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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第1章 24時間戦争
24/723

1日前 再想

 炎の波が吹き(すさ)び呼吸1つで肺に痛みを感じる。

 俺は必死にリリベルを鎧全体で囲い込み、背中から来る熱を耐え凌ぐ。


 イゼアとジェトルとダナの叫び声が聞こえるが、誰も気にかけて声をかけられない。声をかけようとすると肺に強烈な痛みが発するからだ。

 魔力で作り上げた黒鎧にも限界が来ており、伝わった熱を防御しきれていない。


 炎の波が少し弱まったところで、俺は無理矢理声を張り上げた。肺が滅茶苦茶痛い。


「遺跡の最奥まで今すぐ逃げろ!」


 リリベルを抱え込んだまま、他の誰を気にかける訳でもなく一目散に走り込んだ。最早リリベル以外を気にかける余裕はなかった。

 ただひたすらに無我夢中に走り続けて、人が1人分通れるかどうかの道を過ぎ、部屋の最奥に逃げ込んだ。

 最奥の通路を抜けたすぐ横の壁脇にリリベルと俺は座り込む。既にここまで暖かい空気が流れ込んでいる。


 確信した。魔法トラップは解除できていない。おそらくこれは魔法トラップの第3段階だ。

 しかし、魔法トラップの解除方法はジェトルの読み方とリリベルの読みのおかげで停止したはずだ。考えられるとすれば、出現している鎧の軍隊を全て停止できなかったからであろうが……。


 魔物の群れの時もそうだ。

 後、もう少しの所で魔法トラップの解除ができそうだったのに、次の段階へと移ってしまった。つまり時間切れになったという訳だ。


「回復魔法をかけるから鎧の魔法を解除して!」


 ジェトルが古代文字の解読をもう少し早くできていれば良かったのだが、魔物の群れの時も鎧の軍隊の時も運悪く時間切れギリギリで読み解けてしまっていた。


黒鎧(こくがい)よ、我が身を解き放て』

『ヒール』


 運悪く?


 黒鎧を解除して久しぶりに開けた視界からふとリリベルの服を見る。

 リリベルの服は首元に大量の血が付着している。俺がヘルハウンドに襲われそうになった時に、彼女が庇って首を噛み切られた時の血だ。

 胸元も3本爪で引き裂かれた跡が服にしっかりと残っている。不甲斐ないがそこは俺自身、目の前で確認した。


 じゃあ、この服の胸元より下、胸と腹にある穴は何の傷だ?


 リリベルは何が原因で幾度となく死んだのか?


「リリベル! 意識が戻った時の状況はどうだった!? 何か感じることはあったか!?」

「え、なんだい急に」


 リリベルは俺に回復魔法をかけながら、困惑していた。俺は彼女の肩を揺らし、答えを急かし促した。


「えーと、魔物の叫び声が五月蝿くて、後、胸とかお腹がものすごく痛くて起きたのだったかな」


「だからヘルハウンドに攻撃された瞬間まで遡って、失血死を繰り返しては生き返って――あっ」

「そうだ。死んだ原因が失血死のみでその後生き返ったなら、死なないで済む程度の血の量まで戻るだけだ。仮にその状態で意識が戻ったとしても、とてもはっきりと喋ったり歩き回ったりできる状態にはならない」


 リリベルは片手を俺にかざして回復魔法をかけたまま、目を輝かせて興奮し始めた。


「興味深いね!ヒューゴ君!」


 一体何に興奮しているかまるで理解できない。

 俺が牢屋番として働いていた時、何度も見てきた。リリベルが死んでは生き返ってを繰り返す条件を見てきた。


「誰かがリリベルを殺したんだ」



 ◆◆◆



「ロベリア教授は調査隊に帯同しないのでしょうか?」

「ええ。(わたくし)はここで待機しております。足手まといになりますので」


 ロベリア教授は遺跡近くのハイレにて借り受けた拠点で、待機することになっていた。あくまでこの調査隊の管理者として直接赴くことはないそうだ。

 家の前で俺とロベリア教授は木立に腰掛けてくつろいでいる。


「その代わり調査隊にはその道の精鋭の方々をお呼びしましたのでご安心ください」

「我々を含めて8人でしたか。今この場には7人しかいないようですが」

「古代文字解読者の方が急遽行けなくなってしまいまして……。ただ代わりの方は既に用意していただき今日には到着する予定です」


 こんな急ごしらえの調査隊で果たして上手くいくものだろうか。

 その他にロベリア教授の身の上話などをして時を過ごしていると、新たに馬車がやって来た。


「申し訳ないです! 遅れました! 古代文字解読を専門に研究をしております、ジェトルです!」


 馬車から降りて来た若い彼はジェトルと名乗り、若いなりの元気さがある。年齢は俺と同じぐらいだろうか、顔にシワは見られない。

 本当に急遽呼ばれたのだろうか。彼は手荷物すら1つも持っていない。

 いくらなんでもラフ過ぎやしないだろうかとは思う。


「あれ、確かカトルさんという名前の方が来られるとお聞きしたような……」


 すぐ横でロベリア教授が、俺に聞こえるか聞こえないかぐらいの僅かで小さな声で呟いた言葉が、とても印象的だった。


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