14時間後
6人の調査隊メンバは、停止した鎧の軍隊を少しずつどかしながら前へ進むことになった。
最奥の魔法トラップの解除方法が分かっただけでも十分な成果で、その情報を一度持ち帰ることが重要だとディギタルは皆に諭し、皆も賛成した。
ジェトルがヴィルオーフを背負いながら、他のメンバが先導する。
進むごとにリリベルがまだ沈黙にかかっていない鎧を魔法で停止させる。至って順調である。
各自がランタンで近くを照らしているものの、それを上回る明るさでリリベルの『彩雷』という魔法で周囲は明るく輝いている。
「しかし、結局最奥まで来ましたが財宝らしき物を見ていませんね。賢者の石もそれっぽい物がありませんでしたし」
イゼアの言うとおり、最奥の部屋は金銀宝石などの財宝があるものだと思っていたが、1つたりともそのような物はなかった。
既に調査隊とは別の侵入者が宝を取り尽くした後なのか、それとも他に隠し部屋があるのか、定かではない。壁一面にびっしりと刻まれていた古代文字がそのヒントになっていたかもしれないが、あの状況ではゆっくりと閲覧できもしない。
「だが、最奥の魔法トラップの第1段階が魔物の群れ、第2段階では鎧の軍隊が出現し、それぞれの対処方法も判明した」
次回の調査時では第1段階の魔物の群れで、ある程度の調査を行うことはできるだろうと、ディギタルがイゼアに語りかけた。
確かに、今回の調査で全ての結果を出す必要もないだろう。今までろくに生還者を出していなかった調査隊が、今回は負傷したという結果だけで済んだのだから。
俺が盾を持って先導する中、すぐ後ろにいたリリベルがまた耳打ちをしてきた。この遺跡の魔法トラップが発動してから俺は黒鎧の魔法を解いていないので、顔は全く見えていないが声色でなんとなく表情は想像できた。
「君の言うとおり、私は先程死んだ。何度かね。それで血を失う前の状態に戻った」
いきなり話の続きに戻るものだから、俺は驚いて若干躓きかけてしまう。体勢を立て直しながら、魔女の騎士として守ると宣っておきながら有言実行できない自分の不甲斐なさに、自分でも自覚できる程に肩を落とす。
そして、そのことにすぐに心を動揺している自分に更に不甲斐なさを見出し自己嫌悪に陥る。
「すまない」
「帰ったら説教だね」
冗談なのか本気なのか受け取りにくい台詞を口にするリリベルは、ふふんと鼻を鳴らした後、再び鎧の軍隊を注視する作業に戻った。
◆◆◆
「音が止んだな」
シェンナさんが剣を手にし、最奥の方の通路を終始注目し続けていたが、音が急に止まった。
皆無事だろうか。
「皆無事かな?」
思ったことがつい言葉に出てしまった。
「分からん」
剣を構えたままでこちらを振り返ってはくれないシェンナさん。
でも仕方ない。シェンナさんは俺より強いから俺より前に出て敵と戦わなくちゃいけない。
「なんだこの音は?」
「え?」
シェンナさんが振り返ってくれた。とても綺麗なエルフだ。
違う、今はそんなことを考えている場合じゃない。
確かに、音が後ろから聞こえるから気になって俺も振り返ってみた。
牙の生えた大きな口がある壁がゆっくりこっちに来てる。
口の中から人間っぽいのがたくさん出てくる。
人間っぽい奴は全身がひび割れていて、ひびから赤白い光が出ている。奴らはまだそんなに近くまで来ていないのに、暑くて熱い。
「ダナ! 持てる荷物を持って私の後ろに下がれ!」
シェンナさんが焦っているのなんて久し振りに見た。
急いで荷物を運ばないと。
「燃える死者だ……」
その名前は絵本で読んだことがある。死んだけれど、誰かに復讐したくてたまらなくて、生き返っちゃった人だっけ。
怖いな。
燃えてる人がなんだか喋ってる気がする。
◆◆◆
今まで散々通路を闊歩していた鎧の軍隊が突如として自壊し、跡形もなく消え去るとディギタルは焦り始めた。
「もしや魔法トラップが第3段階に変化したのではないか」
ディギタルの言うとおりだとすれば、守る場所もないこの通路のど真ん中で止まるのはあまりに危険すぎる。
「急いでシェンナたちの元へ戻ろう!」
一心不乱に俺たちは駆け抜けた。
しかし、遺跡の中心部に戻れば戻るほど、来た時には感じなかった生暖かさを感じるようになってきた。
「なんだか暑くないか?」
俺が疑問を口にした瞬間、前方から2つの光が見え始めた。
敵かと思いそのまま走り抜けようとしたが、光から言葉があった。
「私たちはシェンナとダナだ! 攻撃するな!」
「なぜ2人がこっちに走って来ているんだ!?」
どうやら光はランタンの光だったようで、その内走る2人の光の更に奥から赤く淡い光が浮き出始める。
「燃える死者だ! 私たちのすぐ後ろにいる!」
この閉鎖空間で一直線の熱波が俺たちに襲いかかってくる。




