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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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影にして喧騒4

彩雷(さいらい)!』


 怒り狂ったリリベルから解き放たれたのは、暗闇を覆う草原をジグザグの光で満たす雷だった。

 雷といえば黄色とか白色のイメージがあるが、彼女の雷は色鮮やかでそれ以外に青や紫などの色も煌めかせる。


 光は一瞬で俺たちのもとまで辿り着き、俺たちの姿を照らす。この魔法に関しては明らかに攻撃の意志が無い。

 彼女が一帯を雷光で照らした理由は、夜衣の魔女と弟子のラルルカの影の魔法を使わせないためだ。


 強烈な光が足元から照らされるおかげで、影が消滅する。


「黄衣の魔女!! ムカつく女!」


 ラルルカが1人だけ走り出して、リリベルの光から逃れようとする。




 この場面に来てしまえば、迷う必要はもう無い。

 兜のおかげで視界が完全に雷光に支配されている訳では無い。

 闇雲に走っているラルルカにすぐ追いつくことができて、彼女の腕を掴み取り、その場に留まらせることに成功する。


「離しなさいよ! 変態!」


 当然、彼女からの反撃が来るが、影の魔法しか使うことができないのか、物理的な反撃しか返って来ない。光に包まれてしまえば彼女は無害だ。


黄衣(おうえ)の魔女、攻撃を止めてください! 何度も言いますがこれは誤解です……げほげほっ!」


 白々しく取り繕う夜衣(よるえ)の魔女は、徐々に後ろに下がっている。

 このままでは彼女が光が弱い場所に移動してしまう。


 暴れるラルルカの腹に腕を回して、無理矢理片腕で抱え込んでから、夜衣の魔女へ駆け込む。


「待て、夜衣の魔女!」


 叫んで彼女に俺の存在を意識させ、後ろに逃げることを阻止しようとするが、それよりも前に別の要因が彼女に影を与えてしまった。




 地鳴りと共に、俺たちの周囲を囲むように、木が現れた。

 木々は隙間無く強く絡み合い、高い壁を作って、リリベルの雷を遮ったのだ。

 誰がやったのかは大体見当がつく。草木と会話ができる能力を持つ緑衣(りょくえ)の魔女によるものだろう。


 そして、この瞬間、木の壁の中に影ができてしまった。




 夜衣の魔女が不気味な笑みを浮かべていのが、はっきりと見える。

 邪悪な魔女の足元にあった影は、既に蠢いていて、何らかの魔法を放とうとしていることは確かだ。


 そして、俺が今抱えているラルルカも夜衣の魔女と同じく影を扱う。




「離しなさいって……言ってるでしょ!」


 ラルルカに攻撃されるのは承知で彼女を放り投げて、夜衣の魔女に向かって走り出す。

 彼女がここから逃げたら、踏み鳴らす者(ストンプマン)を必ず動かす。必ずだ。


 そして、世界中の夜に溶け込み逃げることができる彼女を自由にさせてしまったら、彼女を追い詰めることは不可能になるだろう。


 絶対に、絶対にここで止めなければならない!




瞬雷(しゅんらい)!!』

氷点(ゼロ)


 2人の魔女の詠唱が緑衣の魔女の木壁を吹き飛ばす。

 それなりの太さのある木が、小枝でも折るかのように弾き飛んでいく。




 爆音と共に木を貫いたのは、リリベルの雷だ。

 一瞬で閃光が走り抜き、その直後に1人の悲鳴が上がる。


 彼女が放つ雷は、自然に起きる雷とは訳が違って、馬鹿みたいに雷がでかい。

 緑衣の魔女のこの木壁程度では、俺たち全てを巻き込んで木ごと吹き飛ばすはずだ。


 だからこの雷は、俺を気遣っての雷だということがすぐに分かった。




 一方、もう1つの詠唱を口に出したのは紫衣(しえ)の魔女だ。


 淡々と吐かれた老婆の言葉の後に、周囲が真冬になったかの如く冷気が覆う。

 一瞬で身体が芯から凍る。


 放たれた冷気がどのようにしてリリベルを襲うかまでは確認していられないが、今は気にせず悲鳴を上げた夜衣の魔女の腕を掴み上げて、彼女を止めることに集中する。


 おびただしい量の血が彼女の口元から溢れている。

 良く見ると顎が無い。


 夜衣の魔女の顔を貫いた雷は、顎を焼き切り落としたのだ。人体がいとも簡単に破裂する雷の威力からして、確実にリリベルは殺意を持っていることが分かる。




 それで夜衣の魔女の戦意が喪失したのかと思ったが、そうではなかった。

 すぐに彼女の顎から、血に混じって影が生き物のように飛び出たのだ。影は顎の代わりになって、ぐちゃぐちゃと動き出した。


 これでは彼女の詠唱は止まらない。




 紫衣の魔女と黄衣の魔女が横で魔法合戦を繰り広げている今が好機だ。

 できるなら夜衣の魔女を今すぐにでも殺してやりたいが、巨神を止めてもらわなければならない。


 彼女を脅迫する言葉を投げかけようとしたその瞬間、後ろからポツリと呟きがあった。


(よる)(とばり)!』


 ラルルカのその声が、詠唱であることは間違い無い。

 俺の目が何かに刺し貫かれたのが、その証拠だ。

 両目の視界を奪われ、激痛が走る。我慢できない痛みに声を上げてしまうが、それでもこの夜衣の魔女を掴む手を離す訳にはいかない。


 死ぬ気で手に力を込めて、腕の感触を得続ける。


「ヒューゴ君!! くそっ!」


 遠くからリリベルの怒り声が響いて、直後に爆音が飛んで来る。




「まだ、貴方が貴方の魔女に相談もせず、勝手に私の騎士になったことで、貴方の魔女が腹を立てたという(てい)で、この場を収めることができます……ふふっ」

「悪いがお前の企みにはもう乗ることはできない。諦めて巨神を止めろ」

「それなら貴方の良心を極限まですり潰します。答えは『はい』しか受け付けません……ふふっ」


 まだ、俺を騎士として迎え入れることを諦めていない上に、明確に人々を殺すと宣言した。影でできた顎が湿った音を出しながら、それが笑みを浮かべていることがはっきりと分かった。


 邪悪はまだ止まらない。


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