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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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影にして静寂3

「げっ!!」


 夜衣(よるえ)の魔女が突然、胃の中の物を吐き出すのかと思うぐらいの汚い声を出した。

 そして彼女は急ぎ身支度を済ませ、影の色と同化し始める。


「ルーブラントで待っています! おえぇ!!」


 一体何を焦っているのかと思ったら、彼女は早口で(まく)し立てて影の中に入ってしまった。

 次の瞬間、窓の外から閃光が(ほとばし)った。強烈な光が部屋に差し込み、昼間のような明るさが一面に広がる。


 視界が光で失われたと共に、身体が後ろに吹き飛ぶ。

 光が城に薙ぎ払われたのは、音ではっきりと分かるし、腹や肩に石が当たる感覚でも分かる。身体の中で何かが千切れるような音が頭の中に響き、じわっと身体の内側から熱を帯び始めている。






 光が眩しくて眩しくて、閉じた目蓋からでも眩しさを感じると思ったはずなのに、再び目を開いた時には目の前は全く景色は別のものに変わっていた。


 ドワーフとロンドストリアの兵たちの戦いによって破壊されかけた城は完全に跡形も無くなってしまっている。

 瓦礫の山に対して俺自身に特に怪我が無いのは不思議であったが、近くにいたリリベルと目が合って彼女にまた回復魔法を詠唱して怪我を治してもらったのだと分かった。


 しかし、彼女に礼を言っても彼女はきょとんとした顔で「何のことか分からない」と言ってすっとぼけている。

 奇妙なところで素直にならない彼女を訝しげに思ったが、それよりも先程の光が一体何だったのかを彼女に聞くと、彼女は1つの方向を指差した。


 彼女に意識させられるまで気付かなかった巨大なそれは、踏み鳴らす者(ストンプマン)の足だった。


「いつの間にこんなに距離を詰めて来たのか……」


 ほんの少し前まで踏み鳴らす者(ストンプマン)が誰かと戦っていた場所を見やると、夜が赤く燃えていることに気付く。

 ロンドストリアの西側の景色は、炎で染め上げられていたのだ。


「彼の攻撃の余波がここまで来たのだろうね」


 リリベルは瓦礫の山を歩きエリスロースを探し始める。

 確認できた事象が光と、身体が吹き飛ぶ程の衝撃であったこと以外は何も感知できておらず、一体踏み鳴らす者(ストンプマン)がどのような攻撃を行ったのかは判別できない。

 だが、たった1度の閃光がロンドストリアの西側は蒸発させたことは間違いないのだ。


 まさに神の仕業だ。

 巨大な山を(ゆえ)とする神は、俺たちへの慈悲も無く、粛々と生物を抹殺してみせた。


《生きていたのか。ああ生きていたのか》

「おや、血だけになって出てきたね」


 瓦礫の山の隙間を縫うようにぬるりと出現してきたのは血だった。

 液体であるはずの血が形を成して生き物のように蠢いている。

 血の主はエリスロースだ。


 彼女が血となって俺たちの前に現れたということは、彼女が操っていた兵士はおそらく既にこの世を生きてはいないだろう。


《何が起きたのか分からなかったが、攻撃されたということで合っているか?》

「うん、その通りだよ」

《滅茶苦茶な奴だな……》


 感心しているエリスロースに同調したかったが、感心している場合ではない。


 踏み鳴らす者(ストンプマン)に追い越されないように、早くこの場から去り、東のルーブラントへ向かわなければならない。奴に追い越されたままでは、彼女たちの作戦を遂行することができないのだ。






 もしかして、この巨人は俺たちの意思を読み取っていないだろうな?

 見上げている巨神に、疑いを持ち始めたのはこの時だ。やけに上手い具合に俺たちの成そうとすることを阻止されているような気がしてならないのだ。

 嫌な予感を感じつつも、一刻も早くこの場から立ち去るべく、エリスロースの血の収集を急いでもらう。


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