純血にして鮮血2
城内を歩き回ってクローゼットを漁り、俺とリリベルの身体に丁度合う衣服を見つけて拝借させてもらって、今は落ち着いている。しばらくクローゼットに押し込んだままの衣服だったのか、少々臭いが我慢するしかない。
衣服を拝借したままでは泥棒と変わらないので、書き置きと金貨をそこに残して、俺たちが決して悪意のある泥棒ではないことを、帰って来るかもしれない持ち主に示しておく。もっとも、この血だらけの惨状に持ち主の命が今もあるかは分からない。
「踏み鳴らす者はあれだけ大きな見た目の割に、私たちをしっかりと視認していたね」
「ただ歩いて踏み潰していくだけの怪物かと思ったら、しっかりと攻撃してきたな」
黄衣の魔女の象徴ともいえる黄色のマントを、彼女から無理矢理剥ぎ取って穴だらけになっている箇所を応急処置する。幸いなことに、俺が羽織っていた黄色のマントと色合いは同じなので、此方から布を拝借して上手いこと繋ぎ合わせることは可能だ。
黄色のマントは彼女にとって思い入れのある大事な物である。彼女の命とこの黄色のマントをどちらかしか選択できないという状況になった時に、迷わず彼女は黄色のマントを選ぶぐらいには大事な物だ。
だからマントが破れたりほつれたりした時には、俺が縫い合わせて何とか元の形を保てるようにしている。
リリベルは窓の側に立っていて、外の巨神を眺めながら攻撃の手段を練っている。
日は落ちかけているが、まだ辛うじて巨神が太陽に照らされているのが、ベッドに座って作業している俺からも見えていた。
「途轍もない大地の揺れがあった。おまけに強い風も吹いて岩や何かしらが飛んで来ていたな。ああ飛んで来ていたな」
エリスロースがパンが入っているかごを持って来てくれた。食事を摂る暇が全く無かったのでありがたい。
急いで口にパンを押し込んで、マントの修復を続ける。
「あの大きな人のおかげだよ。私たちの服もご覧の通り穴だらけさ」
リリベルが床に脱ぎ捨てた先程まで俺たちが着ていた衣服を指す。
エリスロースは目だけでその衣服を覗いてから、リリベルにもパンを手渡した。彼女は貰ったパンをすぐに千切って食べ始めて、空っぽの腹を満たそうとする。
「それで、君はアレに対抗する手段を考え付いているのか?」
すると彼女はパンを持ったまま、手を腰に当てて胸を張ってふふんと鼻を鳴らした。いつものやつが始まった。
「まずは彼の動きを止めるべく、彼の足を攻撃する」
「アレに魔法は効かないと言っていなかったか? 魔女である私たちの攻撃手段は魔法が主だ。まさか物理攻撃で足を攻撃しようとしているのか? 君の物理攻撃がアレに通用するとは思えない。ああ思えない」
「ふふん、彼の足を直接する訳では無いさ」
リリベルはパンを一口含み、食べ終わってから喋り、またパンを口に入れる。実に行儀良く食べている。
「落とし穴で彼を転ばせる! げほっ」
リリベルが咳き込み苦しみ始めたので、裁縫を止めて慌てて彼女に駆け寄って背中をさする。
自信ありげに喋りたかったのか、急いでパンをかきこんだみたいで、喉をつまらせてしまった。
そんな子どもらしいところが、どうしても俺の彼女への好意をくすぐってしまう。
いや、そのようなことを考えている場合ではない。
彼女の咳き込みは止まったが、引き続き背中は労って彼女の言葉を続けさせる。
「けほっ……落とし穴を作ってそこにコケさせれば、いくら大きな彼でもその場に倒れざるを得ないさ」
少しだけ彼女の顔が赤くなっているのは、喉が詰まって呼吸がままならなくなってしまったからではなく、恥ずかしさからくるものだと思う。




