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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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不死にして騎士5

 常人だったら首を千切られて尚その後も生きていられる訳が無い。

 だが、首だけになった俺の意識が強制的な瞬きの後、再び勝手に覚醒したことで、その異常性を知る。


 俺の首は再び身体に繋がっていて、依然として踏み鳴らす者(ストンプマン)が蹴り上げた土と岩石の塊の勢いに身を任せる状況が再開する。


 身体が塊に圧迫されて呼吸ができない。

 何分(なにぶん)、自分が不死だと自覚してからの生き返りは初めてなので、特に感想は浮かばない。「死ななくて良かった」ぐらいの心情は持ち合わせているが、それでも「うおお! 生き返った!! やったぜ!!」程の歓喜はやって来ない。


 不死に対する心象がそれ程良く無いのは、リリベルのおかげだろう。

 彼女は他人が簡単に想像できないような、あらゆる痛みを味わって死んでいる。物理的な痛みならず、精神的な痛みも味合わされて、それでも尚心が死んでいないことには、尊敬を超えて畏怖すら感じる。

 俺が彼女の立場にあったとしたら、とっくにどこかで心が壊れて、まともな言葉すら吐くことはできなかったかもしれない。


 だから、リリベルの心の強さがあってこその不死なのだと思う。

 1つ決心を固めても、外からの圧力で簡単に揺らいでしまう心の弱い俺には、不死は本当に「呪い」なのだ。


 不死についての感情を心の内で吐露している間に、関連してリリベルの言葉を思い出す。

 彼女は『魔女の呪い』の代償として、俺が死ぬと同時に彼女も死ぬと言っていた。


 俺に対する呪いで、まさか他者である彼女に影響が出るとは思わなかった。

 だから辛い。

 俺のせいで彼女が苦しむ状況になっていることが、とても辛い。

 俺は偉大な魔法使いでもなければ、伝説の戦士でもない。


 吹けば楽に飛ぶような弱い男であるから、ただでさえ地獄のような痛みを味わってきたリリベルに、更なる地獄を味合わせることになるだろう。

 弱い己を克服するために、剣術や魔法の訓練をできる限り毎日欠かさず行ってきたが、どれだけ己を高めようと越えられない壁が存在することを痛い程知っている。本当はノイ・ツ・タットで死んでいたはずの、物語の端役程の実力しか無い男なのだから、この先もきっと何度も死ぬ。


 彼女の苦痛を少しでも取り除きたいと思って、彼女の騎士になったというのに、この(ざま)だ。

 俺自身が彼女を殺す敵となっているじゃないか。


 ほら、こうして勢いを徐々に失った土と岩石の塊と共に、大地に激突してまた俺は死を迎えた。

 きっとこの瞬間に彼女も死んでいるだろう。






 大地の震えですぐに目が覚めて飛び起きると、森の中にいた。

 大地と激突してバラバラになっても、まだ巨大と呼べる岩石が近くに散乱しているが、それ以外は前後左右どこも同じ景色で、一体俺が今どの辺りにいるのか分からない。


 ただ、向かうべき方向は分かっている。


 リリベルの魔力を間借りして作る黒剣を、いつもより刀身を短い形で想像してこの手に生み出し、それを木に刺し込む。

 横向きに突き刺さった剣を足場に1段登り、更にまた剣を生み出して木に突き刺し、また1段登る。

 そうして木の頂上付近まで登って、空が見渡しやすくなったところで、踏み鳴らす者(ストンプマン)の位置を確認する。

 奴が1歩踏み出している方向が東だ。奴の向いている方向へ進めば良い。歩いていれば、魔力を感知する能力に長けたリリベルがどこかで俺を見つけてくれるかもしれない。


 大地の震えの原因が踏み鳴らす者(ストンプマン)にあるなら、もうすぐ奴の1歩による影響が此方にも飛んでくることだろう。

 針の(むしろ)になる前に木を降りよう。


 木から降りて頑丈そうな木を見つけてその根本の陰に隠れると、間も無く、突風と無数の何かが木に突き刺さる音がそこら中で鳴り響いた。

 若く細い木は、根本から抜けて簡単に風が吹く方へ飛んで行くのが見える。


 この場面で死ななくて良かったと思う。


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