げながら、リリフラメルの炎によって千切れかかっているであろう腕を、自身の腕を振る勢いによって、完全に引き千切った。


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